取り戻すために ー2ー
右腕が、まるで自分のものではなくなったかのような感覚に困惑する。
「そうか、これか……!これだったんだぁ!ただの破片だと思っていたけれど、まさかこんな粒が……」
自分一人しかいないはずの部屋の中で、声が聞こえた。
その声とともに、右腕が小瓶を掲げてカラカラと中身を揺らしている。
どれも私がやろうと思ってやっていることではない。
それにもっと不思議なことがあった。
先ほど聞こえた声が、どう考えても聞き覚えしかない声音だったからだ。
「ひッ……!」
ふと、鏡に映った自分が目に入った。
その自分が嗤っていた。
「ようやく見つけた!ようやく見つけたぞ!———な、何これ?!口が勝手に動く!!」
鏡の中の私は、口を忙しなく動かしていて表情をコロコロと変えている。たまに右と左で別人のように顔が引き攣っていて、まるで表情の違う人形を違って、それぞれを縫い合わせたように見える。
(えッ……私キモすぎ?!)
ていうか、全然意識あるのに体乗っ取られかけてますけど?!右腕は完全に自分のものではないような感覚だし、だからと言って意識的に抵抗しようにもどうしたらいいのか全くわからない!
とにかく、この小瓶が右手に収まっているのはダメだよね?
そう考え、どうにか自分の意思で動く左手でその小瓶を自分の右手から奪おうとしたが、右手はサッとそれを避けた。自分の手に逃げられるなんて……!と何度も右手を捕まえようと躍起になり、しまいには体のバランスが崩れて床にゴロゴロと転がりながら奮闘していた。
傍目から見れば、私は異常者だろう。
次第に吐き気を感じ流ようになって、一度右手を追いかけるのをやめた。
床で何度も転がっていたせいか、それとも体の一部が自分の意思と関係なく好き勝手動くこの違和感に耐えられなくなってか、とにかく気持ち悪かった。
けれども休憩なんてしている場合ではない。
でも、どうしたらいい?
人を呼んで右腕を拘束してもらうとか?
「——こんな姿を他人に見られたら、君はどう思われるかな?」
また、口が勝手に動いた。
右腕は体を持ち上げようとしているみたいに、上にグイグイと伸ばされていく。もちろん腕一本で胴体などが持ち上がるわけもなく、肩まわりに痛みを感じだ。徐々に痺れを感じ始めた頃に根負けして、私は体を起こして立ち上がった。どうやら、私の体が乗っ取られているのは口と右腕だけのようだ。
……足まで乗っ取られたらどうしよう。
しかし……、助けを呼ぼうにもこの状況で私の話を信じてくれる人はいるのだろうか。今の私は、傍目から見れば一人芝居をしているようなものだ。自分で体を動かして勝手に騒ぎ、口頭では意味のわからないことを矢継ぎ早に話し続けている人。
どっからどう見ても異常。
(そうだ、ペーシュたちに頼めば……!)
彼女たちなら、どれだけ信じられないようなことを私が話しても、真っ先に否定するようなことはしないはず…………だけれど、彼女たちは今どこに?
血の気が引くような感覚が体全体に広がる。
そうだ、みんなはどこ?
確か、私が目覚めたときは既にこの学園にいたわけだから……みんなはまだ廃教会の中?いや、洞窟の中?あれ、庭園だっけ?でもそれって全部幻覚だったから……。
まてまてまて……、どこからどこまでが幻覚?
森に入るところは?学園から出たところは?
私、もしかしてペーシュたちを危険なところに置いてきてしまった……?!
「アハハッそうだよ?今頃君の友人とやらは、僕が作った夢の中で仲良く寝ている。このままだと、永遠に目覚めないかもね?」
私の焦りとは裏腹に、私の口は心底楽しそうに喋っている。くそ、うるさい!
しかし私の罵倒が音にされる前に、右腕が勢いよく振りかぶった。もちろん、私の意思ではない。
「あッ!」
右手に掴まれていた小瓶が、窓の外に向かって宙に飛んだ。窓は開いていなかったはずなのに、小瓶は外に投げ出され、深い霧の中へ姿を消す。
「この霧が、よりみんなを強固な幻覚へと閉じ込める。あとで君の魂も回収しに来るから、それまでせいぜい必死に弁明でもしていればいいんじゃないかな?」
口が一度そう動くと、今度はそのまま大声で叫び出す。
「これでこの学園も終わりよ!!アハハハハハハ!!」
それと同時に後ろの扉が開く音がして、誰かが私の部屋に入ってきたのを感じ取った。
「ス、スカーレットレイク嬢……?」




