第759話 遅々として
「というか、毎回ユグドラシルさん宛に手紙を出しているんですけどね」
「ふむ?」
手紙についてあれやこれや話しているうちに、ふと思い出したことがある。
世界旅行中は、当然ユグドラシルさんにも手紙を出しているわけだが、一応その宛先はユグドラシルさん宛で書いていたのだ。
「それは、わしが住む場所に送ったということか?」
「そうです。そのつもりでした。一応今までは、宛先に『エルフ界、世界樹ユグドラシル様』とだけ書いて送っていました」
「ふむ。それでもわしのところまで届きそうなものじゃがな。しかし、そうはなっておらず――」
「この家に届きました」
「それはおかしいじゃろ……」
メイユ村の人達の分も、ルクミーヌ村の人達の分も、ついでにユグドラシルさんの分も、全部まとめてこの家に届いている。おかしいよね。普通に考えたらおかしいと思う。
「まぁ旅先から手紙を出すときは、すべての手紙をひとまとめで依頼しているので、そうなるのも仕方ないのかもしれません」
「なるほどのう……。それでこの家に届いて、そこからモモが配達しているのじゃな」
「そんな流れになっていますね」
でもまぁ、手紙を受け取るみんなからすると悪い流れではないのかな。モモちゃんの負担はあるけれど、モモちゃんのシマリス便はみんなに大人気だからね。
「というわけで、かなり大雑把な配達システムに若干の不安は残りますが、今書いている手紙は配達先がバラバラなので、これならひとまとめにされることもなく、しっかりそれぞれの宛先に届くはずです」
「うむ。ならばその手紙がわしの元へ届く日を、楽しみに待つとしよう」
「ええはい、今しばらくお待ちください」
しかしそう考えると、今回ばかりは宛先に注意しないといけないね。ちゃんと正確に書かないと、本当に届かない事態が発生してしまう。今まではどうせ全部実家に届くだろうと、宛先なんてろくに確認せず書いていたからな。
「ところでアレクよ、ふと気になったのじゃが――その手紙もアレか? 例のやつか?」
「例のやつ?」
はて、例のやつとは?
「つまりは、その手紙の執筆も――次回予告リストなのか?」
「…………」
「うん?」
……まぁそうだね。確かに次回予告リストとは、そういうリストだと思う。僕がやりたいこととか、やっておくべきことを忘れないようにメモしておくリストだ。
なので手紙の執筆が次回予告リストに追加されていても不思議ではない。ユグドラシルさんがそう考えるのも不思議ではない。
「……しかしながら、この手紙は次回予告リストの案件ではないです」
「む。そうなのか」
「というか、正直なところ今僕は次回予告リストに悩んでいまして……。あれはどうなんですかね。なんだかあれのせいで、日々の生活が忙しく感じてしまって……」
元々は『僕がやりたいことのリスト』だったはずが、いつの間にやら『僕がやらなければいけないことのリスト』になってしまったような気がして、そんな予定だかタスクだかに追われている気分になってしまって……。
最初の頃は、『あんまりすぐにリストを完遂してしまったら味気ない』などと、リストの項目を増やしていたくらいなのに、もう今は真逆のことを考えている。リストがあまりにも終わらなくて、どうしたものかと困ってしまっている。
「えぇと、あまり進んでおらんのか……?」
「最近で言うと、ようやくミコトさんとディースさんを召喚できたくらいでしょうか」
「一瞬で終わるやつじゃな……」
「ええまぁ……」
確かに呪文ひとつで終わるやつではあるのだけれど……。
「実際に見てもらっていいですか? 現状がこんな感じになっています」
「ふむ……」
というわけでアイテムボックスから次回予告リストを取り出して、ユグドラシルさんに手渡した。
現在の次回予告リストが――
『父へのお土産』――完了
『ミコトさんディースさん顕現』――完了
『アイテムボックス検証』――進行中
『世界樹の酒、開封パーティ』
『鑑定』
『新人力車』
『世界樹様の迷宮、新エリア視察』――完了
『世界樹様の迷宮、大改装』
『牧場エリア改築』
『温泉エリア改築』――進行中
『次の魔法スキル修行』
『第九回世界旅行』
『セルジャンパン』――進行中
『ミコトさんに喜んでもらえること』
『20倍大シマリス像』
――こんな感じである。
「ふーむ。セルジャンへの土産が終わり、ミコトとディースの召喚が終わり、新エリア――温泉エリアの視察が終わったところか」
「そうですね。ようやく三つ消化できたところです」
こう見ると、やっぱり簡単そうな項目から攻めていってる感じがするねぇ……。
「ところで、『進行中』とはなんじゃ?」
「進行している最中ということです」
「……それはそうなんじゃろうが」
ちょっとでも手を付けたものは、そう書き足してみた。
ちょっとでも進んでいるように見せ掛けるために……。
「逆に言うと、中途半端な状態で放置しているとも言えますが……」
「うむ。確かアイテムボックスの検証などは、まだまだ多くの謎が残っていると言っておったな」
「そうなんですよ。それは本当に……というか、すごいですよね。逆にすごいと思います。最初の部屋にある四つの扉。あれほどまでに謎しかなくて意味深な扉を、僕達は放置しちゃっていますからね。普通は一番最初に調査するべきでしょうに……」
あれを放置して別の案件に取り掛かったり、おもむろに手紙を書き始めているんだから、それは次回予告リストも進まないよ……。
「あと他に進行中なのは――温泉エリアか」
「湯口です」
「うん?」
「湯口をどうしたものか、熱い議論が交わされています」
なんだかんだで決まらんのよね。モモちゃんにするか父にするか……それとも僕にするか。
そうじゃなければ――
「……あるいは、ユグドラシルさんにお願いするっていう線もあるのかな?」
「何をじゃ……? わしをどうするつもりじゃ……?」
「安心してください。僕はキュプリスさんではないので、至って真面目なデザインにする予定です」
「誰じゃ……?」
なんかこう、ユグドラシルさんが水瓶みたいのを抱えていて、そこからお湯が流れてくるとか、そういうシンプルでオーソドックスなデザインがいいんじゃないかなって、そんなことをふと思った。
……まぁこうやってああでもないこうでもないと無闇矢鱈とアイデアばかり垂れ流しているから、結局何も決まらないのだろうけど。
「それで最後に進行中なのが――セルジャンパンか」
「進行中です。とはいえ、難航しております。遅々として進まない父のパンです。来年の新春パン祭りに間に合えばいいのですが、なかなか難しいところです。――しかしながら本件に限っては、スピードよりもクオリティを重視しているため、それも致し方ないことなのかと」
「……何やら妙に力を入れておる印象を受けるのう」
それはもう、セルジャンパンは我々の悲願ですから。例のごとく父には何も言わずに進行中だったりしますが、セルジャンパンが完成した暁には、きっと父も狂喜乱舞してくれることでしょう。
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