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おかえり

「着いた……。これが僕の言っていた廃教会だよ」

「はぁ……、流石に疲れたわ……」


 目的地に着いた頃、私たちはそれぞれ疲れが見え始めていた。私たちが進んできた森は、学園周辺の森とは違って道がない。アルノーが先導してくれた道も、辛うじて人が通れるなくらいのものだったため慣れぬ道には苦戦した。

 それに魔物と遭遇するかもしれないという緊張感が、余計精神を消耗させたから、教会に辿り着いたときにはもうヘトヘトだった。


(ゲームみたいな戦闘はしてみたいけど、こんなに軽装備じゃ流石に心許ないし……)


 アルノーはよくこんな道を一人で行っていたな。

 私ももう少し体力を増やさないと。


「この教会、想像よりも綺麗ですね。もう少し廃れていると思っていたのですが……」


 廃教会を見上げながらそう呟いたペーシュにつられて、私も建物をじっと見つめている。

 ペーシュの言う通り、こんな辺鄙な場所にあって誰にも使われていないはずなのに思ったよりも綺麗だ。崩れかけている壁などもあるから、完全にって訳じゃないけど。


 ——————何だか、この教会でかいな……。


 いや、そうだ待って。

 確かハルメートが学園の異常事態は、複数人が引き起こしている可能性があると言っていた。

 とすると、ここは敵の本拠地?!


(そう考えると、建物が妙に綺麗なのも納得だ)


「ミラ?どうしたのよ、そんなに怖い顔して」


 私の様子に気が付いたマルリーが声をかけてくる。

 そうだ、この話はみんなにも共有しておいた方がいいかもしれない。仮にこれが間違っていても、この場所で何が起こるかわからない以上、用心する気持ちが大切だから。


「皆んな!聞いてくだ、」


 グルルルルルゥゥゥ……………………


「ミラ!」


 悍ましい唸り声が聞こえて、咄嗟に姿勢を低くしたとき私の体に何かがぶつかった。私はその衝撃のまま地面に倒れるが、背中が少し痛いくらいで他には何もない。

 ポタリと頬に何かが溢れるような感触がした。





 ………………!


「マルリー!」

「ッ……!」


 私の頭を抱え込むようにして、彼女も倒れていた。

 マルリーの腕から血が流れている。


 事態にいち早く気が付いたアルノーが、青魔法を展開する。


「ミラ!マルリーは?!」

「私なら大丈夫ですわ!少しだけ爪がかすっただけです!」

「おいおい……何だ、あのでかい狼は……」

「まさか本当にホワイトウルフが出るとは……」


 塩内さんは、一人だけ呆然と立っている。

 何が起こっているのか、全くわかっていないようだ。


「一度、教会の中に避難した方がよさそうだね」


 セレナの言葉にみんなが賛成して、廃教会に向かって一斉に走り出す。それを止めようと声を上げようとしたが、しかしここで皆を止めてどうなる?という葛藤が湧き上がり、私だけ瞬時に動くことができなかった。


 そんな私を叱咤しながら、マルリーが私の腕を引いて走り出す。駄目、そっちの腕で私のことを引っ張ったら、傷口が開いちゃう!




 

 バタンッと大きな音がして扉が閉まる。

 外からは、爪で引っ掻くような音や体当たりをするような音が聞こえてきた。しかしそれも長くは続かず、やがて魔物の足音は遠ざかっていった。


「マルリー様、今治療いたします」


 ペーシュがいち早くマルリーのもとへ行き、彼女の傷を癒やした。ペーシュの放つ白い光が収まると、マルリーの腕には傷がなくなっていた。


「へぇ、見事な腕前だね」


 セレナが感心したように呟く。

 確かにペーシュの白魔法は凄い、けれど……。


「制服、破れちゃいましたね……」


 破けた部分から、マルリーの肌が見えている。

 彼女の制服には魔物の爪痕を想像させるような、3本の線が走っていた。

 傷はもうなくなっているけれど、制服がそのように破けていると、魔物に襲われたのだとすぐにわかってしまうから余計に痛々しい。


「あなたが呆けているからよ」

「…………すみません」

「次からは油断しないことね!何が起こるかわからないんだから」

「そのことなんですけど、やっぱり、一度戻って装備などを整えてからまたここに来ませんか?」

「残念だけど、今すぐここを出るのはやめておいた方がよさそうだね。またホワイトウルフに鉢合う可能性が高いだろうから」


 私の提案は、セレナによってあっさりと切り捨てられてしまった。


「大丈夫です、ミラ様。皆さんが怪我をしても、私が治してみせますから」

「そうよ、このくらいで怖気付くなんて情けないわ」


 何でみんな、こんなにも積極的なのだろうか……。

 私が気にし過ぎているだけ?


「でもミラの言う通り、深追いは危険だ。実は僕も内部までは入ったことがなかったんだ。だから、ここから先は僕も何が起こるかわからないよ」

「ここに来た目的は、お兄様が感知した魔力の原因を探ることですわよね」


 兄妹はここに来た目的を再確認する。

 そうだ、ここに来た理由はアルノーが大きな魔力のオーラを感じるからだと言っていた。それが学園で起きている異変に繋がっているのかはまだわからないんだった。


(そうだ、まだここが関係あるかはわからない。…………わからないのに、)


 何だか、ここに来てから妙な胸騒ぎがする。

 私だけ、何かに焦っているような感覚がする。





 ——————何かが、私のことを待っているような気がするのは何故?

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