この空間を壊す方法 ー3ー
この美しい庭園に、先へ進む鍵がある?
(言われてみれば、ある意味他より異質ではある……?)
でも、そもそもとしてこの洞窟空間が常識では考えられないような造りになっているからなぁ。他と違う場所と言われても、外か中くらいの違いじゃない?
「この庭園だけ、危険なことが全くない。他の場所は、いわゆるダンジョンと呼ばれる場所で魔物などが彷徨う危険な場所だ。それなのにここは、殺意も何も感じないいたって普通の空間だ」
「………………」
「もしかしたらここは、その人にとって心の安寧と言える場所だったのかもしれないね。だから、皆んなでこの空間を動かしてみたら、また何かが起こるかもしれない」
「……流石にそれは、こじつけが過ぎるのでは?正直言って、私はそれでどうにかなるとは思ってませんわ」
「それなら、ここからどうするの?ずっと幻覚を見ながら、どこか分からない場所を彷徨い続ける?」
マルリーはグッと言葉を詰まらせる。
「先ほどみたいに、何かの仕掛けを見つければいいのでしょうか?」
「あの……成金部屋だっけ?あの部屋にあったスイッチのようなわかりやすい仕掛けを見つけるというよりは、“記憶を呼び起こすような何か”を見つけるって考えた方がいいのかもしれない」
あの成金部屋で私たちが見つけた仕掛けは、多分教会が実在していた頃に本当にあった仕掛け。私たちがスイッチを押すことによって、隠し階段が現れるという記憶が呼び起こされたのだとすると、ここでもそのような記憶の切っ掛けを見つけられれば、先へ進めるということになる。
セレナが言いたいことは、多分こういうことだ。
「それじゃあ、皆んなで探してみようか」
セレナの一言で、渋々ながらもこの庭園空間の探索が始まった。
よく考えたら、何が思い出を呼び起こす切っ掛けになるかわからないのに、それを探し当てるってすごく難しくない?
「…………………………」
少し離れたところで、マルリーが小さなフェンスをじっと見つめている。もしかしたら、もう何かを見つけたのかもしれない。
そう思って話しかけるが、彼女は私のことは見ず、じっとフェンスを覆う黄色い花を見ていた。
「…………見て、モッコウバラよ。とても綺麗ね」
「へぇー、これバラなんですね。小さいし棘もないし、何だか可愛らしい花ですね」
花のことはよく知らないけど、純粋に可愛いとは思ったのでそう口にした。
しかしマルリーは笑わない。綺麗だと口では言っているが、その眼差しには花を見て癒されているようなものではなく、むしろ何かを憐れむようなものがあった。
「マルリー?」
「ハァ……。私ね、あの人の言いたいことが何となくわかってしまったような気がするの。それがちょっと嫌なのよね」
マルリーがチラリと見た視線の先には、セレナがいた。
セレナの考えが読めるようになるのが嫌、という気持ちはわかる。誰かから、セレナと考え方が似ているねと言われるのが単純に嫌だから。
しかし私には、マルリーの考えが分からなかった。
マルリーは、セレナの言いたいことがわかると発言したが、それはつまり、彼の推測に内心では賛同しているということだろうか?
わからず首を傾げていると、マルリーが静かに口を開く。
「あの人がこの庭園空間を怪しいと言ったのは、ここが穏やかで安全な場所だから。それが……、この光景が、ここを創り出した人にとって心の拠り所だったことを意味しているのだとしたら……」
「だと、したら?」
「………………いえ、私は確証がないことを口にするのは嫌いなの。どちらにせよ、私があの人の考えを読めていたとしたら、同じことを勝手にあの人がペラペラと喋り始めるわ」
フイと顔を背けられ、「私は、あっちの方を探してみるわ」と言い残してマルリーは私の元から去って行った。かと思えばすぐに立ち止まり、また違う花を見つめているものだから、少しだけ困惑してしまった。
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「全くわかりません……記憶を呼び起こす切っ掛けって一体何なのでしょうか……?」
「第一、本当にそんなのがあるのか?」
「そう言われると、わからないとしか言いようがないね。あるかないかもわからないことを僕たちは探してる。もしかしたらここじゃないのかもしれないし、…………彼の推測が外れていた可能性だってあるから……」
「……………………」
疲れた〜と大きな声で言った後、地べたで横になる塩内さんに少しだけ皆んなは引いていたけれど、疲労には共感しているので誰も何も言わなかった。
「洞窟空間でもう一つ他と違う箇所と言えば、あのピンク色の扉もそうではないですか?」
ペーシュがふと思い出したようにそう言った。
その言葉に私の胸がドキリと鳴る。
「そういえばそんな扉もあったね。確かにあっちの方が気になるかもしれない」
一度そっちにも行ってみないかとアルノーが言い出す中、私の心中は大いに荒れていた。
いやいや、あれは他人の空似ならぬ他扉の空似……。
あんなところに高橋奈々の子供部屋の扉があるはずがない。
そうだよ、だって私、こんな庭園のこと知らないもん。
廃教会のことだって知らない。
だから、ここが私の記憶によって創られた空間ではない。
よって、あの扉も違う扉。
「うん。あれも気になるけど、それはこの庭園空間でできることをやり尽くしてから行ってみない?」
「……ですが、気になるところなどは全て調べたはずです。ここまで手分けした探しても何もなかったのですから、もう何もないのでは……?」
「言ったでしょ、記憶を呼び起こす切っ掛けは目に見えるようなわかりやすいものとは限らないって。僕たちの行動によって、ここを“あるべき姿”にしてみてもいいんだよ」
「……?それはどういうことですか?」
ペーシュの質問に、セレナは笑顔を作るだけで何も答えない。言葉の代わりに、彼は自分の持っていた剣の柄を握った。
一瞬にして、黄色い花弁が宙を舞う。
大きな風が、花を散らしたのかと思った。
「……え?」
セレナの足元に、ボトボトと花が落ちていく。
葉っぱも蔓も、地面に落ちていく。
彼の足元には、無惨にも切り捨てられた植物たちが散らばっていた。




