光に満ちた空間 ー2ー
会うのは久しぶりだとミラは言ったが、私にとってはこうして会うのは初めてのことだった。しかし、初めてのはずなのにそう言われると久しぶりのような気もしてくる。
けれどもそれに流されまいと、そんなことはないはずだと返答した。
ミラはそんな私の返答を、バッサリと切り捨てる。
『いいえ、私とナナはこうして何度も会っているわ。まぁそれも、あなたであってあなたではないナナだったのかもしれないけれど』
「それってどういうことですか?」
私であって、私ではないとは?
そんな漫画やゲームに出てくるようなセリフを言われるとは思わなかった。実際にそう言われると、なるほど全く意味がわからん。
『ねえ、あなたは子守唄は好き?』
「ん……?」
私の質問には答えずに、会話をあっちこっちで展開するミラの思考についていけなかった。ポカンとする私には気にせず、ミラはもう一度子守唄は好きかと質問してくる。
『私、今まで子守唄なんて聞いたことなかったから……あなたから初めて教えてもらったのよ。正確には、あなたに残った記憶から』
「ごめんなさい、貴方が言っていることの意味があまりよくわかってないんだけど……もしかして、あの変な青い炎が言っていたことと関係してる?」
私の魂が、ミラの魂と融合されたどうのこうのの話。それを聞いた時に少しだけ思い当たることがあった。
私がこの世界で意識を取り戻したとき、私は自分のことをミラ・スカーレットレイクだと思い込んでいた。そして、彼女の記憶を少しだけ思い起こすこともできた。
時間が経つにつれ私は高橋奈々としての自覚を取り戻し、そしてミラの記憶を見ることはできなくなった。それはつまり、魂の融合が解けたからだったのでは。
(そしたらさっきのミラの発言は、私の記憶を覗いて子守唄の歌詞を知ったということなのかもしれない)
でも、何で子守唄?
『ねえ、どう思っているの?』
「…………どちらかと言うと、嫌いだけど……」
私が渋々そう答えると、ミラは静かに目を伏せた。
沈黙が少しだけ辛い。
突然聞かれたから、素直に答えてしまったけれど好きって答えた方が良かったかな?
でも私にとっての子守唄って、母が私にまだ関心を寄せていた頃に歌ってもらっていた歌なんだよね。つまり母が私に無関心になった日から、歌われなくなった歌。
そういう印象が強くて、簡単に好きとは言えなかった。
「あの……、あなたは私のことを知っているんだよね?あの変な火の玉が言っていたことの意味、あなたならわかる?」
私がそう言うと、ミラはにっこりとした笑顔を浮かべて『ええもちろん』と言った。
「それなら、あの火の玉が言っていた“ミラの物語”って……」
『これまでの私の軌跡のこと。私ね、あなたの記憶と自分の人生を照らし合わせてみたの。どうしてかはわからないけど、あなたは私の人生を既に知っていた。……いいえ、あのルナに成り変わった少女も私のことを知っていたわね』
それはつまりゲームのこと。
ていうか、今サラッとルナが別人であることも言及してたよね。まさか中身が違う人間だって知っていたの?
『だってあの子が自分から言っていたもの。でも、そのときから既に私は自分の行動を制御できなかったから、そんなことを言われても仕方がなかったのだけれどね』
「自分の行動を制御できないって?」
『私の身体ではなくなっていたということよ。正確に言うと、今あなたと話している私ではない私が、体の主導権を握っていたの』
「???」
『私は……ミラ・スカーレットレイクという魂の一欠片。全てを諦めたミラの思いが詰まった、魂の残り滓なの』
残り滓……確か、火の玉もそんなことを言っていた。
ブレンドだか何だかって私たちのことを表現していたけど……それって、私もそうだと言うこと?
『そうよ。あなたも高橋奈々という魂の一欠片。ナナの幼い頃の想いが詰まっていて、そして大人になったナナが捨てようとしていた、カケラなのよ』
え?いやいや、私は高橋奈々そのものだけど……。
大人になった私とか何とか言っているけど、カケラとか幼い頃とか、全く意味がわからない。大人も子どもの頃も、私はずっと高橋奈々としての記憶があるんだから……。
大人になった私が、今の私を捨てようとした……?
『意味が全くわからないって顔ね。混乱の文字が浮かんで見えるわ』
「あ、当たり前でしょ……?!そんなこと言われたら、誰だって困惑するに決まってる!」
『私はね、前にもあなたに質問したの。“子守唄は好き?”って。そしたらあなたはなんて言ったと思う?』
「そりゃ、嫌いだって……」
『“どうでもいい”って言っていたわ。そんな歌に思い入れも何もないってね』




