胸を貫くその言葉 ー1ー(セレナ視点)
「だから!アイツが全部悪いんだって!!私は自分の身を守るためにやったの!正当防衛!!アイツは、世界を滅ぼそうとしているのよ?!だってアイツはこの世界のラスボスなんだから!!!!」
目の前で、少女が騒いでいる。
僕が一言何か言えば、それに百の言葉で返答してくる。
つまり煩い。
少女の名前はルナといった。
平民だが類稀なる魔力量を持つ者で、それゆえに特待生としてアメシティーオーズ学園に入学することになった。
……もう少し彼女の性格が“普通”だったら、候補の一人に挙げよう考えていた子だった。
使える属性魔法は一つだけだが、それが癒しを司る白魔法なら好都合だった。それなら国民の支持が得やすいから。
聞くところによると、ルナは平民出身にも関わらず魔法の扱いに長けているらしい。
ルナの噂が耳に届き、そしてはそれが本当だとわかったときは有力候補が一つ増えたと思っていたのに……。
(こんなに会話が通じないんじゃぁ、無理だね)
それに、ルナは公爵令嬢殺害未遂の現行犯で連行されている。だが、皇室で彼女を取り調べしようにも彼女の身柄を学園が渡してくれない。
それに皇室も今は彼女に時間を割くことができないので、ルナの処遇はハッキリと決まっていない。公爵令嬢が殺されかけたのにもかかわらずにね、こんなこと前代未聞だ。
まぁ、だから少しくらい僕の方で話を聞いてみようと思ったらこれだ。
最初に彼女を事情聴取した教員は、さぞ困惑したことだろう。何を聞いても、ルナの口からはミラへの怒り、恨み、憎しみ……これしか話してくれない。
それでも僕が興味深いと思っているのは、ルナがこれほどミラのことを憎んでいるのに、ミラはルナに対して特にマイナス的な感情を持ち合わせていない点だ。
流石にイジメの噂が流れていたときはミラも懐疑心を抱いていたようだが、それはルナというよりは周囲の人々に対してだと思う。
嫌がらせの件に関しては、ミラは冤罪だということは既に知っていた。僕独自の調査で、常にミラの動向は僕の手元に入ってくるようになっているからね。
その調査報告によれば、ミラがルナに危害を加えるようなことは何もなかった。
(彼女が巧妙な手口で僕達を欺き、周囲を裏で操って嫌がらせを仕向けていたとかだったら、もはや天晴れと言いたくなるけど……)
その可能性は極めて低いだろう。
するとあと考えられることは、ルナの妄言だ。
しかしその場合、彼女が本気でそう思い込んでいるのか、多少の嘘を自覚しているのかで話が変わってくる。
……僕は、ルナが本気でそう思い込んでいると考えている。
ルナが吐き出すミラへの恨み言葉の数々は、事実確認が取れない不確かなものばかりだ。やらなきゃこっちが殺されていたとか、アイツは狂ってるとかそんなものばかりだったけれど、彼女の目は確かに震えていた。
本当に何かに追い詰められて、それに必死で抵抗する人間は、全て目に現れる。僕にはルナがその目をしているように見えた。
どうして彼女の脳内で、ミラに殺されかけていることになっているのかは不明だ。けれど正直なところ、ここまで緊迫した表情をしているのだから、一概にルナの思い込みだと言えない気もするなぁ……という考えが僕の中にある。
(そういえば、ハルメートが妙なことを言っていたな)
“彼女は基本的に自分で話を勝手に進め、こちらの意思を無視してくることがありますが、話の内容が時折予言めいていることがありました”
“予言……?”
“偶然と考えられることが数回、考えられないことが一回ありましたね”
………………本当に、彼女に予言の力があったとするなら?
ハルメート・シュルビアが冗談を言う性格ではないことを知っているが、それでもすぐには信じられない話だ。
それに今の彼は、学園で発生している謎の体調不良者が増加している事件の方に集中していて、ルナには全く興味がない。
まぁ、いいか。
こうして座って物事を考えていても、それは憶測の域を出ることはない。とにかくあとはこっちで事実確認をするしかないだろう。
「お話ありがとね、それじゃ」
「ねえちょっと待ってよ!本当に、ミラは狂っているの!早く彼女を何とかしなくちゃ、また全てが台無しになっちゃう!アイツは今どうなっているの?何をしているの?!」
「どうもなにも……君が彼女を刺したんでしょ?ミラはまだ意識不明のままだよ」
「だったら今がチャンスなのよ!早くミラの胸を剣で刺すなりなんかしてよ!!あのシーンみたいに!!」
はぁ、やっぱり何を言っているか僕には理解できないな。




