第763話 三倍以上の価値
ローデットさんにお願いして、鑑定結果を段階的に表示してもらえることとなった。段階的に、まずはレベルだけの表示である。
その代わりローデットさんには、通常の三倍の鑑定代を支払うことになったが――まぁそれは些細な問題だろう。むしろ問題ですらない。なんならありがたい。気持ちよくお支払いして、気持ちよく鑑定させていただこう。
「ではえぇと、確かここを、こうしてー」
「ふむふむ」
さっそくローデットさんが作業を始めてくれた。どうやら鑑定の水晶ではなく、水晶が収められている箱をいじっているようだ。
しかし、なかなかに苦戦しているようで……。
「すみません、なんだか妙なお願いをしてしまって」
「いえいえ、そういった使い方自体は、わりとあることらしいので」
「え、鑑定結果の一部表示ですか? あるんですか?」
「大きな町とかでは、そうして使っているところもあるらしいですー」
「へぇ? 実際にお願いしている僕が言うのもおかしな話ですが、なんでまたそんな使い方を?」
わざわざ一部だけを表示することになんの意味があるのか。僕みたいに『一度にすべてを表示されたら処理しきれない。それだけで何百話も消費してしまう』と、そんな悩みを抱えた人が他にいるのだろうか?
「なんでも検問用らしいですー」
「検問用?」
「さすがに検問でそこまで詳細な鑑定は必要ないですし、その詳細な鑑定結果を他人に見せることを嫌がる人もいますから」
「はー、そうなんですね」
検問か。なるほどなぁ、そういう使い方があったとは――
――って、ラフトの町だ。
それ僕もやったわ。確かにそうだった。検問では簡易鑑定だった。
「思い出しました。確かにラフトの町の検問はそうでした。職業までしか表示されませんでした」
「ああ、人界の町ですね? じゃあ初めて町に入るときには、アレクさんも戸惑ったんじゃないですか?」
「そうですね、初めて町に入るときは……。ええまぁ、戸惑いましたね……」
まぁそのときは町に入れなかったんだけどね……。簡易鑑定をして、詰め所に連行されて、それから追い返されたんだ。初めてのときはそうで、二回目でようやく入れたはずだ……。
「簡易的な鑑定用魔道具で、職業までしか表示されない限定仕様かと思っていたのですが、設定で限定しているだけなんですね」
「そうですー。なのでこの水晶でも、そういう設定ができるはずですー」
「なるほど、詳しい解説ありがとうございます」
……そういえばローデットさんって、解説キャラっぽい一面も持っていたな。
最近は僕が鑑定していないこともあり、その一面を披露する場面が減ってしまい、そこは申し訳なく思う。
「ではそういうことでローデットさん、よろしくお願いします」
「任せてくださいー」
そんなやり取りがあって、再びローデットさんは作業に戻った。
ああでもないこうでもないと、水晶の箱をいじいじしている。
「んー、んー、えーと、あれー?」
「お手数おかけします」
頑張ってるな。設定しようとローデットさんが頑張っている。
ローデットさんがシスター業務を頑張るという、だいぶ貴重なシーンである。こちらとしても三倍の鑑定代を支払っているわけだが、この姿を見られただけでも、三倍以上の価値があったのではなかろうか。
◇
「はい、できましたー」
「おー、ありがとうございます」
「ずいぶんお待たせしました。すみませんアレクさん」
「いえいえ、お疲れ様でした」
良かった良かった。悪戦苦闘していたローデットさんであったが、どうにか無事にセッティングを終えたらしい。
うん、良かったよね。すごく良かった。無事に設定できたことも良かったし、ローデットさんが頑張る姿を見られたことも良かった。そして何より――それなりの時間を掛けてもらえたのが良かった。
……あれだけ『難しいですねー』と渋っていたのに一瞬で設定が完了してしまったら、こちらとしてもやるせない気分になってしまう。
「ではでは、早速鑑定してもよろしいでしょうか」
「どうぞー」
よし、それじゃあ始めよう。久々の鑑定だ。今回はレベルだけとはいえ、久々の鑑定でわくわくする。
元のレベルは45であった。あれから一年半、果たしてどこまで伸びたのだろう。期待を胸に抱きながら僕は水晶に手を置き、魔力を流す。すると水晶には――
名前:アレクシス
「……うん?」
ん? これは何? 名前? 僕の名前だけ?
わけがわからなくて、しばらく水晶を眺める。じっと眺め続けるが、やはり水晶には――
名前:アレクシス
……名前だけである。待てど暮らせど名前だけ。
「上手くいって良かったですー」
「え?」
「ちゃんと段階的に一部だけ表示させることができましたー」
「いや、あの……」
えっと、これは……どうしてこうなった? 意思疎通が上手くいってなかった? でも僕はちゃんと伝えたよね。レベルだけ鑑定したいと伝えたはずだ。
なんだっけ? 正確にはなんと言った? 確か僕はローデットさんに――
『段階的にまずはレベルだけとか、そういうのってできませんかね?』
――こう伝えたはずだ。
え、これでダメだったの? なんでだ? ……もしかして、『レベルだけとか』の『とか』がダメだった? 『まずはレベルだけお願いします』と言い切らなければいけなかった?
「アレクさんの希望通り、これからは段階的に表示を増やしていきますねー」
「段階的に……」
どうやら『段階的』という言葉に引っ張られたらしい。上から順々に、段階的に表示を増やしてほしいのだと考えたらしい。それでまずは、一番上の名前だけを……。
いやでも、これはどうしたものかな。さすがにこれは……。
「上手くいきましたねー。良かったですねーアレクさん」
「……あ、はい」
……言い出せなかった。
頑張って設定してくれて、上手くいったとホクホクしているローデットさんに対して、これは違うと伝えることができなかった。
「……ありがとうございましたローデットさん」
「いえいえ、とんでもないですー」
確かにとんでもない結末を迎えたような気もする。
「じゃあ次は二週間後になりますかねー」
「二週間後……」
隔週で教会に通っている僕だ。そうなると次の鑑定は二週間後。次の項目は……種族か。
二週間後、僕はいつもの三倍の金を払って、自分がエルフということだけを改めて確認するらしい。
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