温かな光 ー1ー
(ダメ……!どうしてもアルノー様を止めることができない!)
あれからずっと、私とマルリー様の二人でアルノー様の動きを止めようとしていた。処刑台の周りを囲む黒い影の恐ろしい掛け声は、きっと誰かの死を望んでいて、アルノー様はそれに応えようとしてしまっている。
マルリー様は直感的に感じ取った。
アルノー様の意識が、この空間に飲み込まれてしまったことを。もしかしたら、倒れてしまった“あの人”もそうなのかもしれない。
ここで正気を保っているのは、私とマルリー様……それとジーク・ギルシリ様も……なのかしら?
彼はよくわからない。私たちに手を貸してくれるわけじゃないけど、アルノー様のように朧気な表情をしているわけでもない。ただこの恐ろしい処刑場の風景を見渡して、何かをブツブツと呟いているだけだった。
いいえ、あの様子が正気だとでも?
そうとは思えない……。とすると、ここの空間は男性に強く作用する効果でもあるのかもしれない。
(そんなことを考えている暇はないわ!)
現にアルノー様が私たちを振り払う力はどんどん強くなっている。彼の進む足の力は、どんどん強くなっている!
彼の意思じゃない、誘われてる。あの絞首台に。
一体どうして?!
隣では、マルリー様が涙を流しながら必死に彼を引き留めている。当たり前だ、処刑台に自ら進んでいくお兄様の姿を見ては、彼女も気が気ではない。
アルノー様が正気ではないと彼女も気が付いているから、それを止められないとなれば、彼女は自分を責め続けるだろう。そんなことにはさせない!
「キャァ!」
アルノー様が腕を振るうと、私たちは意図も簡単に振り解かれてしまう。
それどころか、尻もちをついて無様に転がるだけだ。
「……ッ!」
マルリー様は決死の覚悟で魔力を込めて、その魔法をアルノー様に放つ。しかし彼女の紫の光は、サラサラとアルノー様の頭から下まで水のように流れていくだけで、効果があったようには思えなかった。
そう、無理なのだ。
この空間は誰かの幻想によって生まれた空間。他者に幻覚を見せる魔法は、マルリー様と同じ紫魔法。
アルノー様はすでにこの強力な紫魔法にかかっているため、マルリー様の紫魔法は効かない。相手の魔法が強すぎるから。
自分の魔法が通じないとわかると、マルリー様はまたすぐにアルノー様に駆け寄る。
だってもう時間がない。
アルノー様の足が、絞首台の階段を登り始めた。
私もすぐに駆け寄ろうとしたが、右足に痛みが走った。
挫いた……、挫いてしまった……。
我慢すれば、動けるわ!と思って立ちあがろうとするが、立ち上がれない。
(どうして……?!)
もう一度自分の足を見たとき、心臓が凍りついた。
黒い影がとぐろを巻くように、私の足首を覆っていたからだ。
「いやっ!」
咄嗟に手で払い落とそうとするが、その影は煙のように動くだけで離れてくれない。それどころか、その影が揺れるだけで形容し難い不安が心の中でくすぶってくる!
『どうして……どうして……』
(え……?)
女の子の声だ。さっきまで聞こえていた声より、ずっとずっと哀しそうな声。もしかして、この影から?
(何処かで、聞いたことがあるような気がする……)
けど、それは何処だっただろう。
『くらいの……さむいの……かなしい、の……』
…………………、
………………………。
どうしてだろう……この声の主が、アルノー様たちを惑わしている人なのだろうと直感しているのに、この人に対して祈らずにいられない。
すごく哀しそうにしているから?
いいえ。多分私は、この人のことを——————
私は静かに、胸の前で両手を組んだ。
あなたの悪い夢が、醒めますようにって。
その瞬間、体周辺が温かい何かに包まれるような感覚がした。驚いて目を開けると、辺りが一面白くて驚いてしまう。
……………………これは、白魔法の光……?
同じ属性魔法の使い手として、わかる。
この光を発している人は、とても優れた白魔法使いなのだと。だって、この光には誰かに寄り添おうとする慈しみの気持ちが込められている。
この光に触れているだけで、安心して前に進むことができるような……そんな気がするのだ。
その光は、すぐに収まった。
私は体をガバッと起こし、辺りを見渡す。
……あら?体が起き上がる?
私ったら、いつの間に寝ていたのかしら……?
「お兄様!お兄様!」
マルリー様の声が聞こえて、慌ててそちらの方向を向く。
そうだわ、私はアルノー様を止めなくてはいけなかったのに、ずっと呆然としていて……。
すぐに二人の元へ駆け寄る。
マルリー様はアルノー様の上半身を起こし、ずっと彼を呼び続けている。
「目を開けて下さい!お兄様!」




