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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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18.悪役令嬢は試合観戦へ向かう

 翌日。

 クラウディアとヘレンは、滞在先であるグラスターの屋敷から、馬車でスタジアムへ向かう。屋敷は王家所有のもので、滞在を許可されていた。

 ヴァージルは昨日から現地で過ごしており、あとから合流する予定だ。

 スタジアムまでの道は人と馬車が交ざらないように、交通整理がおこなわれている。

 混雑を見越して早めに出発したのもあって、流れはスムーズだ。

 窓から人通りを眺めつつ、ヘレンが確認する。


「リーグ戦って、総当たり戦なんですよね?」

「ええ、今回の参加数は四クラブ。計六節の試合がスタジアムでおこなわれるわ」


 今年は試行期間なのもあって数が少ないが、来年開催予定の本戦では、最低でも十クラブが集められる。


「ええっと、一節分の二試合を、週末の二日にわたってやって……それが六週間続くんですか。遠方のクラブは大変ですね」


 一日、一試合。

 週末だけの開催なのは、選手の疲労度とスタジアム管理の都合だった。

 滞在期間中は、別途練習ができるよう、近隣に練習場が用意されている。


「芝生がダメになるようなら、試合日数も調整されるでしょうしね」


 もう一か所スタジアムが用意される話があった。王家直轄領の飛び地が候補場所である。

 試合を集中開催するのは、地方に人と金を溜め込ませないためだ。


(平和が続いているのは、素晴らしいことなのだけれど)


