第769話 そういう星の下に生まれた子2
「ちなみに、フルールさんはどうです? 湯口のアイデアについて、何か他に思い浮かぶことはありますか?」
「んん?」
そんな質問を投げ掛けてみた。
これまで様々な湯口のアイデアをフルールさんに紹介してきた僕だが、もしよければフルールさんのアイデアも伺ってみたい。一応フルールさんからも、『アレク湯口』という提案っぽいものはあったわけで、他にも何かアイデアがあるなら頂戴したい。
「んー、急に言われてもなー」
そう言って、若干困り気味のフルールさん。
まぁさすがに急すぎたか。……というか、もっと時間を取って、もっといろんな人にアイデアを募集したらよかったかもしれないね。
一応今までに僕が貰ったアイデアというと、フルールさんのアレク湯口と……キュプリスさんのアレク小便小僧だけだ。
フルールさんの方はまだしも、キュプリスさんの方はさすがにな……。もう少し時間と人数を掛けたら、さすがにもう少し良いアイデアが集まったことだろう。
「――でもさ、ひとつ思ったことがあるんだけど」
「お、なんでしょう?」
「今までの案って、フルフル君とかセルジャンさんとか、あとはまぁ私とかアレクとか、メイユ村の人達が多くなっちゃったよね? ルクミーヌ村の人達も候補に入れていいんじゃないかな?」
「ほほう?」
なるほどなるほど、フルールさんの言う通りだ。
一応このダンジョンは、メイユ村とルクミーヌ村の中間に位置するダンジョンで、なんならルクミーヌ村の方がちょっぴり近かったと思う。
であれば、メイユ村の人だけではなく、ルクミーヌ村の人も湯口候補に加えるべきだろう。
「良い案ですね。ありがとうございます。ではルクミーヌ村の人も候補にするとして――」
「誰にしようか?」
「そこですよね。そこが悩みどころです。そもそも湯口を作るのは僕なので、だとするとあんまり親しくない人の像を作ることもできなくて……」
基本的に僕は木工でその人を再現するだけだから、よく知らん人は作れんのよ。
「どうしましょう。とりあえずルクミーヌ村で一番親しい人といえば、やっぱりディアナちゃんになるわけですが」
「うん、ディアナちゃんでいいんじゃない? たぶんディアナちゃん喜ぶと思うな」
「しかし、そうすると……レリーナちゃんがキレそうですが」
「あー……」
レリーナちゃんを差し置いてのディアナちゃん抜擢。特にディアナちゃんの場合、そのことでレリーナちゃんを煽ったりしそうだし……。
その結果、レリーナちゃんに『なんでなのお兄ちゃん。なんで?』と厳しく問い詰められそうな予感がする。
「えっと、じゃあ他の人にする? 他にルクミーヌ村でアレクが親しい人って誰になるかな?」
「他というと――村長さんでしょうか」
「村長さん? ルクミーヌ村の?」
「そうです。わりと親しかったりします」
ルクミーヌ村次期村長を打診される程度には親しい間柄だったりします。
「うん、いいんじゃない? むしろちょうどいい気がする。こっちも村長さんを出しているわけだし、あっちも村長さんで」
「ですね。そうしましょうか」
まぁルクミーヌ村の美人村長さんを候補に立てると、今度はディアナちゃんがキレそうな気がしないでもないけれど……。
でもルクミーヌ村を代表する人物なのは間違いないし、ぴったりの人選ではある。
というわけで候補は決まった。湯口改築の第六案は、ルクミーヌ村の美人村長さんだ。美人村長さんのイラストもサラサラと描いていく。
「ではこんな感じで」
「おー。似てるね」
うむ。簡単なイラストではあるけれど、美人村長さんの美人さんっぷりと村長さんっぷりを、我ながら上手く表現できたと思う。
「こんなところですかね。ひとまず新規のアイデアはこのくらいにしておきましょう」
「うん、結構集まったかなって――うん? 新規のアイデア?」
新規のアイデアはこのくらいで――それとは別に、既存のアイデアも候補に残しておきたい。
「最後にもうひとつ。最後の第七案が――何も変えずに、今の湯口をそのまま使い続ける案」
