隠されていた事実 ー1ー
突然アルノーから言われた言葉に驚きを隠せない。
彼は私がすでに魔法を発動させていると言った。しかも、
でも今はこれについて考えている暇はない。
アルノーの指示通りに、目を瞑って、自身の魔力を強く意識し、思いつくままにとりあえず体の中に何かを入れるようにイメージをした。
学園で魔法の練習をしているときに、ぺーシュにも言われた。自身に流れている魔力をイメージすることが大切だって。前世に魔法なんてなかったし、依然として前の記憶が曖昧だったため、魔力のイメージとかよくわからなかったけど、何となく血が体内に流れているのを想像してみると上手くいった。
その時と同じように、全身をリラックスして魔力を取り込むことに集中する。すると、身体の外側から内側へ管から液体を入れられたように、グングンと何かが入り込む感覚がした。
(この感覚、なんだか気持ち悪い……)
「いいよ、その調子。ゆっくり息を吸って……そのまま次は赤魔法、大きな炎をイメージして」
結界を展開しながらこちらに指示を出すアルノーの声は少し苦しそうだ。急いで赤魔法を発動させないと、と焦りそうになると魔力がぶれそうになる。
だめ、落ち着いて。
でもなんだろう、魔力がかつてないほど湧き上がってくるのを感じるのと同時に、身体が異様に重くなってくる。
「いま!放って!!」
さっき取り込んだ魔力を、全部放出するような感覚でそのまま赤魔法にのせる。その瞬間、ドゴンッと爆発する様な轟音が響き、地面が大きく揺れた。マルリーの悲鳴が聞こえる。
目を開けると、目の前の大きな樹に大きな焦げ目ができていて、その衝撃に耐えられずに地面へと落ちた。もういちど、大きく地面が揺れる。
周りにいたホワイトウルフは、その魔法に直撃して倒れているのもいれば、怯えたような鳴き声を上げて走り去っていくものもいた。
な、なにが起きた……?
「す、すごい……ここまでの威力があるとは」
「あ、あなた、その力――」
2人の戸惑うような声が聞こえる。
これ、私がやったの……?
考えたいのに、考えられない。どんどんと体が重くなってくる。おかしい。視界がグラグラと揺れる。地震?ちがう。私が揺れているんだ。
そう思った途端、地面が近づいてきた……。
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…………………………。
気が付くと、一面真っ白な場所にいた。
本当に白すぎて、前後左右もわからない。何も見えないのに、確かに私は立っていて、地面を歩いているという感覚があった。
(…………?)
私は何をしているんだろう。すでに頭の中で疑問に思っているはずなのに、体は歩みを止めない。
そう思っていたら、不意に身体が歩くのをやめた。実際に、自分の視界の中は変わらずの白一色で、自分の手足すら見えないから、歩くのをやめたという感覚だけを感じている。
どうやら、私は地面を見ているようだ。なぜ地面を見ているか分かったとのかというと、それも感覚としか言えない。
地面に何か落ちている。それに気が付くと、私の身体はそれを拾い上げるようにかがんだ。
真っ白な空間の中に、たった一粒の黄色いガラス片のようなものが落ちていた。米粒みたいに小さくて、よくこんなのを見つけられたなと思ったけど、何故だか目が引きつけられた。
それをつまむように拾い上げると、途端に目の前の光景が一転して、別の情景が浮かび上がってきた。
”薄汚い路地の中に私はいた“
“目の前の建物が大きな建物が、時間が経つにつれて私の顔を陰で隠していく。何となくそれが嫌で、体を引きずるようにして、夕日が照らしている光の下へと移動した。周りの人たちは、地面で這いずっている小汚い子供になんて興味もくれず、足早にその場を去って行く”
”(おなか、すいた……)”
”もう何日も食べていない身体は、徐々に生きる力を失くしている”
”親は知らない。一週間ほど前に突然家に帰ってこなくなった。帰ってくるまで待っていたのに、知らない人たちが急に来て、出て行けと言われてなすすべもなく追い出された”
”(さむい……)”
”瞼が重くなって、辛うじて上半身を支えていた腕が力尽きた。顔が地面とぶつかる“
“もういいかなと思ったそのとき、誰かが私に声をかけた。気力を振り絞って、何とか目を閉じないようにして、相手の顔を見る。ぼやけていてよくわからなかったけど、夕日に照らされた髪がキラキラ光っているのが見えて、なんとなく、神様が来てくれたのかなってその時思ったんだ”
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「う、…………ここは?」
一度見た天井、保健室のようだ。
「なんでここに……」
仕切りのカーテンを開けて、あたりを見回す。すると椅子に座ってウトウトと舟をこいでいる保健室の先生がいた。窓の外はまだ暗い。
ベットから下りる際に、ガタリと物音をたててしまい、その音で先生が起きた。先生はメガネを外して、眉間を人差し指と親指ではさんでグリグリと押している。大分疲れているようだ。
「あの、すみません」
「!おっと、びっくりした。起きたんだね、気分はどう?」
気分――そう聞かれて、ようやく自分が魔物との戦闘で倒れたということを思い出した。しかし、自分が倒れた場所は、森の中だった。それなのに目が覚めたのが学園の保健室ということは、誰かがここまで運んできてくれたということだろうか。
「気分は……そこまで悪くないです」
「そっか、今話せそうかい?」
「は、はい……」
その先生が言うには、夜中に突然緊急通達がきて大慌てで私の治療に当たったとのこと。どうやらこの学園では、生徒たちが合宿をしたり魔法実習を行ったりするときに、その代表者に緊急用の連絡手段を渡しているらしい。
私をここまで運んできてくれたのは、アルノー=イヴァン・カプール。
合宿に参加していた残りの生徒は急遽帰還を学園から指示されたので、それを引率したのは、マルリー=ラザレヴァ・カプールとのことだった。
「驚いたよ。君たちが今回合宿に利用した森は簡易保護魔法が掛けられているから、まさかモンスターが出てくると思わなかった。今、緊急でカプール第二王子が学園長に事情を話しているみたいだから、すぐに対処されるだろう。まぁ、私にはもっと驚いたことがあったんだけれど」
保健の先生は、眠そうな目をしながらしっかりと私の顔を見据えている。どこか深刻そうにも感じられる表情に、何か良からぬことが再び起こってしまったのか、と考えてしまった。
「私が驚いたのは君のことだよ。私の言いたいこと、君はわかるかい?」




