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目覚め ー3ー

 次の日、私はいそいそと登校準備を始め、曖昧になった記憶を頼りに自分のクラスである教室へと入っていった。

 なんとか思い出したけれど、私の教室は2-Bだったのね……。ここらへんの呼び方って前世とそう変わりがないんだ。


 クラスメイト達は私の姿を見るなり、あからさまに声のトーンを下げてヒソヒソ話を始めた。人気者はよく目立つけど、嫌われ者も悪い意味で目立つ。気に食わないなら見なきゃいいのに。


 着席するとベストタイミングでチャイムが鳴った。早く登校して奇異の目に晒され続けるのも嫌だったから、調整してきて正解だった。


 さぁ早く!魔法のことを教えてくれ!


――――――

――――

――


 そして午前中の授業が終わった。

 結論から言うと、全く魔法の内容を扱わなかった。

 そりゃ、この世界にも魔法のほかに学問という概念もあるし、歴史や数学なども学ばなくてはいけない。

 この学園で行われる授業内容を全部確認したが、魔法を使うような授業は実技など含めて全体の2、3割しかなかった。学年が上がるとまた変わってくるみたいだが……。


(そりゃそうだ……魔法だけが使えたって、教養がなきゃね……)


 高橋奈々として学業を修めていたのは10年以上前になるが、一応数学は好きだったからこのくらいのレベルなら「あぁ、こんなんあったな懐かしい~」くらいの感想だ。歴史学も思ったより面白かったし、他の授業もそこまで難しいと感じるものはないので、これくらいならついていくことはできるだろうと感じた。


 けれどもせっかくの魔法を使える機会だと言うのに、それができないとなるともどかしさを感じる。


「ハァー……。せっかく魔法が使えるのに……」


 今は昼食の時間だが、全く食べる気になれない。自分で言うのもあれだが、結構落胆しているらしい。

 お昼休みは1時間程度ある。本来ゲームでは、この時間は好きなように行動できる。攻略対象に会いに行ったり、図書室で勉強したり…………ってそうだ!


「図書室に行けば魔法に関することがわかるかもしれないじゃん!!!」


 教室内に自分の声が響いた。


(……誰もいなくてよかった)


――――――――――


 いいことを思い出したので、さっそく図書室へ来た。

 この時間ならまだほかの生徒は学食や、テラス席などで優雅にしゃべり倒している時間だろう。その証拠に、全くと言っていいほど人がいない。


(ゲームの背景絵でもあまり人が多くは描かれていなかったしね)


 さて、魔法のことについて詳しく知りたいと考えたが、その本をどのようにして探したらいいのだろうか。

 本来なら自分の属性にあった本を探し出すだけでいいのだが、ミラは5つの属性魔法が使えるし、この図書室はとっても広いから魔法だけの本を扱っているわけではない。

 とりあえず見取り図でも見て、どこにどんな系統の本が置かれているか確認したほうがいいかも。

 属性魔法については片っ端から順番に読んでいくとか……?効率悪いかな。


「何かお探しですか?」

「!」


 誰もいないと思っていたため、声をかけられて驚いてしまった。

 振り向くと、いつぞやの天使みたいな人が立っていた。


「ごめんなさい、また驚かせてしまいましたね」

「いえ、こちらこそ騒いでしまって……」

「声をかけるか悩んだのですが、昨日のことが気になってしまって……体調の方はいかがですか?」


 優しく微笑む姿が本当に天使にしか見えない。

 前世の記憶が戻ってから1日と経っていないけど、この人みたいにこちらを気遣ってくれる人を見たことがない。保健室の先生は除いて。


「その節は本当に感謝しています。保健室にいた先生から聞きました、カルティエ嬢、ですよね?」

「申し遅れました。私は伯爵家のぺーシュ・エラ・カルティエと申します。私のことはぺーシュとお呼びください、スカーレットレイク公爵令嬢」


 この人は私がミラ・スカーレットレイクだと知っていたのか。いやでも学園の嫌われ者だし、その前に公爵令嬢だから有名なのは当たり前なのかも。

 それでもこの人のように丁寧にお辞儀をして自己紹介をしてもらったのは初めてだ。

 うん、やっぱりいい人。


「スカーレットレイク様はどうしてこちらに?」

「私のこともミラとお呼びください、ぺーシュ様。ここには少し調べ物がありまして……」


 こちらだけ姓で呼ばれるのはなんとなく居心地が悪かったため、名前で呼んで欲しいと言うと彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。

 ぐッ、喜ぶ姿も可憐で可愛らしい……。


「ぺーシュ様もよく図書室を利用なさるのですか?」

「私は図書委員を務めさせておりますので、今日の昼食は軽食にし、急いで委員の仕事をしに来たのです。なのでミラ様を見かけたときは驚きました」


 ペーシュの一言に、ドキリと心臓が鳴った。

 私は教室で物思いにふけって、昼食を取らずにすぐに図書室に向かった。そのせいで図書委員の彼女より早く着いてしまったのだろう。もしかすると、まだ図書室を利用してはいけなかったのかもしれない。


