その道をひらくのは ー2ー
敵がいるかもしれないのに、自分たちから居場所を晒すような真似をしてしまうなんて……と焦ったが、あんなに大きな音が鳴ったというのに誰も来ない。
というか、やっぱりここには誰もいないのかもしれない。
魔物の声は聞こえるけど、教会の中で遭遇したわけでもないし心配しすぎていたのかもしれない。
「さて、下に行ってみようか」
「でも、鐘が鳴っただけで何かがあったわけではなさそうですが……」
「まだそう判断するのは早いんじゃない?まずは見に行ってみようよ」
懐疑的なペーシュに対して、セレナは楽観的にそう返す。
けど、鐘が鳴るだけにしては確かに大掛かりな仕組みが作動したし、何かが変わっているかもしれない。
何かが起こっていることを祈りながら、私たちは一階へ戻ろうと成金部屋を出る。次はあのガレキの山を下らないといけないのか、と少しだけ気持ちが沈んでいたときアルノーが突然立ち止まった。
そんな彼に対して、マルリーが声をかける。
「いや……ここってこんなに綺麗だったかなって思って……」
「……??私は何も変わっていないように見えますけど……」
マルリーが後ろを振り返り、(あなたたちはどう思う?)と視線で訴えてくる。静かに問いかけられた私とペーシュは、互いに見つめ合い、そして首を傾げた。
私だけでなく、ペーシュもアルノーの言っていることがピンときていないらしい。…………でもそう言われたら、確かに綺麗にも見えるかもしれない……。
「…………ごめん、気のせいだったみたいだ」
何でもないと言ってアルノーは歩き出したが、彼はまたすぐに立ち止まった。しかし今度は私たちも彼の行動を不思議がることはなく、むしろ彼が言っていたことは正しかったのだと実感することになる。
「これは……」
私たちの眼下には、なんの変哲もない階段があった。
ここに来て初めの方に、段差が崩れていて上れそうにもないと判断したあの階段だ。
「これって、入り口にあった階段よね……?上から見ているからかしら、こんなに綺麗だったとは思えないのだけれど……」
「場所に間違いはなさそうですが、見た目はこのような様子ではなかったはずです。それに、この階段は崩れているだけではなくガレキにも埋もれていたはずなので……」
「そのガレキすら、跡形もなくなっているね。まるで、かつての姿を取り戻したかのようだ」
「ほぉー!不思議なこともあるもんだ」
塩内さんはこの現象を不思議の一言だけで済ます。もはや彼にとっては、魔法が使える世界というだけで何が起こっても不思議ではないと考えているのかもしれない。
どうせならと私たちはその階段を利用して一階へ下りる。
下っている最中に突然足元が崩れたりしたらどうしようかと心配したが、安全に下ることができた。
そしてそのまま礼拝堂へ向かっていく。
「あ!あれ……!」
礼拝堂の中央の床には大きな穴が空いていた。
ちょうど、セレナが怪しいと言っていた場所だ。
「本当にこの下に空間があったなんて……」
「ほら、僕の言った通りでしょ?」
ちょっとだけ悔しい気持ちになったので、彼の言葉は無視して礼拝堂に出現した穴に近づいてみる。
そこには下へ続く階段があったが、その奥は暗くてよく見えなかった。
「……もしかしたらこの奥に、お兄様が言っていた“怪しい魔力“とやらの発生源があるのかもしれません」
「うん……。なんだか、この奥から嫌な雰囲気がするんだ。一旦学園に戻ったほうがいいかもしれないね……」
「ハァ?!いやいや!ここまで来たんだからこの際行っちまった方がいいだろ?」
「私はアルノー様の意見に賛成いたします。一度戻って、しっかりと準備してきてからの方が……」
流石の雰囲気に、アルノーたちが戻ろうと提案すると塩内さんはそれに猛反対する。正直言って、私も一度帰った方がいいと思う。最初からずっと思っていたけれど、私たちは軽装備過ぎるから。
塩内さんは掴みかかるような勢いで、「お前もこのまま行った方がいいと思ってるんだろ?!」と私に向かって聞いてきたが、私は自分の率直な意見を伝えた。
すると彼は信じられないというふうに目を見開き、そして最後に残ったセレナには縋るように顔を向けるのだ。
…………どうして塩内さんはこんなに焦ってるんだろう。
セレナは彼の視線をどう受け取ったのか、クスリと笑って口を開いた。
「まぁまぁ、君たちの心配もわかるよ。確かにこの先からは、僕でさえも危険だと感じ取れるくらい怪しい雰囲気が漂ってる。……でも、正直言って帰るという判断を下すのは少しだけ遅かったかもね?」
「は?」
なんだその、敵側みたいな言い回し。
思わず心の声がそのまま声に出てしまった。
「君たちはこの廃教会が、本当にただの廃教会だと思っているのかな?」




