そこへ向かうは ー3ー
「言っておくけど、僕の話が全部正しいだなんて考えないでね」
やけにぶっきらぼうにアルノーが言い放った。
普段の彼とは全く違う……というより、一学期に合宿訓練をしたときのような態度に少しだけ胸がヒヤリとした。
やっぱり、ペーシュやセレナに話したことが不味かったのだろうか……。
しかし、アルノーがチラリと視線を向けたのはセレナにだった。マルリーがセレナのことを嫌うのは何となくわかるんだけど、アルノーも彼のことを嫌っているのは意外だった。
嫌う……というより、警戒してる?
「わかっているよ。それ込みでの調査なんでしょ?」
「………………」
アルノーはセレナの言葉に何も返さない。
廃教会への行き方を知っているのはアルノーだけだ。
だから森の中を先陣切って行くのは彼になる。そのため、彼が前を向いてズンズンと進んでしまえば、その表情を窺うことはできなくなる。
でも。セレナの言うことも尤もである。
一人で危険な場所に行かなくても、セレナやハルメートたちと協力せずとも、他にも相談できる人たちはいたんじゃないだろうか。
(それこそ、私達にだって……)
彼が頑なに一人で行こうとするのには、何か理由があったんだろうか。
忘れそうになるけど、アルノーとセレナは本調子ではない。
セレナは胸が痛いって言っていたし、アルノーに至っては息苦しいのか首が痛いのか、あついのかどれが当てはまっているのかさえわからない。
「少しだけ、視界が悪いですね」
「そうね……単純に暗いだけじゃなくて、何だか霧っぽい。なのに道に迷わずに進めるんだから、お兄様の能力は凄いわね」
「確か、あのような力を持つ人のことをクロマサイトと呼ぶのでしたよね?」
「あぁ……何だかそうらしいわね。私たちの国ではあまりそう呼ばないわよ」
「えぇ!そうなんですか?それなら何と、」
後方でペーシュとマルリーの会話が聞こえてくる。
二人は自分たちの間に塩内さんを挟み、彼を監視しながらアルノーの後をついて行っているのだ。塩内さんが私に話しかけにこようとするたび、マルリーが「吐き気を感じたいかしら?」「足が鉛のようになるわよ」と脅している。
「そういえば……、マルリーに聞きたいことがありました」
「あら、何かしら?」
「ハルメート・シュルビア卿から、紫魔法は錯覚に近いって教わったのですがそれって本当なのですか?」
「錯覚?全然違うわよ、私たちは相手に与えたい効果をちゃんとイメージしながら魔法を使うんだから、他の属性魔法と同じよ。あなた目の前に火球が飛んできても、それが錯覚だと思うのかしら?壁や地面が燃えていたとしても?」
「いや……それは流石に……。と言うより、赤魔法とかは実際に起きているではないですか」
「失礼ね!紫魔法だって実際に“そう”なっているのよ!…………もしかしてだけど、あなたが言ってるのは“幻術”の話じゃないかしら?」
「幻術……」
「あら、忘れてしまったの?私たちが学園祭の演出の一つに使ったって言ったじゃない。最後の敵が悪足掻きに巨大になって勇者を叩き潰そうとしたシーン、まさか憶えていないの?」
マルリーはあの素晴らしい演出を忘れるなんてありえない、とプンプン怒っている。
「幻術って、どんなものでも見せられるのですか?」
「それは人それぞれね。というより、紫魔法はどの属性魔法よりも個性が出てくる魔法なの。紫魔法には基本的に“眠気”や“鈍足”、“防御力低下”などはっきりとした分類ができるのよ。まずこれらの中から人によって得意が不得意かが出てくるの。“眠気”は得意だけど“鈍足”は苦手とか」
これはハルメートもそんなことを言っていた。
つまりは魔法を使う本人が、その状態をきちんとイメージできているかが鍵になると。
「そうした基本的な種類の中にね、“幻術”って分類される魔法があるのよ。幻術って多くの人にとっては目眩しのようなものなの。そこにはないものを見させて、一時的に攻撃し辛くさせるとかそんな感じよ」
うんうん、確かにハルメートが使う魔法にもそんな感じのがあった。魔物相手に目眩しを使って、相手の攻撃の命中率を下げるとかってやつね。
「でも、中にはこの幻術をもっと自在に使える人がいるのよ。そう言う人たちってね、本当に何でも見せたいものを見せて相手を行動不能にさせるんだから。使っているのは幻術ただ一つなのに、まるでいろんな魔法を使ってくるようにも見せられるから、幻術使いは侮れないわよ」
「でも、はっきりとした幻術を見せるのは難しいんですよね」
「………………そうね、多くの人にとってはただ目眩し。目の前をチカチカさせるとか、今の景色みたいに少しだけ霧っぽくさせるとかそんな感じが多いかしら?単純に難しいのよね」
「でもそれを使いこなせれば、まるで本当に“そうである”かのように思い込ませられると?」
「そうね。例えば、“溺れる”とかだったら本当に水の中に沈められているような感じがして、息苦しくなるとかかしら?」
なるほど……熟練の幻術使いは、息苦しいという効果を相手に与えるのではなく、“水に溺れる”という幻術をかけることによって、間接的に“息苦しい”という効果を相手に与えているのか。
もしかしたらそれ以外にも、水に溺れたら体は思うように動かせなくなるのだから、追加で“鈍足”の効果も与えられるとか?そしたら確かに強い。
「でも、これに関しては集中力をすごい使うし、そこまで自在な“目眩し”を使える人なんて本当に一握りの人間よ。こういうとき、なんて言ったらいいのかしら……」
「理論値、じゃないですか?」
「理論……?…………まぁ、そんな感じかしら?」
【お詫び】
ここ数日、投稿時間が不規則になってしまい大変申し訳ございません。明日は通常通り17時に投稿いたします。




