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姿を消した友人は(アルノー視点)

今回のお話はアルノー視点となります。

 息を切らしながら学園まで辿り着いた。依然として霧が視界を覆ってほとんどなにも見えない。向かうべき場所がわからなくて、焦燥感が強くなる。


「……?」


 どうしたらいいものかと途方に暮れていたとき、先ほどまで気を失っていた彼の体がピクリと動くのを感じた。彼はゆっくりと僕から離れると、ようやく自分の足で立った。

 さすがに疲れたので、腹いせに少しだけ嫌味でもいいながら彼が気を失っている間に起こった事を話そうと思ったのだが、その瞬間、彼の様子がおかしいことに気付く。


 頭をガクンと下にして、おぼつかない足取りでフラフラとどこかに行こうとしている。ペーシュが慌てて彼を止めようとしているが、それをマルリーが止めた。どうやらマルリーも彼の異常さに気が付いたらしい。


 僕は二人に目配せをして、自分の後ろに行くように伝えた。

 二人が僕の背後に回ったのを確認し、彼の様子を窺う。

 彼の歩くスピードがとてもゆっくりだったので、視界は悪いがさすがに見失うことはないだろうと、少しだけ離れた状態で彼の後を追った。彼が何かしらの魔法に掛けられて、その身体を操られていることが一目瞭然だったからだ。


(ここにいるマルリーとペーシュだけは守りたい)


 フラフラと歩いていく“彼”が留学生でもなく、そして何処かの国の王子ではないことも何となくわかっていた。身分を隠してこの学園に編入してくることが可能ならば、それは学園長が協力しているということ。オルデナ帝国一の学園が権力に従うとするならば、それはつまりオルデナ皇室の権力しかない。


 記憶の片隅に、オルデナ帝国の皇子は社交界には絶対に姿を現さないという噂があったことを思い出した。その話を聞いた当時は、勝手に社交界が苦手なんだろうと思って親近感が湧いていたけれど……。


 …………彼がどんな身分であったとしても、この状況下では妹と友人の命を最優先にさせてもらう。


 喉を少しでもうるわせたくて、唾を飲み込む。

 本当に、こんなことになるんだったら少しくらい体力を増やしておけばよかったよ、カルゼインお兄様。


『フフフフフフ……、ようやく来てくれたのね……』

「?!」


 その声が聞こえてきたとき、思わず声をあげそうになるのをグッと堪えた。いや、驚き過ぎて声すら出なかったのかもしれない。


「お兄様……?どうされました?」

「いや……さっき、誰かの声が聞こえなかった?」

「……?ペーシュ、聞こえた?」

「いいえ、私は何も……」


 二人は顔を見合わせて首を傾げた後、僕のことを心配そうに見つめてきた。

 ……彼女たちには聞こえていなかったのかな?

 それとも僕の幻聴?

 でもあの声…………少しだけミラの声に似ていた。


 声質が似ているというべきなのか?雰囲気は全く違っていた。

 ミラはもっと明るくて、あんなに恐ろしい声は出さない。


「あの、お兄様……」

「どうしたの?」

「その、あの人の姿が見えなくなってしまいましたわ……」


 マルリーの言葉にハッとして前方を確認するが、霧にまみれたこの視界の中で彼の姿を見つけることはできなかった。

 しまった……!


 いやでも冷静になって考えたら、ついていかないほうが賢明だろうか?身体を操られてどこかに連れていかれているのだとしたら、それは敵のいる場所だろう。するとほとんど丸腰である僕らでは到底太刀打ちはできないだろうし……。


(それにそもそも……学園全体が静かすぎじゃないか?)


 これだけの霧がここら一帯を覆っているのだ。

 通常ならば、教師たちが事態を解決しようと奔走しているに違いない。それに騒ぎ出す生徒たちもいるかもしれないのに。

 もしかしたら、すでに避難が終わっているとか……?


 すると僕たちは、危険地帯にわざわざ足を踏み入れてしまったということになるのだろうか……と考えていたとき、フーッと冷たい風がすり抜けていった。

 その風と共に、霧がみるみると消えていく。

 

 ……けれどもそれは僕たちにとって良いものではなかった。視界を遮るだけでなく、嫌な雰囲気を纏わり付かせていた霧が晴れることで、僕たちは恐ろしい物を目にしてしまったからだ。


「な、なんですの……あれは……」


 マルリーがかつてない緊張を漂わせた表情で、それを見ていた。隣にいたペーシュに至っては、驚きすぎて声すら出ないようだった。


 巨大な像のようなものが、学園の中心にそびえ立っている。

 まだ校門前にいる僕たちですら見える大きさだ。間違いなく僕たちが学園を抜け出す前にあんな像はなかった。


 僕たちが唖然としてそれを眺めていると、遠くから何かが破裂するような音が響いた。ペーシュがその音に驚いて小さく悲鳴を上げると、後からもう一発。


 音の方向は、あの像の近くからだった。

 少しだけ迷った後に、走り出す。

 二人にはきてほしくなかったけれど、僕が行けばマルリーは必ずついてくるし、マルリーがくればペーシュも走り出した。


 校庭に辿りついたとき、そこには誰もいなかった。

 ただただ巨大な女性の像が、僕たちを恐ろしい形相で見つめているだけで、そこは静まり返っていた。


「………………?」


 足元に何か見慣れぬものが落ちている。

 それを拾い上げて観察していると、像を見上げているマルリーがこんなことを呟いた。


「……何だかあの像、ミラに似ていません?」


 マルリーの口からミラの名が出ると、ペーシュも反射的にその顔を見つめ出す。僕もつられてその像の顔部分を観察した。

 ……確かにミラに似ているかもしれないけれど、こちらを睨みつけるその表情が恐ろしくなって、長く見ることはできなかった。


「言われてみれば、少しだけ……」




 

 ここで少しだけ、嫌な考えが過った。

 今回の事件に巻き込まれているであろう僕の友人は、今どこにいる?どうしてここに、ミラにそっくりな像がある?


 隣を見れば、みるみる血の気が失われていくペーシュが。

 彼女も僕と同じ考えにたどりついたのかもしれない。


「ま、まさか……これがミラ様……?」

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