第778話 大シマリス湯口
「キー」
「良いね。とても凛々しくて勇ましい」
「キー」
「うんうん。これも良いね。とても可愛い。とても愛くるしい」
「キー」
「いいよー、綺麗だよー」
――てな感じで、次々にポーズを変える大シマリスのフリードリッヒ君を紙にスケッチしていた。
何をしているかと言うと、ミニ大シマリスキーホルダーのデザインを考えていたのだ。
買う人からしても、キーホルダーのバリエーションなんて多ければ多いほど嬉しいはず。
とはいえ、僕一人で考えられるポーズの数にも限りがあるため、フリードリッヒ君本人にポージングしてもらって、デザインのストックを増やしていたのだ。
「よしよし、ひとまずはこのくらいでいいかな。ありがとうフリードリッヒ君」
「キー」
「ちなみに、こんな感じ」
「キー」
僕がスケッチした画を見せると、フリードリッヒ君は少し照れながらも、少し嬉しそうにしていた。
「これでまた、いろんなフリードリッヒ君を作れるよ。――あ、せっかくだし、フリードリッヒ君にも見てもらおうかな」
「キー?」
「ちょっと待ってて、今もそれなりに溜まっているはずだから」
そう言って、アイテムボックスから取り出したのが――
「これが、今僕が所持しているミニ大シマリスキーホルダー」
「キー……」
「今のストックがこれだけで――まぁこれもすぐに全部売れちゃうんだけどね。作れば作るだけ売れていく。即日完売。即完ってやつだよフリードリッヒ君」
「キー……」
ふむ。完成品のミニ大シマリスキーホルダーを見てもらったところ、ただのスケッチよりも反応が微妙である。
スケッチの方は照れつつも喜んでくれていたのに、キーホルダーにはだいぶ困惑した様子を見せている。もっと喜んでくれて、もっと誇ってくれていいのにねぇ。村中のみんながフリードリッヒ君のキーホルダーを欲しがっているというのに。
でもまぁ、自分のキーホルダーが即完だと言われても、やっぱりちょっと戸惑ってしまうものなのかな?
あるいはフリードリッヒ君のことだから、そんな大人気キーホルダーを作り続けなければいけない僕のことを心配してくれているのかもしれない。
「……あ、そうだ」
「キー?」
「実はね、他にもフリードリッヒ君に見てもらいたいものがあるんだ」
「キー」
「これなんだけど」
そう言って、僕がアイテムボックスから取り出したのが――
「フリードリッヒ君の湯口だね」
「…………」
「フリードリッヒ君?」
「…………」
絶句である。
何やら僕がフリードリッヒ君のグッズを見せる度に、フリードリッヒ君本人のテンションが下がっていく。スケッチは照れつつも喜んでくれたのに、キーホルダーは当惑気味で、湯口の方はドン引きして絶句である。
とはいえ、湯口はそうなるのも仕方がない気がする。これだけ見ると、ただの生首だしね……。
「ちなみに、もうひとつある」
「…………」
もうひとつ首を並べてみた。男湯と女湯で一首ずつ必要。なので二首だ。二首がテーブルに並んでいる。
……まぁ並んでいると言うよりは、晒されていると言った方が近いようにも感じるが。
「とりあえず、これはあんまり人に見せない方が良さそうだね……」
「キー……」
何も知らずにこれを見たら、フリードリッヒ君が大変なことになっていると勘違いしてしまいそう。
「あー、でもほら、実際に湯口として設置すれば、そこまでおかしなことにはならないはずだから……」
「キー……?」
「うん、大丈夫。きっと大丈夫……」
「キー……」
◇
「……ちょっと怖いね」
「やっぱりそうですかね……」
ようやく湯口が完成したこともあり、さっそく付けてみようと、フルールさんと一緒にダンジョンの温泉エリアまでやってきた。
そして前回同様、僕が先に一人で男湯に入り、偶然入浴中だったジェレッド君とひとしきり雑談を交わして、ジェレッド君が温泉から出た後で、男湯の入口に『改築中』の張り紙を貼り、それからフルールさんと一緒に男湯までやってきた。
そしてフルールさんにも大シマリス湯口を見てもらったのだけど――
