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彼女が世界を嫌うのか、世界が彼女を嫌うのか ー2ー

 寮を飛び出してしまえば、外は濃霧に包まれている。この身を隠すことなど容易い。いつの間にか私が晴らしたはずの霧も元通りになっていて、私の魔法は焼け石に水程度の力だったのだと思い知る。


(確か、あの像があった方角は……)


 学生寮の屋上から見渡したとき、方向感覚を間違えていなければあの像は校庭付近に出現していたはずだ。

 打開策など何も思いつかないけれど、ひとまずはそちらに向かってみようか……?


「いたっ!!」


 走り出して数十歩目、何かにぶつかった。

 額を盛大に打って、痛みに悶絶する。

 しかし、ぶつかった感触的には物というよりも人間……、


「すみません!大丈夫ですか?」


 人様にぶつかってしまったと理解するなり、反射的に口からは謝罪の言葉が出た。いや、でもよく考えたらこの状況でも外を出歩いている人……教師か?


 思わず身構えると、人影がゆらりと動いた。

 相手は私の謝罪にはなんの反応も示さず、そのままのそのそとどこかへと去ってしまった。


「…………?」


 ———よく見れば、さっきからそんな感じの人影がちらほら見えるような気がする。

 立ち止まって周囲に目を凝らせば、数人の人影を目視することができた。どれもおぼつかない足取りで……なんだっけ、こんな場面をどこかで見たことがある。……そうだ、ゾンビの大群が押し寄せてきた場面にそっくりだ。


 ゾンビ……、ゾンビ?いや、そんなわけがない。

 生徒だ。制服を着ている人もいれば、救護棟の患者服を着ている人もいて一瞬彼らが誰なのか全くわからなかった。


(…………)


 少しだけ考えてから、彼らの跡をつけてみることにした。

 どう考えても、生徒たちが向かっている先は私が行こうと思っていた場所……つまりあの巨像があるところだと思ったから。

 けれど目的地がわかったところで、それをラッキーだとは思えなかった。いくらそっちに向かいたかったからといって、こんな異様な光景を見せられては緊張感が増すだけだったから。


 私は歩きながら、周囲の人たちを観察する。

 みんなひどくやつれた顔をしていて、目が虚だった。たまに、首に引っ掻き傷のようなものを付けている人もいた。

 正直言って、数名に対しては浮浪者ではないかと思ってしまうくらい身なりがボロボロだった。その風貌は、高貴な貴族の令嬢や令息には見えない。


 周囲からは彼らの足音以外、何も聞こえない。

 呻き声が聞こえないぶんマシなのか、それとも声すら聞こえないのが不気味なのか、もはやわからなかった。


 その足音がピタリと止まると、私の足もピタリと止まった。

 すでに私の前方には人だかりができていて、そして後ろからも続々と人が集まってくる。誰も何も言わないし、足並みが止まればそれ以上体を動かすこともなかった。


 ……つまりこの最前線に、あの巨像が待ち構えている。

 こんなに人を集めて、ミラは何がしたいのだろうか。


 人混みを避けながら前へ進んでいると、とある人物を見つけた。彼女の姿もかつてとはまるで変わってしまっているが、その緑の髪色には見覚えがあった。

 

(……ッ、エアリス・ベイリー?)


 いや、それだけじゃない。

 私の周辺にいる人たちのほとんどに、見覚えがある。

 あの人にも、あの人にも、あの人にも……。


(私(ミラ)のクラスメイトたちだ……)


 もちろん、全ての人たちがクラスメイトというわけではない。けれども違うクラスだとしても、学年だとしても……何故かここにいる全員に見覚えがあった。

 それは私か“ミラの記憶”で……?


 最前列まで行けば、その顔ぶれにますます心当たりが増していく。

 ハルメート・シュルビア

 フランツ・ドゥルマ

 ルハーニ・アザル……。


(“The sound of the bell”の攻略対象……)


 いや、それにはアルノーと、あとおそらくセレナもいるはずだ。だからこれは早計かもしれないけど……。


 攻略対象以外の人たちは、よくミラ・スカーレットレイクの陰口を言っていた生徒だ。彼女の記憶でも見たし、私も何回か言われたことがあるから憶えている。


 仮にあの巨像が、世界を恨んだミラ・スカーレットレイクだとして……。ここに集められた人達が、彼女にとって恨みを抱くに値する人達だとしたら……?


 心の中でその仮説を呟いたとき、突然あたりの霧が一斉に晴れた。風が吹いたわけでもないのに、まるで霧の方が逃げていくみたいに、静かに。


 視界を遮っていた霧が完全に晴れることによって、今度は完全に“それ”が見えるようになる。あの時の緊張感を思い出し、反射的に唾を飲み込んだ。


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