第777話 新人力車
「というわけで、これからよろしくお願いします。また一緒に頑張っていきましょう!」
そう言って、改めてジェレパパさんに共闘を呼び掛けた。
小さな大シマリスキーホルダーを一緒に作っていこうと、共に地獄を駆け抜けようと、改めて提案させていただいた。
そしてジェレパパさんも、僕の呼び掛けに快く応じてくれて――
「勝手に俺を巻き込むなよ……。俺は関係ねぇだろ……」
「…………」
微妙に渋っている……。
勢いで巻き込もうとしたところを、冷静に切り返されてしまった……。
「お願いしますよジェレパパさん……。いかんせん作っているのが大シマリスのジェイド君なので、他の職人さんには任せられないのです」
「あー、そこら辺は坊主にもこだわりがあんのか」
「そうなんですよ。大変な状況ではありますが、それでも譲れないものがありまして――しかし、ジェレパパさんならば問題ありません。ジェレパパさんならば僕も安心してお任せすることができます」
ジェレパパさんならジェイド君のこともよく知っているし、ジェレパパさんの技量であれば人形作りも容易いはず。
やはりジェレパパさんで決まりだな。むしろジェレパパさんしかいない。地獄へのパートナーはジェレパパさん以外には考えられない。
「つっても、俺も人形作りなんて専門外だしな……」
「ふむ……。確かに今まで人形作りはお願いしたことがなかったですかね」
まぁそれで言うと、別に僕も人形作りが専門ってわけではないのだけどね?
「専門外とのことですが、今まで作ったこともないですか? 僕みたいに、知人の人形を作ったりってことは?」
「作らねぇよ。俺にそんなやばい趣味はない」
「…………」
気の所為かな? 今サラッと僕のことをやばい人扱いしなかった?
というか、別に僕も趣味で知人の人形を作っているわけでは……。どうなんだろう。僕としてはみんなが喜んでくれるから、みんなのために作っている感覚なのだけど、それでも趣味ってことになるのかね……。
「まぁ大シマリスの人形ってことなら、そこまでの抵抗感はないような気もするけどな……。だけどなぁ、それでも専門外だ。やっぱ俺の専門は――武器と防具だからな」
「はい?」
「あん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
そうか、あくまで自分の専門は武器と防具だと……。まだ自分のことを武器屋の店主だと……。
むしろ僕からすると、ジェレパパさんには武器と防具以外のことばかりお願いしている気がする。遊具と日用品の製作ばかり頼んでいる気がする。
そして、そんな専門外の木工作品をお願いして、それらを難なくこなしてくれるわけで――だとすれば、人形作りも余裕なのでは?
「では一度、ジェレパパさんも試してみましょうよ」
「試す?」
「こちらの人形をサンプルとしてお渡しします。これを見ながら試しに一体作ってみてくださいな」
そう言って、さっきカウンターに置いた小さな大シマリスキーホルダーを、ずずいっとジェレパパさんの方へ寄せた。
「これなぁ……。どうなんだろうな。なんつうか、やっぱ可愛らしく仕上げなきゃいけねぇわけだろ? そこの自信がねぇわ」
「んー、いや、そこはあんまり意識しなくていいんじゃないですかね。なにせジェイド君は元々が可愛らしいですから、ジェイド君のことを考えながら大シマリスを作ったら、それはおのずと可愛らしくなっていくものですよ」
「そんなもんなんかな……。まぁやってやれねぇこともねぇんだろうけど……とりあえず形だけ作ればいいのか?」
「そうですね。完成した物に僕がニスを塗って、それでどうなるか見てみましょう。あ、あと完璧に同じ物を求めているわけではないので、ポーズとかは自由に作ってみてください」
「なるほどな、じゃあ試しに作り始めて…………あ、おい、なんかいつの間にか協力することになってねぇか? 俺はまだ協力するって言ってねぇぞ?」
「…………」
バレてしまった。なし崩し的に協力させようとしていることに、気付かれてしまった。
「まぁまぁ、ものは試しということで」
「何がだよ……。どういうことだよ……」
でもなんだかんだでジェレパパさんは優しいので、なし崩し的に協力してくれるはずだと信じている。
「では、明日また完成品を見に来ますので、何卒よろしくお願いします」
「しかも明日かよ……。明日までに一体作れって言ってんのかよ……」
◇
