堕ちる意識
「な、何をなさるのですか?!」
ペーシュは、咄嗟に床に散らばった花の残骸に駆け寄った。
そして手を震わせながら、それを一つ拾い上げる。
セレナはそれでも何も答えず、他の花壇に向かって剣を構えた。それをみたペーシュは、彼の前に立ち塞がった。
「何しているの?これは幻想なんだよ、本物の花じゃない。というか、本物の花であってもそこまで必死になる?」
「本物か、偽物かではありません。どうしてこんな非道いことを?」
……ペーシュがあんなに怒っている姿、初めて見た。でも、セレナがしたことを考えれば彼女が怒るのも当然だ。
あんなに温厚なペーシュが怒るのだ。マルリーやアルノーも、そろそろ彼の行動についていけないと言い出すかもしれない。
(――あれ、今地面が揺れなかった?)
「試してみるだけだよ。何が現状打開の鍵になるかわからない以上、思いついたことは全て実行してみる。結果がなければ次の行動。あれば上々って感じかな?」
「思い付いたって……、どうしてこのようなことを考えつくのかが私には理解できません」
「そうかな?結構単純だよ。だってここを創り出した人、相当悲惨な人生を送っていたようだからね。だからこうすれば何かしらの記憶は呼び起こせるかなって」
「…………ッ!信じられません……!」
「僕だって、本当はこんなことしたくなかったよ。でも、この事態を突破するため仕方ないことなんだ」
ペーシュがそれでも退く気がないとわかると、彼はくるりと方向を変えて剣を構える。それを見たペーシュは、また花壇を庇おうと体を動かそうとした。
下手したら、ペーシュが斬られちゃう……!
彼女を止めなければと思い駆け寄ろうとするが、その瞬間ぐらりと揺れる感覚。
……やっぱり、地面が揺れてる気がする。
しかし皆の様子を確認しても、誰もそんなことは言わない。
皆んなセレナのことばかり見ていて、地面が揺れているなんてちっとも気が付いていないようだ。
(まさか、私が揺れてるとかそんなオチじゃないよね?)
ペーシュのことは、マルリーが止めていた。
止められた彼女は、驚愕の表情でマルリーを見ていた。
「どうして私を止めるのですか?!」
マルリーは静かに首を振るだけだった。
……もしかして、さっきマルリーが言っていた“セレナの考えがわかった気がする”とは、このことだったのかもしれない。
「ペーシュ……あなたの気持ちもわかるけど、今だけは我慢してちょうだい」
「どうしてですか?!」
「幻だからよ。この光景を本物だと考えてはいけないわ」
「違います!ここが誰かの記憶に基づいて創られた空間ならば、この庭園はきっとその人にとって大切な場所だったはずなんです!それをこのように荒らすなど、人の行いだとは思えません!」
感情的になっているペーシュを、マルリーは冷静に説き伏せている。そのやりとりの後ろでは、何も気にしないセレナが黙々と花を切りまわっていた。
塩内さんはまだ床に寝っ転がっていた。私たちの会話が聞こえていないのかも、と思ってしまうくらい彼は微動だにしなかった。
アルノーは、遠くの方を見つめているようだった。
(何が起こっているのかわからない……)
突然、皆んなの様子がおかしくなってしまったような気がする。今までと同じようにそれっぽいことを言葉で並べて、花壇を荒らすセレナ。それに怒るペーシュと、無表情で彼女を止めるマルリー。塩内さんとアルノーは、他人事のようにしているだけだ。
まるで私だけ、置いていかれているみたい。
——それになりより、誰もこの地面の揺れに気が付かないのがおかしい!
ガンガンガンと、頭の中を誰かが叩いている気がする。
だんだん息が荒くなってきて、地面の揺れに耐えきれなくなりそのまま私は転げ落ちる。
転げ落ちる……?一体どこへ?
「きゃぁあああ!」
「うわ!何だ?!」
ペーシュの悲鳴と塩内さんの驚いたような声が聞こえた。
聞こえたけれど、私からは二人に何が起こったのかがわからなかった。
何も見ることはできなかった。
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『やっぱり、あの人は私を切り捨てることを選ぶのね』
『それでもいいわ。あとはあなたが、私の元に戻ってくるだけだから』
『それでようやく、私の願いが叶うのよ』




