頼もしい(?)協力者 ー1ー
アドミールの呼び方がわからない。ただそれだけのことで彼の部屋の前で立ち尽くしてしまった。
ミラとアドミールは、血はつながっていないけど兄妹であったから今の私は彼のことをお兄様と呼ぶべきなのだろうか。そういえばマリオスだって、ミラからしたら兄にあたるのだから――私もあいつのこともマリオスお兄様とか呼ばなくてはいけない……!?
すごい嫌だ。アドミールは置いといておくとしてあの人を”お兄様”とか呼びたくない。お兄ちゃんでも兄でも兄貴でも嫌だ。なんでも嫌だ。
ちょっと待って、私今までスカーレットレイクの人たちを何と呼んでいたっけ?公爵のことをまさかお父様と呼んでいたわけないし……。
(……というかミラは彼らのことをなんて呼んでいたの?)
呼び方なんていままで何にも考えていなかった。
学園ではもともとミラはまともに交友関係を築いていなかったから、私がミラと成り代わってからも不思議がられなかったのだろう。しかし仮だったとしてもミラの家族はどうだろうか。流石に怪しまれてしまうだろうかもしれない。
いやでも、夕食会の後に執務室に呼び出された時は何も言われなかった。あのときは緊急事態みたいなものだったから、特に3人も気づかなかっただけかもしれないけど……。
それに、ミラと彼らの関係値はほとんど他人と言っても差し支えなかったのではないのだろうか。それならば、気づかれるとか考えなくていいのかも。
「何をしているんだ」
「え!あ……」
扉の前であれこれと考えていたら、突然目の前の扉が開いて、部屋の中からアドミールが出てきた。
「……こんなところで何をしている」
相変わらず、彼が何を考えているのかわからない。
早くどっかに行けと開口一番に言われなかっただけマシだろうか。
「その、おにい――いえ、アドミール様に相談したいことがありまして……」
そう言った途端、アドミールの眉間にしわが寄った……気がした。
マズイ……何かまずいことを言ってしまっただろうか。それともやっぱり、彼自身も私に対して敵意とかそんなものを感じていたりするのだろうか。
賭けには失敗したか――と思いすぐにこの場から立ち去り、次の算段を頭の中で立て始めたが、予想に反し、アドミールは身体を横にずらして部屋の中に入るように促してきた。
「え……?」
「入らないのか?私に何か言いたいことがあるのだろう?」
「(いいの?!)し、失礼します……」
部屋の中に入ると、中にあった柔らかそうなクッションがついている一人用の椅子に座るように言われた。室内の雰囲気は公爵がいたあの執務室に少し似ているけど、それより本がたくさん並んでいたり、紙の資料が机の上に積まれていたりと物が多い印象がある。
忙しい時に来てしまったのかもしれない。
「それで、相談とは?」
横目で部屋を物色していると、アドミールはさっそく本題を振ってきた。
いつの間にか、私の目の前にあった机の上に紅茶が置かれていた。どうやら彼が淹れてくれたみたいだ。
(やっぱり、邪険にされているわけではないみたい)
さっきの彼の表情は、私の見間違いか考えすぎなだけだろう。
「実は、私の部屋にあった物が無くなってしまったのです。私の憶測では、何者かが勝手に持ち去ったのではないかと考えているのですが……」
「なんだと?」
アドミールは私の発言に、怒ったような声色を出した。
それは私に対してだろうか、それとも持ち去った奴についてだろうか。
「それは本当か?」
「はい、無くなった物は私がアメシティオーズ学園から借りた本です。ぜっったいに失くすわけにはいかないので、決めたところに必ず置いていました。部屋の外に持ち出すようなことはしていません。念のため、部屋の中をくまなく探しましたが、見つかりませんでした」
フーッと息を吐いて額に手をやるその仕草は、公爵とよく似ていた。困っているのだろうか。
しかし、「本ごときで何を騒いでいるのか」とか言われたらどうしよう。この世界で本ってどれくらいの価値があるのかよくわからない。印刷とかの技術がないのなら、前世よりも希少価値はありそうだけど……。
まぁもし言われたら、「公爵家の中に人の物を盗み出す泥棒が紛れ込んでいます!」と言ってしまえばいい。貴族っていうものは、社会的名誉に重んじて醜聞を嫌うようなものじゃない?私の偏見だけど。
「あんたの家に泥棒が紛れ込んでいるぞ」と言われて無視できるはず、ないよね?
よし、そう言おう。
「い、いいのですか?この家にどろぼ、」
「犯人の見当はついているのか?」
「え?!い、いえ……」
「ならばまずはミラの部屋に近づいた者から探し出す必要があるな……」
「え、」
自分が考えていたよりもあっさりとこの話を受け入れてくれて、それで頼む前から協力をしてくれそうなアドミールの発言に思わず口を開けてしまった。
彼はそんな私をよそに、険しい顔をしてブツブツと何かを呟いている。
「どうした?何か心当たりある人物でも思い出したか?」
「いえ、その、一緒に探してくださるのですか……?」
「……?当たり前だろう」
いやまぁ、そのために私も彼を訪ねたんだけど……、何か小言とか言われるかなと思っていたからとても驚いたといいますか……。
「そういえばお前に専属メイドはいないのか」
「え?多分いないと思います」
「何故だ?必ず父上がお前につけていると思っていたのだが」
知らないそんなの。
え、いるの?
「わ、私の思い違いの可能性もあります。使用人の人たちには、できる限り私がいない間に仕事を済ませてくれと頼んでいましたしーーあ、でも、いつも食事を私の部屋まで運んでくださる人はいつも同じのような気がします。声をよく掛けてくれるので……」
「それは誰だ?」
「わ、わかりません。食事は部屋の外に置いておいてくれと頼んで、食べ終えた後は廊下に食器を出しているので……」
これだけ聞くと、私ってすごい引きこもりみたいな……いや、これは防衛のためだ。自分の身と心を守るための!
「とりあえずその使用人をここに連れてこよう。あまり期待はできないが、ミラの部屋の周辺で何か知っていることがあるかもしれないからな」
「は、はい……!」




