ミラという名の少女の物語 ー2ー
そうして決意した後の少女の行動は、すべて空回りしました。
新入生に対して放った言葉はすべて脅迫だと言われ、とある生徒から教えてもらった行為はすべて、加害行為だと言われてしまいました。
それどころか、セレナはその新入生にすっかり心を奪われてしまい、なんと少女を断罪しようとします。
愛する彼に冷たい言葉を投げかけられた少女は、それに耐えきれず、今まで押さえ込んでいた感情を魔法によってすべて解き放ってしまいます。
ルナ、お前さえ……お前さえいなければァァァァ!!!
少女の声に、周囲の人たちは恐れ慄きました。
どれほどの怒りが込められているのでしょう?
どれほどの恨みが込められていたのでしょう?
その感情の矛先は、すべてルナに向かって行きました。
グサリ……、
嫌な感覚がしました。
少女は驚いて、そのまま床に座り込んでしまいます。
彼女の胸は鋭い痛みでいっぱいでした。
彼女の渾身の攻撃はルナに届くことはなく、その代わり自分の胸に一本の剣が刺さっておりました。何よりも鋭いその剣は、少女の心臓を的確に貫いております。
「ど、どうして……どうして……?」
少女は誰に刺されたのかすぐにわかりました。
それでも理解できませんでした。
自分が、愛する人に刺されただなんて。
目を白黒させる少女に、セレナはそっと耳打ちします。
“もう、君はいらないよ”と……。
バタリと少女は倒れこみ、そして動かなくなりました。
そんな彼女の姿に、周囲の人たちは歓声を上げます。
彼女の耳にはその声が聴こえておりました。
それを聞き続けて、聞き続けて……彼女は真っ暗な意識のまま、心の中でただ一つ願いました。
願って……願って。願って、願って、願って願って願って願って願って願って願って願って願ってねがってねがってねがってねがってねがって、そして最期の息を吐きかけたそのとき、
その願いに応えるものが現れました。
それは小さな火の玉でした。
火の玉は、「そこまで強い意志は中々ない。そこまで願うなら、僕が特別に手を貸してあげよう」と言いました。
時間がないよ。さぁ、僕の手をとって——。
少女が気がつくと、柔らかく埃臭いベッドの上でした。
今や懐かしい、彼女が孤独に育った公爵家の自室にあるベッドです。
何が起こったのかと混乱する少女の頭の中に、声が聞こえてきました。
『おめでとう。上手くいったね、さすがだよ』
何と不思議なことに、少女は数年前に戻ってきたのです。
その声は、彼女にこう言います。
『時間を巻き戻すことはね、誰もが成功することではないんだよ。その代償は人の身からすると安くないし、払ったとしても上手くいかないことがほとんどなんだ。だって、人間一人では到底持ち得ないとても膨大な魔力も必要だったから。君は人より多くの魔力を持っていて、そして僕はそれを遥かに超える力を持っている。だからね、僕がいる限り君は、自身の魂をほんの一欠片捧げることで自分の望むように時間を巻に戻すことができるのさ』
少女の頭の中に、つらつらつらつらと声が喋り続けます。
『あー……、つまり君は少しの魔力と少しの魂を僕に捧げることで時間を好きなように戻せるんだよ。さっきは時間がなかったから僕が勝手に数年前まで巻き戻しちゃったけど、次からはちゃんと君の要望を聞くからね』
長い沈黙が、少女にありました。
不思議な声の言うことと、そして自分に起こった奇跡をゆっくり、ゆっくりと噛み締め……そしてようやく理解したとき、胸がドキンと熱くなりました。
それと同時に、少しだけ疑問が。
「どうして、私を助けてくれたの……?」
静かな室内に、少女の小さな声がポツリと零れ落ちました。
火の玉はやけに明るい声で答えます。
『戻る前にも言ったけど、君ほどの強い意志は他の人間では持ち得ないものなんだ。僕は君の気持ちに惹かれたんだ、そう考えてくれていいよ』
その言葉は、少女にからすると嬉しいものでした。
何が嬉しいのかわからない、けど自分の願いを受け入れてくれたような気がする。そんな気持ちがありました。
『それと一緒にね、僕にも願いがあるんだよ。でも僕は君のように体がないから、それが中々叶えられない。だから、僕の願いを叶えるためにも君の力を少し借りたい』
「わ、私は何をすればいいの……?」
『大丈夫、君は何もしなくていい。君から貰える魂の欠片さえあれば、僕はそれで充分なんだ。あとは君の好きなようにしてくれていいからね』
少女は、それならばと思考を切り替えます。
きっとこれは神様が与えてくれたチャンスに違いないと。
今度は絶対に失敗しないと心に誓い、彼女は“やり直し”を始めたのです。




