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取り戻すために?

「あなたがどこまで事態を把握しているかは分かりませんから、質問があれば随時するように。まず、学園内で謎の症状が流行していることは知っていますね?」


 それは知っていると、私は頷いた。


「当初、私たちはそれを病と考え治療法を探していました。しかし一向に原因は解明されず、痛みを訴え続ける者が増えるばかり。ついに痛みに耐えられず、自傷をする者まで出たため、そういった人たちには“とにかく寝てもらう”という処置を取ることになりました。しかし、それがのちに悪手であったことが判明しました」

「……悪手?」

「紫魔法の幻覚魔法であった場合、意識が失っている状態というのはより魔法の効果を強めてしまいます。紫魔法は精神作用を最も得意とする魔法ですから、相手の意識がないというのは絶好の機会ともなります」

「つまり、応急処置としてとった行動が全くの裏目に出てしまい、むしろ相手の魔法の効果を強めてしまったということですか……?」


 魔法ってそんな法則みたいなものも存在するんだ。

 ……ん?ということは、先ほど女性教員が私に投げかけていた言葉は、その幻覚魔法に掛かった私が錯乱していると思われていたからってこと?


「今やこの学園周辺は、紫魔法による霧に覆われてしまいました。ここら一帯が支配されるまでもはや時間の問題です。なのでまずは、正気を保っている生徒に避難指示を出しています」

「……えーっと、結局これは幻覚なんですか?それとも夢?」

「おそらく、この霧は幻覚魔法……というよりは目眩しのものに近いと思われます。しかし、複数の生徒たちが訴える“症状”は幻覚によるものだと」


 えっと、まずペーシュ達と一緒に行った森の中で見た廃教会は幻覚魔法によるものだったんでしょ?確かマルリーによれば、あんなにはっきりとした幻覚は生み出せないとのことだったけど、結局は誰かが自分の記憶を元に創り出した可能性が高いって話だった。

 

 そして学園では、現在二つの問題が起こっている。

 一つ目は生徒たちが訴える、謎の症状。首が痛いとか、息苦しいとか、外傷なども見られないのに同じような訴えをする生徒が一時期増加していた。

 二つ目は、アメシティーオーズ学園を取り囲む霧。

 どうやらただの霧ではないようで、紫魔法による目眩しに近いような効果を持っているらしい。……そういえば、廃教会に辿り着く前に森の中を歩いていたとき、霧が出ていたような気がする。あれももしかして、普通の霧ではなく魔法によるものだったのだろうか。


 うーん、まぁとにかく紫魔法がいろんな原因ってことね!


「私の部屋まで来たってことは、避難指示が出ているなか自室に戻っていく私を見つけて、慌てて呼び戻しに来たということですか?」


 男性教員は静かに頷いた。


「でも、どうして突然……」

「実は、我々に紫魔法が原因だと進言してくれた生徒がいた。しかし彼もまた、その魔法によって倒れてしまった」


 え……?!

 進言した生徒って、どう考えてもハルメート・シュルビアのことだよね?彼も魔法に掛かってしまった?


「しかも、最近の生徒たちの様子はますますおかしくなる一方なのです……。あなたのように、突然フラフラとどこかへ行こうとしてしまうの。『処刑だ』『時間だ』などと言って」

「…………」

「でも、スカーレットレイク嬢だけでも戻ってきてくれてよかったわ。今は避難指示が出ているので、ただちに学園から離れましょう」

「待ってください、それは一体どこへ避難するのですか?霧は学園だけなのですか?周囲の森などの近辺で、魔法を感知しましたか?」


 女性教員は私の腕を引いて、一緒に安全な場所に避難しようと声をかける。しかし私は、もうこの世界に安全な場所などないことを知っているため、その行動に乗ることはできなかった。もちろん、説明だってできないが。

 

 わからないことは多いが、一つだけ確かに言えることは、もうすぐ“悪役令嬢ミラ・スカーレットレイク”の願いが叶ってしまうという、こと…………。

 

 ………………

 ……………………、

 いや……待って。

 そういえばあの火の玉は、この身体を抜けてどこに行ったのだろうか。世界を恨むミラと“私”の魂のカケラは、ずっとどこにいた?


(“私たち”の中にはいなかった。それはわかる……)


 この異常事態が悪役令嬢ミラ・スカーレットレイクの仕業なのだとしたら、つまりは私の知らないところで魔法を発動させていた“ミラ”がいたわけで……。

 そもそもアルノーが最初に異変を感知した場所は、学園内ではなかった。にも関わらず、どうして“彼ら”はこの体の主導権を握って、この学園に戻ってきたの?


(火の玉は、ここにミラの魂のカケラがあることは知らなかった……。だから“彼ら”がアメシティーオーズ学園に戻ってきた目的は、欠けた魂の回収ではない)


 視界の端で、白い渦がグルンッと蠢いた。


 ……そうだ、あの小瓶に入っていたミラの魂のカケラは物理的に触れられるような代物だった。

 そしてそのミラが言っていた。“世界を恨んだミラは、幾度となく時間を巻き戻し、その度に恨みを積み重ねてきた”と。

 想いの力が強ければ強いほど……。


 マルリーたちが学園祭で披露した『終わりの勇者』。

 あのラスボスは、最後どのような姿になって勇者たちを苦境に追いやっていた?



「………………」


 私は、おそるおそる窓の外を見る。

 灰色の世界の中に、パチリと動く瞳と目が合った。

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