この空間を壊す方法 ー1ー
「まぁ、正直に言うとね。魔法が使えない僕にとって、戦闘で頼れるのは自分の剣だけだから、あまり手の内を明かしたくないって気持ちもあったし」
「手の内って……まさかこの状況で私たちにまで明かさないとは思わなかったわ……」
「いや〜、流石の僕も魔法が使えないって打ち明けたのにも関わらず、言及されるのが戦闘に加わらなかったことだとは思わなかったよ」
「怒るのは当たり前じゃない!大体、それだけ強いなら魔法が使えようが使えまいが関係ないわ!次からは絶対に戦いなさいよ!」
マルリーが指先でビシリとセレナを指さすと、彼は笑い出した。
「何笑っているのよ!」
「アハハ!君も結構面白い子だね!わかった、わかったよ。次は戦うからさ、そんなに怒らないでよ」
ヒーヒー笑いながらそう話すセレナに呆れたように、マルリーはもう行きましょうと私たちに向けて言った。
まぁ、セレナがやる気になってくれて良かったのかな?
(にしても、まさかサンドワームに続いてカゲボロまで出てくるとは思わなかった……。いつの間にか、洞窟も“残響の洞“と雰囲気がだいぶ変わってきているし、私のゲーム知識はここで活かすことは出来なさそう)
ずっと歩いてわかった。
この空間は、ゲームで登場したダンジョンがごちゃ混ぜになって続いている。本来ならここに生息しないはずの魔物が出てくるのも、それがきっと原因だろう。
……そういえばさっきマルリーが言っていたこと、あれはどういう意味なんだろう。今なら聞いてみてもいいかな。
「マルリー、ちょっとだけ質問してもいいですかね?」
「あら、何かしら?」
「さっきマルリーが言っていた、“今この空間を現実として考えなくてはいけない”の意味です」
それを聞いたマルリーは、一瞬だけ困ったように私から目を逸らしたあと、周囲を見渡した。
アルノーとペーシュは前を歩きながら会話をしていて、セレナと塩内さんは私たちより少し離れたところでこれまた会話をしていた。
マルリーは皆んなの様子を気にしていたようだが、どうしてそんなことを気にしているのだろう。
「あの、マルリー?」
「……私ね、学園で起きている異常事態——多くの生徒が原因不明の痛みや苦しみを訴えているその原因が紫魔法によるものだなんて、信じていなかったの」
「確かに、そう言ってましたね」
「ええ。けれど、ここに来てから彼の憶測は正しかったのだと考えるようになったわ」
「彼って……ハルメート・シュルビアですか?」
「ええそうよ。呼び捨てだなんて、あなた豪胆ね」
「彼とは知り合いなんですか?」
「今回のことで、向こうから私に話しかけてきただけよ。それまでは接点なんてなかったわ」
へー、そうなんだ。ハルメートはアルノーにも協力を仰いでいたし、マルリーも同じ紫魔法の使い手だから彼女に何かしらの見解を求めていたのかもしれない。
それとも、この兄妹がサラヴァン王国の出身だからかな?
魔法に秀でた国の人なら、今回の現象についても何か知っているかもしれないと考えて、話を聞こうとしていたとか。
そしたら、ハルメートって現状解明のためにいろいろと聞き回っていたのかもしれないなぁ。
「そしたら、魔王復活とかそういうのも信じているんですか?」
「流石にそこまでは信じてないわ。正直言って、魔王とかいう存在は私にとって空想でしかない。もし仮に、本当に誰かが古代の記憶を使って魔王の復活を試みているとしても、手段がおかしいもの」
私はてっきり、魔王復活の儀式か何かをするために、かつてここの教会で行われていたという手法を蘇らせたくてこの空間を幻想で作り出したと思っていたけど……。
「あの人はここが誰かの記憶によって作られた幻想だとか言っていたけど、現代で魔王が存在していたなんて信じている人はいないわ。もしいるなら、それは神の存在を信じていた遥か昔の人ね。まさかその人物が生きているとでも?」
「書籍か何かで記述が残っていて、それをもとに頭の中で再現したとかではないのですか?」
「……絶対に無いとは言い切れないけど、可能性としては低そうだわ。こんなに細部まで作り込まれた幻覚なんて……常人には無理よ……」
マルリーはギュッと自分の手を握った。
「ねぇ、わかる……?今回の事件は、人の力では起こせないはずのものなの。もちろん、自然に起こることでもないわ」
「なら、人の力を超越した何かによるものだと?」
「………………」
それこそ、魔王じゃない?魔王本人が、自分を復活させようとしてかつて自分の味方をしていた人たちの記憶をもとに、ここを再現したとか……と言いたかったがマルリーの肩がが微かに震えているのを見て、それを言うのはやめておいた。
「ミラ……あなたの身体は今、何ともないの?」
「え……?」
唐突に身体に問題ないかと聞かれて驚く。
「何もありませんよ?」
「体に力が入らないとか、そういうのも何もないの?」
「あ、ありませんよ」
「…………そう、それならいいの」
な、何だ今の質問は……?
もしかして、マルリーの方が体調に何か問題が生じているんじゃない?!
「マルリーの方こそ大丈夫ですか?」
「私は平気よ」
はっきりと言い切るその姿に、嘘や誤魔化しは見えない。ここまでいろんなことがあったから、ただ私の心配をしてくれただけだったのかもしれない。
マルリーはそれ以上何も話してくれなくなり、会話はそこで終わってしまった。
何だかアルノーとマルリー、それぞれ知っていることがありそうなのにそれを話してくれないな……。
何か事情があるのかもしれないけど、それが少しもどかしいというか何というか……。
(気になるけど、無理に聞き出さない方が良さそう……)




