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巨大な女性の像 ー2ー

 塩内さんは拳銃を地面に叩きつけた。

 流石に補填用の弾は無いみたいだし他に武器も持っていないようだから安心したいが、首など絞められても困るので今度は彼から距離をとる。


 私は彼を刺激しないように、一歩一歩慎重に後ずさった。この時ばかりは、塩内さんのことが猛獣に見えてしまって仕方がなかったからだ。

 現に彼は目を充血させ、荒い呼吸を繰り返している。もうなんだか、怖くて堪らない。


 彼の呼吸に耳を澄ませていると、ザッ、ザッと足音が聞こえてきた。一つだけではなく、大勢の足音だった。


「…………?」


 よく見ると、私たちの周りで抜け殻のように佇んでいた生徒たちもゆっくりと前に進んでいっている。そのまま行くと、像にぶつかってしまうけど……。


「わっ、ちょ、ちょっとなに?!」


 意味のないことを考えていたら、後続者が続々と押し寄せてきて私は人混みの中に巻き込まれてしまった。……う、苦しい。さながら満員電車の中、一つの出口に向かって人が動きまくっているような感じだ……。


 何とか抜け出したいのに、周りにいた生徒たちがこぞってこちらに向かってくるから、全く避けられない。それどころか、その流れに私も流されていく。

 

「何だ!?」


 よく見えないけど、塩内さんの焦ったような声も聞こえる。

 どうやら彼もこの人混みに巻き込まれてしまったようだ。

 けれども彼がどこにいるかもわからないし、人が遠慮なくこちらにぶつかってくるのも、たまに足が踏まれるのも痛くて私はなにもすることができない。

 こういうときに周囲の人たちを吹き飛ばす力があればなって何度か考えたことがあるけど、実際にその力を持っているからといって実行することもできない。


 ……でも、多少は抵抗しないと像にぶつかってそのまま潰されてしまう。

 大丈夫、強く吹き飛ばさなければいいから……。


「!?」


 私のいる場所は、虚像の目の前だった。

 それでも前方に生徒は数人いたし、これだけ押し込まれれば誰かの背中にぶつかって、窮屈な思いをすると考えていたのにその感触は一向にこなかった。

 いやそもそも、すでに像にぶつかっていても不思議ではないのにと少しだけ気になってそちらの方向に顔を向けてみた。そしてその光景を見て、絶句する。


 何故なら、生徒が次々と像の中に吸い込まれていたからだ。

 石のように硬く見える像の表面は、人間の体が触れるたびに水面がユラリと揺れるように動いていた。生徒たちは抵抗なくその中に吸い込まれていって、私の順番はすぐそこだった。

 

 え、嘘でしょ?このまま行くと、私もあの人たちと同じように像の中に取り込まれちゃうってこと?


 そう考えているうちに、自分の背中にヒヤッとした感覚が走った。まるで冷たい水の中に入っていくような感触に鳥肌が立っていく。

 もうなりふり構っていられないと魔法を使おうとするが、何故が体に力が入らず使うことができなかった。


 私の体はどんどんと中へ押されていき、ほとんど飲み込まれてしまっていてかろうじて顔が外にでている状態。体のほとんどは、まだ乾ききっていないコンクリートの中に沈められたように重たかった。


 最後の抵抗として、手を伸ばした。

 誰かがこの手を掴んで、ここから引っ張り出してくれることを願って。視界の端では、塩内さんも同じように自分の手を外に目一杯伸ばしているのが見えた。


 しかし残念なことに、私たちの手を取ってくれる人など近くには誰もいなかった。ここにいる人たちは皆んな正気を失っていて、自ら像の中に入ろうとしているのだから当たり前だ。


 やがて自分の視界が使い物にならなくなり、そして伸ばした手の指先まで冷たくなった。



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