新たな関係性 ー1ー
久しぶりに寮の自分の部屋に戻ると、ぺーシュが訪ねてきてくれた。そしてその後ろにはマルリーの姿もあり、2人で私の様子を見に来てくれたらしい。
2人がいつの間に知り合いになったのか聞いてみると、ペーシュがそのときの様子を話してくれた。
私が救護棟に入院することになった経緯を知らなかったペーシュは、ようやく委員会の仕事を終えたのでまた私と一緒に過ごしたいと思い、授業終わりに教室や食堂を回って私のことを探していたらしい。
しかし、私の姿が一切見えないので教師に尋ねたところ、救護棟にいることを教えられたのだという。
驚いたペーシュは詳細を聞こうとしたが、事情が詳しい人がおらず途方に暮れてしまった。そんな彼女の姿をたまたま見たマルリーが話しかけたそうだ。
マルリーも私のプライバシーを考慮してか、あまり詳しい事情をペーシュに話すことはしなかったそうだが、ここから彼女たちの交流が始まったのだという。
私が無事に退院できた今、ペーシュには話しても大丈夫かと思い、今回の件で判明したことを話した。
するとペーシュは真っ青になってしまい、私に対して色々と言いたいことがあったようだが……それをグッと飲み込んだようで、代わりに私の手を優しく握った。
「もし次に何かお困りのことがあったら……私がお力になります。どうかご自分を大切になさってください……」
「ペーシュ……」
本当に……、本当にいい子ッ!大好き!
ペーシュの優しさを感じて目尻が熱くなった。溢れそうになった涙を拭うと、後ろの方でこちらの様子を見ていたマルリーに気がついた。
マルリーの表情は暗く、落ち込んでいる。
彼女になぜそんなに悲しそうにしているのか聞いてみると、ポツリと言葉を溢した。
曰く、私があなたを巻き込んでいなかったら……。
私があの時、森の中に走って行かなかったら……。
要約するとそんな感じのことを言われた。
でも今回のことを私は気にしていない。だって、今回私が倒れた原因は、緑魔法を使って自身の体力を偽っていたのが大きくあるのだから、マルリーを責めるなんて考えてもいないことだった。
確かにマルリーの言う通り、合宿に参加していなかったら私が倒れることはなかったのかもしれない。でも、こんなことを続けていればいずれ限界は来ていた。
私としては知らず知らずのうちに死ぬなんてことにならなくてよかったとさえ思っている。それに加えると、自身の魔力に無限の可能性があると知られたのだから、むしろ感謝している。
だからマルリーが私のことを気にしていても、それはただの杞憂だから大丈夫だよと伝えたい。もちろん理由をそのまま伝えるわけにはいかないんだけど、ただ気にしないでくれと言ってもマルリーは納得しないだろう。
「うーん……。じゃあ、私がこれから言うこと許してくれませんか?」
「え……?それは何を言うつもりなの……?」
「いや大したことじゃないです。ただあなたのお兄様を説得するときに、勢い余って胸倉を掴んじゃいましたって話です」
「何をやっているのよ貴方!っていうか、それが大したことじゃないって言いましたァ?!」
私の発言に激高したマルリーは、退院したばっかりの病人に対してさっき私が言ったように胸倉に掴みかかってきた。ぺーシュはアワアワしながらどうにかマルリーをなだめようとしている。
「ちょっと!何をやっているのよ私のお兄様に対して!許さないわ!」
「え、」
「え、じゃないわよ!どうりでお兄様にあなたの話を振ると表情が強張ると思っていたのよ!」
そうだったんだ……。まぁ結構な力で掴んで揺らしていたから無理もない。現在進行形でマルリーにやられているけど、これって頭が揺れて辛いもん。
マルリーはぺーシュによって私から離された。ぺーシュが後ろから抱え込むようにしてマルリーの動きを必死に止めている姿が可愛い。マルリーもぺーシュを乱暴に振り払おうとせず、まるで猫みたいにフシャーッとこちらを威嚇していた。
「ふふふ」
「何を笑っているの!」
「いや、可愛いなって」
「かわッ、」
「そのくらい容赦なく来てくれたほうが私はいいなって思います。必要以上に自分を責めないでください」
私の言葉に、マルリーはハッとして目を逸らしてしまった。また暗くなったその表情に、これはまだ思いつめそうだなと思ったので、もう一つ話をしてやろうじゃないか。
「もう一個あなたに言い忘れていたことがありました」
それは何だと言いたげな眼差しをしてマルリーはこちらを見た。ぺーシュはどうかもう怒らせないでくれと慌てているけど、ごめん。
「実は私、あなたのことを呼び捨てしちゃったんですよ。これも勢い余って。”マルリー”って」
親しい間柄でもない限り、王族の人に対して敬称もつけずに名前を呼ぶのはマナー的に駄目なことだと流石にわかる。心の中ではすでに呼び捨てにしていたけど、ちゃんと声に出すときはガプール第一王女と呼んでいた。多分。
けれど、予想に反してマルリーは特に何も言ってこなかった。「無礼者!」とすぐに言われるかな予想していたのに、ここまで何も言われないと、めちゃめちゃ心配になる。
……あれ、これまでの発言で不敬罪とかで訴えられたりしたらどうしよう。
やりすぎたか……と今更に思い返し、背中に冷や汗が伝った。
「――に、――わよ」
「……え?」
「別に……いいわよ。私のことをマルリーと呼び捨てにしてくれても……」
……今なんと言った?
驚いてマルリーの方を見ると、顔を赤くしてプイッとそっぽを向いてしまった。しかし私が何も言わないところを見ると、矢継ぎ早に言い訳をするみたいにまくし立ててきた。
「ま、まぁ貴方には?感謝していますし、貴方が今回のことを許してくれるというのなら、わたくしも名前くらいは全然許すというか…………あ、あなたが、その、ゆ、友人となってくれるなら、そう呼ばれるのも悪くないというか……。わ、私たちはもう一蓮托生の関係になっていたんですから、今さら堅苦しく呼ばなくても……いいのではなくて?」
「え、可愛い」
「それはやめて頂戴!」
もう一度ぺーシュの腕の中で威嚇をし始めたマルリーを、私は微笑ましい子を見るような眼差しで見つめる。妹とはこういう感じの子をいうのだろうか、それともこれがツンデレというものになるのか……。
すると、なんだかぺーシュの表情が少し曇った。
「どうしましたぺーシュ様?」
「!あ、あの……それなら私のことも、敬称はつけずにぺーシュと呼んでいただきたいです……」
え、尊い。ぺーシュは緊張からか、キュッと腕に力を込めた。同時にマルリーの腹部にも圧がかかる。「うぐッ」と絞められたマルリーは声を上げ、ぺーシュが慌てて謝罪した。
マルリーは非難の声を上げたが、本気で怒っている様子はなくむしろ楽しそうにぺーシュと話している。この様子だけ見ると、仲の良い姉妹のようだ。
そんな二人を見て、また微笑ましい気持ちになる。
「これからもよろしくお願いします。マルリー、ぺーシュ」
「「!」」
「ま、まぁ、よくってよ」照れ隠ししてそう言ったマルリーを見て、私とぺーシュで笑い合った。
「でもお兄様の胸倉をつかんだことは許していないわ」
「え!」
「というか貴方は呼び名云々の前に言葉遣いがなっていないときがあるわ。これから私が指導して差し上げるから、覚悟しておくことね」
「え!?」