「さて、それとは別に依頼があるのですが」
「他にもあんのか……。なんだ?」
「実はですね――新しい人力車が欲しいのです」
実のところ、今日はその相談で来たのだ。むしろこっちが本題だった。
この話を切り出そうとしたところで、妙に警戒されて『俺を地獄に巻き込もうとしてるんじゃねぇか……?』と言われてしまったので、ついつい僕もそっちに話を切り替えてしまった。実際にキーホルダーの方も困っていたもので……。
「人力車? 別に構わねぇけど、今のになんか問題があったか?」
「いえいえ、問題も不満もないです。世界旅行中は大いに助けられました。あの人力車がなければ、僕の世界旅行は道半ばで潰えていたことでしょう」
「おぉ……。そんなにか……」
とはいえ、実際に人力車を使っていて気が付いた改善点や改良案がないこともない。それらはまた今度、別の機会に相談させてもらおう。
今相談したいのは、また別の人力車についてだ。今僕が相談したい新人力車。それは――
「僕が欲しているのは――パレード用の人力車なのです」
「パレード用?」
「今回のパーティでも、やはりパレードはやった方が良かったのかなって、そんな反省があったのです」
「あぁ、世界樹様のパレードか。あれは盛り上がるよな。そうか、今回は世界樹様が関係する催しだったわけで、それは確かに世界樹様のパレードもあった方が良かったか」
そう。そうなのよ。なにせ世界樹の酒(仮)開封パーティなのだから、それは当然世界樹様のパレードもあって然るべきだった。
うっかりしていたね。いかんせんパーティ自体の準備が忙しくて、そこまで気が回らなかった。そこは村のみんなに申し訳なくて、ユグドラシルさんにも申し訳なく思う。
「で、そのパレードですが、いつもはジェイド君が引っ張る人力車に世界樹様が乗ってもらって、それから村を練り歩く流れになっていました。しかしそこで思ったのです。どうせなら――もっと豪華な人力車に乗ってもらいたいなと」
前々から考えていた計画ではある。どうせならもっと豪華な人力車で、派手にパレードをやってもらいたいよね。
「個人的に、大きな建物とかはフルールさんの担当って印象なのですが、それでも人力車ですから、やはりここはジェレパパさんに依頼した方がいいのかなと」
「うん? なんだそりゃ? つまり、大きな建物くらいの人力車を作るつもりなのか……?」
「そのつもりです」
「……それでパレードするのか?」
「そのつもりです」
「……無理じゃねぇか?」
「……無理ですか?」
「そんなでかい人力車だと、重さで人力車自体が自壊しかねねぇし、そもそもジェイドが引っ張れるかわかんねぇ。もしも引っ張っている最中に倒れたりしたら……」
「なるほど……」
そうか。大きければ大きいだけ良いと思ったのだけど、そう聞くといろいろと問題も出てきそうだ。
確かにジェイド君が大変そう。そんな重い物を引っ張らせて、ジェイド君を危険に晒すわけにもいかないし、ジェイド君が何かの刑罰を受けているように見えるのも避けねばならん。
「うーむ。じゃあ他の候補として……例えばこんなのとか?」
他にも案はいくつかある。マジックバッグから紙とペンを取り出し、サラサラと新人力車案を描いていく。
「どうです?」
「あんまり見慣れない形だな……。これだけだとちょっとわかんねぇ。なんとなく得体の知れない風格というか、重厚な感じは伝わってくるけど……」
日本のお神輿っぽい人力車を描いてみた。荘厳さっぽいものは伝わったようだが、ジェレパパさんが見慣れないのも当然ではあった。
「あるいは、こんなのとか」
「……なんかちょっと禍々しくねぇか? このツノみたいのはなんだ?」
世紀末っぽい人力車を描いてみた。聖帝サ◯ザーのバイクみたいなやつ。禍々しいのも当然であった。
「そうじゃなければ、他に――」
「というか、世界樹様はどうなんだ?」
「はい?」
「どういう人力車が良いとか、具体的な要望とかはないのか?」
「あー、直接は聞いてないですね」
「……聞かないのか?」
「いやいや、こういうのは内緒にしておくのが良いのですよ。何も聞かずに何も言わずに作っておいて、びっくりさせつつお披露目するんです。その方がユグドラシルさんも喜んでくれるはずです」
「そうかな……」
「そうですよ。きっとそうです」
「そうなんかなぁ……」
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