「も、申し訳ありません。まだ利用してはいけなかったですよね」

「そんなことはありません。この学園の生徒の方ならいつでも利用できます」


 あ、なんだ……安心した。


「それでお探し物とは何でしょうか?よろしければ手伝わせてください」

「でも、お仕事のお邪魔になってしまうのでは?」

「それでしたら御心配には及びません。今の時期でしたら、ただカウンターで貸し出しのやり取りをするだけなので、結構暇なんです。……それとも、ご迷惑でしたか?」


 ハァッ!可愛い!不安そうな眼差しもすごい加護欲が湧いてくる。

 ペーシュの身長ってミラより高いけど、なんというか小動物みたいな雰囲気がある。

 もちろん彼女の身長がとっても高いってわけではなくて、ミラの身長がとっても低いのだ。


「そ、そんなことありません!それではよろしくお願いします」


 ペーシュの申し出はこちらにとって大変ありがたいものだった。

 探し物をするならそれに詳しい人から話を聞くべきである。

 とりあえず、今私は魔法について詳しく書かれている本を探していると伝えた。

 属性魔法を尋ねられたとき全てだと答えると、ペーシュは驚いていたが、白魔法についてなら自分もよく探しているからおすすめを持ってくると言って探しに行ってくれた。

 優しい……。


 しかしここまで優しいと、少し疑いたくもなる。

 別に前世から疑心暗鬼だったわけではない。ただ、ミラとしての記憶に出てくる人たちが碌でもない人たちばかりなので、とりあえず今の私に関わろうとする人をすぐに信用するのは少し不用心かと考えてしまう。


 ので、本を探している感じで物陰からそっとペーシュの様子を覗き見てみることにした。

 保健室の先生の話とペーシュの発言から推測するに、彼女の属性魔法は白魔法だろう。

 主人公と同じだが、彼女がヒロインでないことはもちろんわかっている。

 主人公の見た目はショートヘアの茶髪に翡翠の瞳だ。

 ペーシュはロングヘアの銀髪に薄黄色の瞳だから全く違う。

 そもそも属性魔法はだいたい等しく分かれている。

 若干の偏りはあるらしいが、日本人でいう血液型みたいな比率みたいなものだ。

 つまり、ヒロインの属性魔法が白魔法だったからと言って、それ自体が特別というわけではない。

 この世界で重要視されるのは魔力量だ。


 ペーシュは私のために、真剣に本を探している。

 おすすめがあると言っていたが、すでに手に2、3冊ほど本を持っている。これで5冊くらい持ってこられたらどうしようか。


 流石にここまでしてくれる人を疑うことはできない。

 踵を返して、私も本を探すことにする。

 近くに緑魔法についての蔵書が並んでいたので、勘で面白そうな本を手に取って呼んでみる。


(緑は身体強化系の魔法だったな……)


 ページをペラペラとめくって、流し読みで中身を読んでみた。てっきりゲームの登場キャラが、戦闘で使っていた魔法しかないのかと思っていたけど、色々な魔法があるものだ。

 

 身体強化の魔法って……足が速くなるとか、遠くまでよく見えるようにするとか……そういうのもあるんだな。


「一時的に体力が減らないようにする魔法……」


 どうやらこの魔法は、とてつもない魔力が必要そうだ。

 多分私には使えない魔法だろうな。


「何か良い本が見つかりましたか?」

「ペーシュ様、…………その本の量は?」


 ニコニコと笑顔を浮かべて私を呼ぶ彼女が抱えていた本の数は、ざっと見て7、8冊ほどだ。

 しかもどの本もそこそこ分厚いから、あんな細腕でよく持てるものだと感心してしまう。

 私の驚いた表情を見たペーシュが、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「その……わかりやすくて、参考になるものをと考えていたら、これらかと思いまして……この本の中からミラ様が読みやすいものを選んでいただこうかと」


 うーん!感謝!


――――――――――


 午後の授業を終えた後は、すぐに寮へ戻ることにした。

 ペーシュからお勧めされた本の中で、1番わかりやすいと感じた本と、自分で見つけた緑魔法について書かれた本の2冊を図書室から借りてきたので、しばらくは自室で静かに読み耽ろうと思ったからだ。


 ペーシュと別れるとき、彼女はまたこのようにお話をしたいと言ってくれたので、その申し出をありがたく受け入れた。

 本人がどう感じているかはわからないが、これは友人となったといってもいいのではないだろうか?

 人と関わるのは極力避けようと思っていたが、ペーシュのような完全無害と思える人とは別にいいだろう。

 というか、ペーシュが可愛すぎてこちらに向かってくる姿を見てしまったら、拒否することができないだろう。

 多分、いや絶対に。


 そういえば、授業を受けているときにも思ったのだが、私の持っているノートや教科書は書き込みや折り目もなく、新品同様だった。以前の私ったら、あまり勉強に力を入れていなかったようだ。

 魔力が少ないってバカにされてたし、本人も自覚している部分があったから、勉強全体にあんまりやる気が起きなかったのかも……。

 もったいないことをしたものだ。

 まあ、それも今から挽回すればいいことだ。

 

 さっそく魔法の勉強を始めるぞ!

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