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魔の手 ー2ー

“ええ本当に!ほんっとうに憎たらしいわよ!あんたのことが!!”


 相手に吠えるように叫びながら、私は私の心臓を取り出そうとするそれの腕を掴んだ。

 うわ……、掴めた……。


 人ではない何者かの腕。

 青い炎からできた幻影なのに、いや幻影だからか体温は感じられなかった。ただ、それに触れているだけでザワザワとした気持ちになるためずっと掴んでいたくない。何より気味悪いのが、“それ”に触れていると頭の中からいろんな人の怨嗟の声が聞こえてくることだ。

 

 コイツの声か、はたまたこいつに取り込まれた魂の声か。

 この声の中にミラもいるのだろうか。


(こいつは……今までこうやっていろんな人の魂を吸収していたんだ……。魂の核がとかなんとか言っていたけど、それを全て取り込んでいたとするなら、今のこいつはとんでもない程のエネルギーを持っているということ……?)


 こいつの腕を引き剥がそうと抵抗しているけど、全く手応えがない!それどころか、相手は私に『抵抗しないで……』と囁くように言ってくる。

 気色悪い!


 けれど、ここで私を掴むそいつの手がピタリと止まる。


『……………………』

“いい加減ッ、離して!!”


 ジタバタと、できているかもわからない私の抵抗にようやく堪えたか、それは黙り込んだ。チャンスだと思って私の内部に入り込んだ腕を引っ張り出そうとするが、叶わない。

 それどころか、私の心臓が撫でられるような感覚がする。


(気持ち悪い……!)


 撫でられている?いや、輪郭をなぞられているような……とにかく気持ち悪い!自分の内部に手を入れられているってだけでも気持ち悪いのに、心臓を撫でられてるって……あぁもう!全身に鳥肌が立ちそう、てか立ってる!!きっと!!


『……………………やっぱり』


 ずっと不自然に黙っていたそれは、ようやく口を開いた。

 しかし、私の心臓を撫でる手は止めない。


“ちょっと!この手を離して?!気持ち悪いんだけど!”

『おかしい……おかしいなぁ……』


 ぶつぶつと呟いた後、私の体がフッと軽くなる。

 どうやら、それがようやく手を離したようだ。

 

『なんで君の魂の核、欠けてるの?頃合いだと思ったのに』

“はぁ?”

『せっかくここまでで待ったのに、まだ回復してなかったの?それともまた傷付いた?どれだけ脆いの?』


 よくわからないけど、相手は苛立っているようだ。

 何こいつ一人で勝手にキレてるの?


『いつもそうだ……後一歩のところで上手くいかない!』


 青い炎がボウッと一回り大きくなる。

 怒るとそうなるんだ。じゃあ、こいつを悲しませたらこの炎が小さくなるのかな?と至極どうでもいいことを考えていた。


『………………………………まぁ、もういいか。ここまで力が強くなっていれば、微かでも足しにはなるだろうし』


 少しだけ気を逸らしていたその瞬間、大きな炎が私の目の前に燃え上がっていた。その炎は私を飲み込もうと、大きな口を開けているようだった。


 …………え、何これ。ちょっとダメな奴かも。

 ちょっとどころか、相当ダメな奴。人が対峙しちゃ、いけない存在……。

 …………もしかして私は、また炎に巻かれるの?


 身を守る手段などない今の私には、恐怖を感じることしかできない……。



 

『……?!』





 私の身体に炎が触れるその時、あたり一面が眩い光に包まれた。暗くてよく見えなかった場所が、今度は白くてよく見えない場所に変わった。

 

 ——遠くから、細波の音がはっきりと聞こえる。

 なんだか懐かしさすら感じるこの感覚、もしかして……。


『チッ、やっぱり彼女が邪魔してたのか……』


 青い炎は、白い光に包まれる前に姿を消した。

 私はポツンと、唐突にその場に取り残されたのだ。



 

「“ ”」



 

 細波の音に紛れて、誰かの歌声が聴こえてきた。

 なんと言っているのかわからないが、その歌声はとても優しい。その歌声を聴いているだけで、先ほどまでの恐怖心がスッと消えていく。


 ——————歩こう、歩かなくてはいけないんだ。


 よくわからない確信のようなものが、私の胸中を支配した。それに従い、私の体は動き出す。


 そうだ、自分の体はこうやって動かすんだった。

 あたり一面白くて何も見えないのに、自分が前に進んでいるという感覚は確かにある。

 

 目的地は、すぐそこだ。

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