この空間を壊す方法 ー2ー
「さて、ここまでいろいろ探索してわかったことだけど……」
セレナは演説を始めるように、やけに仰々しく語り始めた。
疲労困憊の私たちは、ただそれに耳を傾けるだけだった。
あれから、この洞窟空間を歩き回り魔物と幾度となく遭遇した。ときには戦い、ときには逃げるを繰り返した結果、得られたものは何もなかった。
そこで、セレナが思いついたことがあると言い出した。
そういう彼の表情には、一見疲れなど見えないような気もするがよく見るとそうでもない。いつも余裕そうな彼であっても、今回のことはだいぶ身体的に堪えているみたい。
……そういえば、セレナって体調が悪いんじゃなかったっけ?ここに来てからそんな素振りを見せないから、すっかり忘れていたけど……。
「それで、分かったことって一体何なのかしら?」
「まず、このまま歩き続けても仕方がないってこと。僕たちは進んでいるようで同じところをグルグルと回り続けているだけだと思うんだよね。皆も薄々勘付いていたと思うけど」
彼の発言に、アルノーは少しだけ目を逸らしマルリーはため息を吐いた。二人の反応は「やっぱりか……」と言いたげで、ペーシュと塩内さんは純粋に驚いていた。
私も、少しだけ「ここループしてない?」とは思っていたけれど、若干構造が違うように見えていたから気のせいだと思っていた。
こうしてセレナがハッキリと言い切ったので、気のせいじゃなかったんだという思いと、じゃあ今までの探索は無意味だったんだという気持ちでせめぎ合っている。
つまり、とてつもない徒労感を感じているのだ。
「……それなら、ここに来たのは作戦会議でもするためってところかしら?」
セレナの提案により、再度私たちが訪れたのは庭園ゾーン。
ここはこの空間にいるだけで心が穏やかになれるくらい安全だから、確かに今後の行動を話し合うにはうってつけの場所だ。
アルノーは近くにあった花壇の縁に腰を下ろした。
それに続き皆も座り始め、作戦会議を開く心積りでいた。
けれどセレナは立ったままキョトンとし、何をしているのだというような表情で私たちを見下ろしていた。
「何してるの?ここには休憩に来たわけでも、話し合いをするために来たわけでもないよ?」
「え?じゃあ何のためによ」
彼の言葉に不満げなマルリーは、思わずといったように声を上げる。一度座ると立ち上がるのが億劫になるのに、休憩のためじゃないとか言われるとより一層疲労感が増す。
「君が言ってたでしょ、幻覚には“綻び“がでるはずだって。最初それを聞いた時は、幻覚を打ち破るためのものかなって思っていたけど、そうじゃないみたいだね」
「いえ、それで合って、」
「ここでは、この空間を動かすためのスイッチみたいなものってところかな」
……?
意味がわからずポカンとする私たちに、セレナは続けて話し続ける。
「この空間はただの幻想というよりは、誰かの記憶によって創り出された追憶の空間なんだと思う。だから僕たちの行動によってその記憶が刺激され、奥へと続く道が開いたんだ。廃教会から洞窟空間への移動がこれに当たるね」
「そういえば、ミラがここの蝋燭に火をつけたときもそんな感じのことを言っていたね」
……確かにそんな感じのことを言っていたような気がする。
「そういえば、そうだったね。君は誰よりも早く、この空間の仕組みについて理解していたわけだ」
セレナが私に向かってニッコリとした笑顔を向ける。
いや、そんな論理的に考えていなかったというか……そんな顔をこっちに向けないでほしい。
「廃教会の空間では、一つだけ異質な部屋があったよね」
「あぁ、あの成金部屋のことですか?」
マルリーは、ビックリした顔をする。
なんて表現をするのよ……と小さくつぶやいているのが聞こえた。
セレナの推測はこうだった。
あの成金部屋はこの空間を創り出した人にとって、思い出深い場所だった。それがいい意味か悪い意味かはわからないけど何よりも印象深かったのだと思う。
その部屋には、スイッチが隠されていた。私たちが今いるこの洞窟に行くための階段が現れる、あのスイッチ。
きっと私達があのスイッチを見つけ、そしてそれを押したことによって、この空間を創り出した人の記憶が刺激されたのかもしれない。
「つまり、その人の記憶を思い起こさせるような行動を私達が取れば、先に進めるということですか?」
「簡単に言えばそんな感じかな」
「よくわからねぇが、何でそんな面倒なことを俺たちにやらせるんだ?元はといえばこれは魔法によるマボロシなんだろ?」
「今までの私たちの行動を全部否定するようなことを言うわね……。本来ならそうだけど、ここは特別な空間なのよ。常識は通用しないと考えなさい」
未だ魔法の仕組みについてよく理解していない塩内さんは、セレナやマルリーの説明を聞いても全く意味が分からんという表情をしている。
それでも彼はそれ以上質問することはなかった。
「そしたらその人の記憶の真髄に行くためには、この洞窟空間で他より違う場所を見つけて、その人の記憶を刺激するような何かしらの行動を取ればいいってことかな?」
「そう、そういうこと。さすがオウジサマだね」
アルノーは少しだけムッとした表情になった。
「……ということは、また歩きまわらないといけないってことですよね…………」
「それならやっぱり、ここで少し休憩したほうがいいわよね。せっかく安全な場所に来たんだから、」
「何言ってるの、ここがその目的地だよ。この庭園、明らかに他の場所とは様子が違うでしょ?」