「あれ? そうなの? 変えないの?」
「さっき改めて現在の湯口を見て、このままでもいいかなって思ったんです」
普通に良い湯口だった。とても風情ある湯口だった。今までの案を振り返ってみると、むしろ何も変えないことが一番良い案だと思ってしまうくらいに……。
なので据え置きという案も候補に加えておこう。そして、これも一応イラストにしておこう。
「さて、これですべての案が出揃いました。フルフル君、父、ユグドラシルさん、フルールさん、僕、ルクミーヌ村の村長さん、あるいは変更無しで今の湯口で据え置き――この七つの案があります」
七つの案があって、七つのイラストを紙に描いた。
この中から、どの案を選ぶかというところなのだが――
「ではフルールさん」
「うん?」
「すべての紙を裏返して混ぜるので――その中から一枚選んでください。その湯口を作ろうかと思います」
「え? え、でもそれって――えぇ!?」
大層驚いた様子を見せるフルールさん。まさかそんな選び方をするとは思っていなかったらしい。
しかもその選択方法だと――自分の湯口を作られる可能性もあると気付いたらしい。
「その中から選ぶって……。私のもあるんだけど……」
「僕のもありますね」
「いや、だからアレクはいいじゃない……」
いやいや、僕だって恥ずかしいですよ。自分の口からお湯が出続けるとか、冷静に考えると結構恥ずかしいですよ?
「まぁ確率的には七分の一です。そこまで心配することはないですよ」
「結構高めな気がするんだけど……」
「ではでは、混ぜていきますねー」
「えぇ……」
フルールさんも納得してくれたところで、紙をすべて裏返して混ぜていく。
右の紙を左に持ってきて、今度は左を右に、そして真ん中のを右に――ふむ。なんかこういうトランプの手品だか賭けだかがあったな。スリーカードモンテだっけか。
「こんな感じで、適当にシャッフルして――」
「…………」
「フルールさん?」
「…………」
すごい見てる。すごい集中して見てる。
「……自分の紙だけは選ばないように、そこだけ見てませんか?」
「え!? あ、いや、そんなことないよ!」
「そうですかね……」
「そうだよ!」
「そうですか……」
まぁいいか。だいぶ強引にフルールさんを湯口の候補にしてしまったからな。そのくらいは目をつぶろう。
しかしここまで集中されると、ミスディレクションやらイカサマカードマジックやらを用いて、むしろフルールさんの紙を当てさせて驚かせたい気持ちも湧いてくるのだが――残念ながらそんな技は知らん。
なので普通に混ぜる。フルールさんに凝視されながら紙を混ぜていく。
「こんなところですか。ではフルールさん、一枚選んでいただいてよろしいですか?」
そうお願いしたところ、フルールさんは迷うことなく一枚の紙を手に取った。
「お、それですか?」
「ううん、これだけは選ばない」
「……なるほど」
それがフルールさんの湯口か……。
「さてと、じゃあ残りの六枚から選ぶとして――うん、これかな。これにしよう!」
「よござんすか?」
「うん、いいよ!」
「ではでは、その紙の湯口ということで――発表します」
さぁどうなるかな。そこに描かれたイラストはなんなのか。湯口に選ばれたのは誰なのか。
フルフル君なのか、父なのか、ユグドラシルさんなのか、僕なのか、ルクミーヌ村の美人村長さんなのか。あるいは変更無しで今の湯口で据え置きなのか。はたまたフルールさんのうっかりで、やっぱりフルールさんが当たってしまったのか。
伏せられていた紙をひっくり返す。選ばれたのは――
「おー」
「おー」
なるほど、そうなったか。
――思えば以前にもこんなことがあった。ラフトの町でパーティを組んで、パーティ名をルーレットで決めたときも、この結果になった。
やはりそういう星の下に生まれた子なのかもしれない。
というわけで、選ばれたのは――フルフル君の湯口であった。
「うんうん、良かったねフルフル君。おめでとうフルフル君」
「うん……。良かった……のかな」
next chapter:無限大シマリス地獄




