ごちゃ混ぜの世界 ー2ー
「でも、逃げるって一体どこに?!」
「とにかく狭い場所!あいつが入ってこられないような場所に!!」
「あ、あそこに扉があります!」
「ちゃんと開くの?!」
走りながら「わかりません!」と必死に答えるペーシュを塩内さんが猛ダッシュで追い抜く。そして彼は、その勢いのまま扉に体当たりをした。
するとその扉はいとも簡単に開き、決死の勢いで体当たりをした塩内さんは「うわぁ!」と叫びながら部屋の中に入っていく。
それを見た私たちも反射的にその部屋の中に飛び込んだ。
「きゃ」
「……!」
「おっと」
「うわ!」
「グッ……!」
部屋に飛び込んだ私たちは、床に倒れていた塩内さんに躓いてそのまま一緒に倒れ込んだ。セレナだけが間一髪で避け、ふー危なかったと呑気に言っている。
「痛ぁ……皆んな、大丈夫ですか?」
「な、何とか逃げ切ったようね……」
「ぉ、おーい……早く退いてくれぇ……」
「きゃあ!すみませんギルシリ様!」
自分の下から、苦しそうな声が聞こえてきたことによって、塩内さんがみんなの下敷きになっていたことにようやく気が付いた。ペーシュが真っ先に彼の上から退き、怪我がないかなどを確認している。
「ねぇ、みんな見てよ。こんな光景、信じられると思う?」
一人だけ無傷であったセレナが何か感心したようにそう言った。
そういえば、私たちは何の部屋に飛び込んでしまったのだろうか……。
「…………え、」
……青空が見える。
鳥の鳴き声も聞こえるし、何ならそよ風も感じる。
周囲を見渡せば色とりどりの花が、花壇の上で綺麗に咲いている。なんて、美しい庭園……庭園?
「わ、私たちはいつのまに外に出ていたのでしょうか?」
「…………いえ、これも幻覚ね。いい加減、私たちもこの幻覚に慣れないといけないわね」
「では、先ほどの魔物も幻覚だったんでしょうか」
「多分ね。そもそも、サンドワームが生息しているのは砂漠があるような暑い国よ。ここら辺の地域だと、気温が低すぎるから彼らが生きていくことは困難なはず……」
マルリー……。サンドワームの幻覚と対峙していた時は、 あんなに不安そうにしていたのに、ここではすっかり落ち着いてペーシュに解説をしている……。
しかし、あれも幻覚だったならあんなに慌てて逃げる必要もなかったかもしれない。……でもあんな生物だったら、たとえ幻覚だとしても食べられたくはないかも……。
「僕たちはここの扉から入ってきたんだよね?」
アルノーは私たちの後ろにあった扉をじっと見つめている。
後ろの景色を切り取り、そこに扉だけ貼り付けられたような不思議な光景。
扉に耳を澄ましてみると、何も聞こえてこなかった。
「どっちにしろ、ここからすぐに出ないほうがよさそうだね」
「……ここは他の場所より安全そうだね。折角だし、少しだけ休んでいかないかい?」
ここまでくるのに碌に休憩などとっていなかったため、アルノーの提案を否定する人はいなかった。
それに、この庭園は安全な場所なのだと皆んながなんとなく感じ取っていた。それほどまでに、ここは穏やかな気持ちになれる場所だったから。
(これも誰かの記憶、なのかな……)
今まで何となく緊張感があったり、危険な場所が映し出されたりしていたけれどここだけは全く違う。もしかしたらここを生み出した人にとって、この庭園は唯一の安らぎの場所だったのかもしれない。
そうだ、ここなら……。
「塩内さん、ちょっといいですか?」
「ん?何だ」
「ここで、少しだけ魔法の練習をしませんか?」
ここなら安心して塩内さんに魔法の使い方を教えることができる。
これまで何回か魔物に遭遇したけれど、そのときの塩内さんは呆然と立ち尽くしているか、咄嗟に自分の急所を庇っているだけ。
ここでの魔物との遭遇は、ほとんど幻だと考えていいだろう。だけどこれから先、本当の魔物が出てくる可能性だってある。それなのに魔法を使うどころか剣の一つ振るえないのでは、彼はすぐに魔物の餌食となってしまうだろう。
「……確か、前も俺にそんなことを言っていたよな。今回はどうしてだ?」
「?、今回も何も、私はいつでも塩内さんの身の安全を想って言っています。ここでは、魔法を使って自分の身を守ることが当たり前の世界なんです。だから塩内さんも、」
魔法が使えたほうがいいことを力説しているのに、塩内さんは心ここに在らずといったようにボンヤリとしている。私のことを見ているようだし、見ていないようだ。
(…………もしかして、疲れているのかな?)
これまで起こったことを考えれば、疲れるのも無理はない。無理はないけど、疲れて集中できていないようならもっと危ない。
(いやでも……、ここは休憩に集中したほうがいいのかな……)
私のお節介が彼の休憩を妨げ、後に塩内さんに大きな怪我をさせてしまうかもしれない。休めるときに休むべきか。
「……なぁ、どうしてさっき俺のことを助けてくれたんだ?」
「え?さっきって……」
さっき……とは、サンドワームの幼虫のこと?
え、もしかして塩内さん、私が仲間を見捨てるような人だと思っていたの?
「助けるって、当たり前じゃないですか!塩内さんは私のことどう思っているかわかりませんけど、私はあなたのことを戦友だと思っているんですよ」
「戦友……?」
「はい!この世界のことを知り、そしてこの世界の異変を解決すべく手を取り合った、戦友です」
塩内さんは、「戦友……」と小さくつぶやいた。
あれ、さっき自分で言ったことを思い返すと私たちの目的って、世界のループの原因を突き止めてそれを阻止することだったよね?
緊急事態とはいえ、今は別のことに集中しちゃっているような……。
「なぁ、高橋さんはどうして元の世界に戻りたくないんだ?」




