最悪の帰宅 ー2ー
黒髪に青色の瞳。いかにもこちらをバカにしていますというようにニヤリと嗤う顔は、歪んでいるのに美しい。
彼はこのスカーレットレイク公爵家の次男坊である、マリオス・スカーレットレイク。
(イケメンなのに、それが0になるくらい残念な性格してるなぁ……)
「もう必要ねぇと思って、お前の部屋の物、少し捨てちまったよ。あーあ無駄な労力だったぜ」
残念男は親指で自分の後ろを指している。
どうやらあちら側に私の部屋があるみたいだ。
ありがとう教えてくれて。
「………………」
「…………チッ、相変わらず陰気くせぇ顔をしやがって」
何を言ったらいいのかわからなかったので、とりあえず残念男もといマリオスの顔を見つめていたら彼の方から去っていった。
できれば今後一切関わってほしくないが、考えるだけ無駄だと思ったのですぐに思考を切り替え、早速部屋に向かった。
私の部屋は二階の西廊下一番奥にあるみたいだ。
扉を開けると埃の匂いがして、今まで全く掃除をされていないことがわかった。
マリオスが何か言っていたが、そもそものこの部屋に何を置いていたか忘れているため何がなくなったのかがわからない。
(大切にしていたものを捨てたとか……?)
うーん、でも今となってはどうでもいいか。
窓を開けて、空気の入れ替えをする。
日の光が入ってこない部屋は、なんだか物さみしい。
することもなかったので、物色してみることにした。
まずタンスの中、……学園でも思ったけど服自体がすごい少ない。次に本棚。これには魔法に関する物がそこそこ並んでいる。それならここでも勉強の幅は広がりそうだ。
学園から持ってきた荷物の中には図書室から借りてきた本も入っている。夏休みなどの長期期間は一気に5冊ほど借りられるため慎重に吟味して選んできたものだ。絶対に無くしたり汚したりしないようにしないと。
しかし本棚の上にも埃が積もっていて、指でなぞると跡ができる。それだけでここに来てから何度目かわからないため息が出る。
「失礼いたしますお嬢様」
「えぇッ?!はい!」
「…………夕食のご準備ができました。皆様お揃いです」
突然話しかけられたので、大声を出すと後ろに立っていた男性は目を見開いていたが、すぐに平静を取り戻しそう言った。
部屋に入ってくるならノックくらいしてほしい。
もしかしてしてたのかな?全然気が付かなかったけど。
どうぞ、と部屋から出るように促されるのでそのまま出ていく。
執事の格好をしたイケおじ風の男性は、そのままスタスタと前を歩いていくので、とりあえずそのままついていくことにした。
歩きながら屋敷内を見回しているが、どれも高そうな物ばかりでうかつに触れない。キラキラしていて、お城の中にいるような感覚がする。
「どうぞ、お嬢様」
ハッとして前を見ると、執事が大きな扉を開けて待っている。どうやら食堂に着いたようだ。
「おせーな、しかもまだ学生服かよ」
食堂の中に入ると、大きなテーブルの上に綺麗に盛り付けられた料理が並んでいた。
テーブルの誕生日席には寡黙で厳格そうな顔立ちの白髪交じりの男性がいて、その両隣には同じような表情をしてただこちらを見つめてくる青年――多分、長男かな?――と玄関先で出会った、性格が残念な男マリオスが座っている。
(というか、まずいのでは?これテーブルマナーとか求められるやつよね……?)
口調についてはマルリーに指導してもらっているが、食事のマナーはまだ何もわからない。なんでこういうことも忘れているんだ私……!
学食だって、簡単でたくさん食べられるサンドイッチとかで済ませているからあまり問題にはならなかったし……。
ていうかなんで同じフォークやスプーンなのにサイズが違うの?全部同じもので食べればいいじゃん!洗い物が減って楽なのに。
「どうした、何故座らない?」
「あ、すみません……」
私が席に座ると、スカーレットレイク公爵家の当主が手を叩く。
その合図によって私の席にも料理が運ばれてくる。
すごい、ドラマのワンシーンみたいだ。
彼らも食事を再開し始め、室内は皿などがかすかにカチャカチャとなるだけの空間となった。
(気まず過ぎ!)
会話とかしないのかこの親子!こんなに静かだと私の咀嚼音とかが聞こえるかもしれないでしょ!そこまで汚く食べたりはしないけど!
こういうときって何も話してはいけないのかな。やっぱりマナー?貴族マナー?貴族マナーって何?教えて誰か!
別にこの人たちと話したいわけではないけど、気まずい。
とりあえず、喉が渇くのでグラスを手に取り水を飲む。
「そういえば……この前アメシティーオーズ学園の結界内にホワイトウルフが現れたという話を聞いたが、ミラは平気だったのか?」
「ゲホッ――え、?」
「あれは確か、どっかのクラブが合宿訓練してるときに遭遇したって話でしたよね?こいつがそんなのに参加しているわけないですよ、お父サマ」
「しかし学園には簡易保護魔法が掛けられているはず……。それに最近、領地内で本来なら生息しないはずの魔物の目撃情報が上がっている。お前たちも用心しろ」
なんだ、突然公爵からホワイトウルフに関する話題が出てきたのはもちろん――私のことを心配するような口ぶりをするから驚いてしまったけど、息子たちの気を張らせたかっただけか。
またもや誰も喋らなくなる。
そろそろ料理に手をつけなければ何か言われてしまいそうなので、高橋奈々のときに培った最低限の食事マナーを思い出しながらフォークとナイフを手に取った。
まずは肉料理から食べてみようとナイフを入れる。
「…………………………」
全く切れない!!
ナイフどうのこうのじゃなくて、この肉すっごい筋ばっかりだ!
思わず彼らの料理に目を向ける。
しかし彼らはいともたやすく切っていた。
少し格闘してみたが、ナイフが皿に擦れてキィキィと鳴ってしまうので、みっともないと怒られる気がして諦めて添えられていた温野菜を口に運んだ。
「――ッ!」
今度はすっごく塩辛い。まるで飲み込める気がしない。
こんなの食べたら身体を壊す自信しかない。
スカーレットレイク家の食卓はこんなにイカれた味付けなのだろうか。早死にしそうだが。
咀嚼するたびに苦痛を味わうのは嫌なので、水で一気に流し込んだ。
ーーーークスッ。
ふと、目に入った使用人たちが嗤っているのが見えた。
私と目が合うと、笑いを止めるどころか余計にクスクスと笑い始めた。
………………あまり考えたくはなかったけど、これも使用人たちの“真心“ってわけだろうか。
(人の食べ物にこんなことするなんて、本当に性格が終わってる……!)




