油断ならない夏休み ー1ー
昨日のことから心機一転、今日はゴールドンさんの提案の通りに街を散策しようと思う。昨日のことについてもう少し色々と考えてみるべきだとは思うのだけれど……ここに来てから気が滅入ることしかなかったから、たまには天気のいい日にお出かけするのもいいだろう。
精神的な健康面も気遣ってあげるべきだ。
「あ……、出掛ける前にこれもしとかないとね」
外に出る前に、学園から借りた本を手に取った。
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今回の散策では、街の中でぺーシュたちが好きそうな場所を見つけることが目的だ。
友達を遊びに誘うなら、その人の好む場所や、一緒に行って楽しめそうな所がいいだろう。そうなるとまずは手ごろに美味しそうなスイーツを販売している、落ち着いた雰囲気のカフェとか見つけたらいいのではないだろうか。
ぺーシュもマルリーも甘い物が好きだ。アルノーの嗜好はわからないけど、この前みたいに楽しく談笑出来たら上々ではないだろうか。
あとは、みんな自然と触れ合うのも好きみたいだから、景色が綺麗な場所とかも見つけられたらより完璧である。
そうしてしばらく、街内を散策していたのだが――。
(やばい、めちゃくちゃ楽しい)
自分がハマっていたゲームに出てくる場所を、実際に歩き回ることができるのってこんなに感激するものなんだ……!
”鐘”の主人公ルナはこの帝国に住む平民なので、夏休みの期間は買い物に行ったり、自分磨きをしたり、またはちょっとしたバイトをしたりと充実した日々を過ごしていた。
よって夏休み期間はこの街が多く取り上げられる。入れる店は決まっていたけど、攻略サイトにちょっとしたマップ図とかあったから、ついついそのページを細かく見ていた思い出がある。街を歩き回っていたらその記憶が蘇ってきた。
(この記憶があれば、大体の場所は把握できる)
流石に今日一日でいろんな店を回ることはできないので、この記憶は思い出せてよかった。効率的に今後も街中を散策することができる。
「次で最後にしようかな……いてッ」
「……!」
キョロキョロしながら歩いていたら、何かとぶつかってしまった。そこそこの衝撃だったので、華奢なミラの身体では踏みとどまることができず、尻もちをついてしまった。
「すまないレディ。お手を」
「あ、こちらこそよそ見をしていたので……すみません」
私がぶつかってしまった相手は、黒いローブで身を包んでいてそれに加えてフードを深く被っているので顔が見えなかった。しかし体格や声色、手の形などから男性だろうと見当をつける。
というか、ぶつかったとき壁にぶち当たったのかと思った。相手はよろけてもいないみたいだし、体幹強すぎじゃない?
「レディ怪我はありませんか?」
「平気です。貴方は?」
「そこまで柔ではないので」
フードの男はニコリと笑った……気がした。
顔がよく見えないせいか、すごい怪しい人にしか見えない。
「それではこれで……」
「待ってくださいレディ」
その場を立ち去ろうとしたのに、フードの男はこちらを呼び止めた。
なんだろう、難癖でもつけてくるのだろうか。
「な、何か?」
「ぶつかってしまったお詫びをしたいのですが」
「いえ、お気になさらず」
「ですが私の気が済みませんので」
「え?いや、結構です」
全然引き下がろうとしない。それどころかグイグイ来る。
ナンパ、だろうか?前世でもあるにはあったけど、ここまでしつこいのは初めてだ。やっぱりミラの顔立ちって、前世の私と比べたら格段に可愛いからこういうしつこいナンパとかに巻き込まれてしまうのだろうか。
「あぁ、いや……今はやめておいたほうがいいのか」
私の表情が物語っていたのだろうか、フードの男は打って変わってあっさりと引き下がった。
何がしたかったのだろうか。
「それではまた」
(また……!?)
逃げ出すように男から離れる。そっと角から男の様子を見てみると、彼の姿はどこかに消えていた。
もっと怖い。
その後の街巡りは気分じゃなくなったのでやめることにした。楽しくて夢中になっていたけど、フードの男に絡まれてからはドッと疲れてしまい、おまけに足も痛くなってきたのでそのまま公爵家へと戻っていった。
公爵家に着いたら、御者の人は家の玄関まで馬車を運んでくれた。夏休み当初は、公爵家の門までしか私を運んでくれなかったのが嘘のようだ。そしてあれも嫌がらせの一種だったのだと思い至る。
しかし、なぜミラは使用人たちから嫌がらせを受けていたのだろうか。元は平民だとしても、公爵家当主に拾われてからは公爵令嬢として養子になったのに。やっぱり平民という点が駄目なのだろうか。
(それとも、ミラ自身にも問題があった?)
屋敷の中に入ってからは、素早く自室へ向かう。すれ違った何人かの使用人たちが、私に対してぎこちなくお辞儀をしていた。
(こういう対応も慣れないけど……)
部屋に着いて一息ついた。やっぱりこの家は私にとって息苦しい。完全に無関係の私でさえこんなに辛いのに、ここで数年の時間を過ごしていたミラはどれだけ辛かっただろうか。私が考えてもわからないけど。
まぁ、あと少しで夏休みも終わるし……今は私がやりたいことだけ考えていよう。どちらにせよここにいる間は魔法も満足に使えることもできないんだし。
そう思って出かける前にしまっておいた本を取り出そうと手を伸ばす、が
「……あれ?」