とりあえずフルールさんからは、『ちょっと怖いね』という感想をいただいた。これでもだいぶ言葉を選んでくれているような気がする。
「でもほら、実際に湯口として設置すれば、そこまでおかしなことにはならないはずですから……」
「そうなのかな……。うん、それじゃあやってみようか」
さっきも話した言い訳を口に出しつつ、実際に取り付け作業に移る。
「では、最初に元の湯口の取り外しからですね」
「うん、やっていこう!」
「やっていきましょう。それでまずは――こうですか?」
「そうそう。そこをそうやって――」
てな感じで、フルールさんに指示されながら作業を進める。
今のシンプルな湯口が、これからどれだけ様変わりするのか。今から楽しみでもあり、少し怖くもある。期待半分、不安半分と言った具合だ。
……いや、期待半分はちょっと盛りすぎたかもしれない。現状だと、不安の方がだいぶ多めな印象である。
◇
「おー、ちゃんと出来てますね」
「うん、よく出来てる!」
しっかりお湯が流れている。大シマリスのフルフル君の口から、そこそこの勢いでお湯がちょぼちょぼと湯船に流れている。
計算通りだ。お湯の出口を絞って勢いを持たせたのがよかったな。そうじゃなければ、ヨダレみたいに口からダラダラと滴り落ちていたことだろう。
「というわけで、実際に取り付けてみたわけですが……実際のところ、感想はどうです?」
「え? あ、うん、よく出来てるなって――」
「……ええまぁ、湯口自体はしっかり機能しているように思えます。しかしですね、それは湯口の性能に対しての感想であり、湯口のデザインに対しての感想ではない気がしたのですよ。大シマリスのフルフル君を模した湯口を見て、フルールさんはどういう感想を持ちましたか……?」
二人して『よく出来てる』という言葉が口をついて出たわけだが、たぶんそれって『しっかり湯口になっている』ってだけの感想なんだよね。
それで言うなら、元々のシンプルな湯口でも十分だった。そこをあえて変えたのだから、やはり見るべきはデザインの部分。このフルフル君湯口というデザインに対して、果たして僕達はどう評価を下すべきなのか。
「あー、どうなんだろうね……。悪くはないような気もするけど……」
「そうですねぇ。悪くはないはずなんですけど……」
「それはやっぱりフルフル君だし、可愛いことは可愛いんだけど……でも、なんか違うような気がして……違和感があって……」
「なるほど……」
首だけのフルフル君が、延々とお湯を吐き出し続けていることに違和感があると……。
まぁそう聞くと違和感も当然だわな。むしろ納得だ。それで違和感がない方がおかしい。違和感に納得感。
というわけで、やはりだいぶシュールな湯口が完成してしまったわけだが――
「しかしこれは――フルフル君にして良かったですね」
「……え? そうなの?」
「フルフル君だから、これくらいで収まっているのだと思います。これがもしも父だったりしたら、果たしてどうなっていたのか……」
「ああ、うん、それは確かに……」
これが父ならば、あるいは父と僕の親子湯口だったりしたら、もっともっと恐ろしいことになっていたに違いない……。
まぁそれで言うと、やっぱり最初のシンプルな湯口から変えなければいいんじゃないかっていう話もあるけれど――そこを考えてはいけない。なにせもう作ってしまったのだ。作ってしまったからには変えざるをえない。
「では、続いて女湯ですね」
「あ、やっぱり女湯の方も変えるんだ……」
ええまぁ、なにせもう作ってしまったので、作ってしまったからには変えざるをえないのです。
というわけで、是非とも女性陣にも温泉でシュールな感覚を味わっていただきたい。
「しばらくしたら、木か石の質感っぽいニスに変更しましょう。それで今の違和感も薄れるはずです」
「なるほど! え、あれ? じゃあ別に今のうちにそうしとけば……?」
「いや、ひとまずはこのままで、まずはみんなにもこの感覚を味わっていただきたいので」
「そうなんだ……」
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