闇はますます深くなる。
光が収まるにつれ、周囲の景色が少しずつ見えるようになる。どうやら完全にとはいかなくても、少しだけ霧を晴らすことができたようだ。
ざっと……100メートル先くらいまでは見えるだろうか。
私の後方では、女性教員が尻もちをついていた。
「ぁ……あ、」
小刻みに口を震わしながら顔面を蒼白にしているその教師は、視線を上に向けていた。声にならなくても『ありえない!』と言いたげなその表情は、誰がどう見ても絶望に溢れていた。
私はその意味をすぐに直観する。
やっぱりあれは見間違いではなかったのだと。
霧の中から現れたのは、巨大な女性の像だった。
……像、なのだろうか。全体的に灰色だからか、パッと見ると石像のように見えるのだが、目を凝らしてみるとそうでもないような気がしなくもない。うん。
何しろ、視界が悪くてはっきりとはわからない。
とりあえずは巨大な石像としておこう。
その石像は、私にとってひどく恐ろしいものであると同時に悲しさを感じさせる像であった。
何がそう感じさせているのかはわからない。
できる限りでその女性像の表情を読み取ろうとするのだが、無表情に近いそれではわかることなど一つもなかった。
(……あれが元凶だってことはなんとなくわかる)
それを見た時に直感した。
あの石像が、このおかしな霧を出している。
アメシティーオーズ学園の生徒たちに、おかしな幻覚をみせているのだと。
すると……あれを召喚したのはあの変な火の玉?
そしたら、あれをどうにかすれば全てが元通りになるのだろうか?
壊す……?消す……?
これはもしや、これからゲームでいうボス戦が始まるのだろうか。
回復アイテムは持ってきていたっけ?
そもそも今の私のヒットポイントはどのくらい?
マジックポイントは?そもそも私って、ステータスがどのくらいあるの?
対峙することによってわかる、緊張感。
目の前の相手から冷たい棘のような風が吹いていて、私はそれに包み込まれているような気がする。そしてその風は私の心臓をゆっくりと凍らせようとして、それに負けまいと心臓は鼓動を速めるのだ。
(…………無理、じゃない?)
一度そう考えてしまうと、体から温度が抜けていく。
さっきまであんなに希望に溢れていたのに、相手はそれを奪い取ろうと私の精神を侵蝕してくるのだ。
震えそうになる体を叱って、これは武者震いだと言い聞かせる。そうだ、そうだよ。今までの私は、本気を出したことがなかった。それを出せる相手に出会えたのだから、歓喜で震えるのも当然なんだよ。
身体が凍ってしまいそうなら、また光を起こそうと魔力を練りだす。
「———動くな!!」
突然、怒号が後ろから飛んできた。
驚いて、練っていた魔力が霧散してしまった。
後ろを振り返れば、いつの間にか教師たちが武器を構えていた。一体どこに隠し持っていたのだろうか?
でも、よく考えたら彼らがいたんじゃん!何一人で戦う気になっていたんだか……。
先生たちの力量は知らないけど、世界屈指の魔法学校であるアメシティーオーズ学園の教員を務めているくらいなんだから、強いに決まっている。
少しだけ気が抜けた。
よかった、彼らが一緒に戦ってくれるならと安心したそのとき、何かが私の耳元を横切っていった。
鋭い風が空気を割くように、横一直線で私の横を飛んでいった。……耳が、微かに熱い気がする。
「……え、?」
思わずそこに触れた。
手が、少し濡れたような気がする。
おそるおそるその手を確かめると、指先に数滴の赤い雫が付着していた。
おかしいと思って教師が立つその場所に目を向けると、何故か彼らは武器の矛先を私に向けていた。
…………いやいや、ほんとになんで?
「な、にしているんですか?」
「お前がこの一連の犯人だということはわかった。目的はなんだ!何故学園を狙う?!」
勇ましく声を張るその教師の目には、敵意の二文字が浮かんでいた。
「意味がわかりません!何を言っているんですか?!」
「とぼけるな!お前があの石像を召喚したんだろう!」
……は?
「あの光はお前の魔法だ。それが消えたあとにあの像が現れたということは、お前が召喚したんだろう」
いやいやいやいや、あの神々しい光を見ませんでした?
もしかして神々しいって感じなかった?
っていうか霧を晴らしただけですけど?なんであれが巨人像を召喚したになるの?
「信じられなかったけれど、あの子の話は本当だったのね……。あぁ、私ったら教師失格だわ……」
何故かはわからないけど、先ほどまで私を死ぬほど心配してくれていた女性教員が今度は私のことを責めるようなことを言ってくる。あの子って、誰?話が全く見えないが?
「何か勘違いしているようですが、私全く関係ありませんよ!むしろ事を解決しようと奔走していたくらいで……」
本当に!これこそまさに!たまによくあるんだけど!どうして私が犯人だって疑われるんだ?!
前はこれがゲームの強制力かなんかだと疑っていたが、火の玉の話によればその可能性は低そうだし……。
もう一度そんなことはないと反論すると、相手は吼えるように声を荒げた。彼自身も緊張を張り巡らしている。
「嘘をつくな!それならば何故、あの像はお前にそっくりなんだ!!」
【お詫び】
本日の投稿時間が大幅に遅れてしまい、大変申し訳ございません。




