胸を貫くその言葉 ー3ー
「俺はずっと……騙されていたんだ……、俺が元の世界に戻りたいのを知っておきながら、希望を持たせて……わざと失敗させて……」
薄暗い部屋の中で陰気な声がぶつぶつと聞こえる。
全く……甲高い声で騒がれるのも耳障りだけど、こういう声も中々にうるさいなぁ。
「ねえ、いい加減話してくれないかな?君はルナと何を話したんだい?どうして君たちは、そこまでミラを恨んでるの?」
「………………」
僕が質問すると、ジーク・ギルシリは顔を少しだけ上げた。
やつれて濁った目だ。その姿には、僕より年下とはとても思えないくらいくたびれた中年男の面影があった。
暫く黙っていたあと、その男はようやくこれまでの経緯を話し始めた。けれども男が話した内容の殆どが、僕には全く理解できないものだった。
(チキュウ、ニホン……ループ?)
彼は薬でもやっていたのかな。
それともそういう病気か。
そういえばルナと話をした時も、同じような感想を抱いたや。それならば、彼はルナの思考に影響されたか洗脳されたかの二択も考えられる。
「ルナから……聞いたぞ……。あんたが、このループを止める鍵だってな……」
驚いた。
まさか、彼らの妄想に僕まで巻き込まれていたとは。
「それってどういう意味なのかな」
「ミラはあんたが弱点なんだとよ……。だから俺たちの仲間に入れて、ミラと対峙すれば……アイツを……倒せるって……。そしたら、俺は元の世界に戻れるはずだって……」
ジーク・ギルシリは涙をこぼしながら、悔しそうに呟いていた。おかしいな、ミラがルナに糾弾されているとき、彼のミラへの態度は葛藤やら罪悪感やらがあったように思われたけど、今はそんなのが微塵も感じられない。
言葉の端々に、ミラへの怒りが詰まっている。
「おい、にいちゃん。あんた俺の話に興味ないってツラしてるが、それじゃあ手遅れになるぞ」
急に、彼の態度が変わった。
さっきまでは項垂れていたのに、突然こちらを睨みつけて脅しのような言葉を吐く。
「俺はルナから聞いたんだ。ミラが教えてくれなかった大切な情報を。“ゲームの真ルート”を。このルートが達成できれば、ループは終わるんだ」
……また意味のわからない単語が出てきた。
このまま彼の話を聞いていたら、少なからず僕も洗脳されてしまうかな?正直言って彼からまともな話は聞けそうにないから、ここら辺で切り上げてしまってもいいか。
そう思い、ジーク・ギルシリの前から立ち去ろうとする。
しかしその次に彼が発した言葉は、僕の足を止めるのに十分なものだった。
「お前さん、魔力がないんだってな。それで5つの魔法が使えるミラを婚約者に据え置こうとしている……いや、つもりだったらしいな?」
………………
…………………………、
………………………………
どうしてそれを彼が知っている?
急速に心が冷めていくのを感じる。
「…………その話、誰から聞いた?」
「あんたらが空想や妄想だと取り合わないルナからの話だ」
ジーク・ギルシリはニヤリと笑っていた。
なるほど……、ハルメートが彼女を警戒するわけだ。
まさかそんなことまで知られているとは思わなかった。
僕に魔力がないという情報は、ほんの一握りの人間しか知らない。もし、そのうちの誰かがその話を漏らしたというならば、その犯人を特定するのに時間は掛からない。そのくらい、数少ない人間しか知らないはずなのだ。
(そもそも、そんなに口が軽い人達じゃないしな……)
目の前の男と、ルナ以外はね。
さて……どうしようか。
途端にジーク・ギルシリが目障りになった。
正直言って知られたくない秘密を知られている以上、彼には最悪、消えてもらわなくてはいけなくなる。
しかし、これはルナの話を無視してはいけないという裏付けにもなった。彼女の話が本当だとすると、ミラが恐ろしいことを企てていて、それを彼女たちが阻止しようとしたが失敗した、と見ることだってできる。
見ることはできるが、確定はできない。
うーんと悩んでいると、僕の背後に一人の影が立った。
その影は僕にそっと耳打ちをすると、静かにまた闇の中へ消えて行く。
“……ミラ・スカーレットレイク嬢とマルリー・ラザヴェラ=カプール第一王女がアルノー・イヴァン=カプール第二王子と接触しました……”
ふーん、ハルメートに会いに行って次の日に彼にも会いに行くんだ。……そういえばあの第二王子って、僕たちが何を言っても非協力的だったな。
彼の能力があれば、ハルメートの仮説はすぐに判明できるというのに、彼は僕たちがいくら説明をしても協力はしないと突っぱねていた。
まるで、僕たちには知られたくないことを知っているみたいだ。
「…………そうだなぁ」