 地方が力を溜め込むと反乱の芽になりかねない。

 武芸試合もそうだが、リーグ戦の開催は、貴族に貯蓄させないためでもある。

 リーグ戦のほうが少ない費用で済むため、武芸試合で呼び出せなかった貴族にも声かけができた。


「褒賞の授与式は、シルヴェスター殿下がされるんですか?」

「主催者として、そこは外せないわ」


 国主催と銘打っていることから、可能なら国王にお願いしたかったところだ。

 下がりかけた視線が、ヘレンの明るい声で上がる。


「王太子殿下から直接褒賞を受け取れるなんて、凄い名誉ですね! 参加選手の中には平民の方もいると聞きました。腰を抜かさないといいんですけど」

「ふふっ、そうね。貴族でも早々ある機会ではないもの」


 授与者はピッチで戦った選手たちだと決めていた。

 クラブオーナーの貴族が間に入るより、夢があるからだ。

 またクラブオーナーの身分が試合に影響しないよう、貴族とクラブは切り離して考えられる。

 参加クラブの中には、シルヴェスターがオーナーを務める王家クラブもあった。


「『紺青のレーヴァン』は、気後れしないですよね?」

「むしろ武芸試合のリベンジだと、闘志を燃やしているのではないかしら」


 リーグ戦の初戦を飾るのは、王家クラブ対リンジー公爵家クラブだった。

 どちらも選手は騎士によって構成されている。


 リンジー公爵家のクラブ名は「紺青のレーヴァン」。

 バラだと、クラウディアを想起させかねないため、モチーフには「知恵」や「記憶」を象徴するワタリガラスが選ばれた。戦略と戦術を、知恵と記憶に置き換えたのである。

 王家のクラブ名は「黄金の草原」。

 黄金は豊かな実りを、草原は歴史のはじまりをイメージしている。


 それぞれクラブカラーがどうしても各家に引き摺られているのは、ご愛敬だ。

 クラブごとにエンブレムもつくられた。これもオーナーである貴族の家との分離を現すためだ。

 「紺青のレーヴァン」のエンブレムには、中央にワタリガラスが描かれている。

 スタジアムに近付くと、道の左右に黄金と紺青のガーランドが飾られているのが見え、わぁっとヘレンが声を上げた。


「これって、クラブカラーの!」

「試合の組み合わせで飾られているのでしょうね」


 幟や屋台も確認できて、お祭りの機運が高まる。

 非日常が、目の前にあった。


「なんだかワクワクしてきました」


 自然と瞳の輝きが増す。

 ヘレンの意見に、クラウディアも完全同意だった。

 馬車が停留所に着くと、ヴァージルに出迎えられる。


「ようこそ、スタジアムへ」

「お疲れ様です。昨日も来たのに、見間違えるようですわ」


 準備はされていたが、掲げられた幟や横断幕を見ると感じ入るものが多い。

 まだ人は少ないものの、すぐに賑やかになるのが予想された。


「今のうちに場外を見て回ろう。気になった屋台があれば買うといい」


 護衛の騎士たちが同行し、一団となって動く。

 真っ先に目が行ったのは、紺青の色に染まった屋台だった。


「お兄様、あれはもしかして……」

「『紺青のレーヴァン』のグッズショップだな。ロイヤリティを取る方法で、製造販売は商会に任せている」


 聞くまでもなくエバンズ商会の店だった。

 見覚えのある顔が店頭に立っており、よく通る声で挨拶される。


「皆様、おはようございます!」

「ブライアンが直々に販売するの?」

「何でも最初が肝心ですから! 従来のタオルに比べて長めにつくったタオルマフラーはいかがですか? 首にかけておくと、一目でどこのクラブを応援しているかわかりますし、汗も拭いやすいですよ」

「買うわ」


 護衛の騎士たちの分も含め、人数分を用意してもらう。

 他には、日常使いできそうなバッグチャームなども売られていた。

 早期開催のため、製造期間は短かったにもかかわらず、これだけの数と種類を用意できたのは、推し活グッズを展開しているエバンズ商会だからだろう。


「こちら、意中の方がおられる場合は、タオルマフラーの端にクラブのエンブレムを刺繍してプレゼントするのにも、うってつけです」


 武芸試合では応援する騎士に、ハンカチやスカーフに刺繍をして渡す風習がある。

 それを踏襲しているように一見思われるけれど。


「刺繍を入れる時間がなかったのね?」

「うっ、さすが鋭いですね。刺繍まで入れるとなると数が用意できなくて……見本を用意するのが精一杯でした」


 ブライアンは素直に認める。

 実際、タオルマフラーを用意しただけでも凄いのだ。

 刺繍の入った見本を見せてもらう。


「来年の開催時には刺繍入りも販売する予定です。その分、値段は上がります」

「刺繍分の代金がかかるのだから当然でしょう」


 安価で済ませたかったり、自分で刺繍したい人は、刺繍無しを買えばいい。


「折角だから、男女問わず意中の方へ贈る風習も残しておいたらどうかしら?」


 貴族社会において、刺繍は令嬢の嗜みとされるが、平民には刺繍ができる男性も一定数いた。自分で服を繕う必要があるからだ。

 ふと、思いつきを言葉に載せる。


「刺繍無しのタオルマフラーをかけている方は、お相手募集中とわかるのも面白いわね」

「名案です! スタジアムでマッチングする出会い……宣伝文句に使わせていただいてもよろしいですか?」

「文言を考えたのはあなたでしょう? 好きにしていいわ」

「ありがとうございます!」


 準備ができて、人数分のタオルマフラーを受け取る。

 その際、ヴァージルから視線を感じたものの、微笑みだけ返しておいた。


(お兄様はわたくしの刺繍から卒業する時期よね)


 妹の意図が伝わり、目に見えてヴァージルは肩を落とす。

 あまりの哀愁っぷりに、ヘレンがおずおずと提案する。


「わたしでよろしければ刺繍いたしましょうか?」

「いいのか!?」

「ヴァージル様さえ、よろしければ」

「頼む。俺もエンブレムの刺繍が欲しい」


 クラウディアはこのとき、護衛騎士が羨ましそうにしている雰囲気を察した。


(ヘレンは人気が高いから、恨まれないといいけど)


 さすがに主人に楯突く騎士はいないが。

 刺繍については、ヘレンからの提案なので、よしとする。

 その場で全員が首からタオルマフラーをかけ、一団は紺青に染まった。

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