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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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19.悪役令嬢はスタジアムを楽しむ

 エンブレムを刺繍してもらう約束を取り付けられて、ヴァージルはほくほく顔で案内を続ける。


「興行として成功させるには、彼ら商人の協力が必要不可欠だ。屋台は、商人が利益を出す柱の一つとして考えている」


 興行収入として一番大きいのは広告料である。

 けれど広告は見てもらう人がいないと意味がない。

 集客の必要性については、商人たちのほうがよく理解していた。


 屋台の他には、運営の持ち出しでイベントブースが設けられている。

 両クラブ、選手の特徴が捉えられた絵姿が並んでいるところで、クラウディアは足を止めた。

 絵姿の下に掲載されたプロフィールを見る。

 名前からはじまり、誕生日、身長、体重、職業などが細かく記載されていた。


「もしかして、わたくしの意見を取り入れてくださったのですか?」


 以前、河川敷で試合を観た所感として、選手を身近に感じられたらいいと伝えていた。


「クラウディアの言うとおり、知っている選手のほうが応援にも熱が入ると思ってな。追加の案として、番号も割り振った」


 絵姿の上に大きく書かれている数字がそれだった。


「それぞれの番号を選手たちが着るシャツの両面につける。名前を知らなくても、番号さえ覚えていれば、あとから振り返られるだろう?」

「名案ですわ!」


 何番の選手が凄い、と感想も共有しやすいのではないか。

 意見が反映された上、ブラッシュアップまでされていて、少しでもフットボールに興味を持ってもらおうという気概が感じられた。

 続けて、隣接する子ども向けのブースも見る。

 スタッフと目が合うと、どうぞ試してくださいと勧められた。


「お子様がメインですが、余裕があるときは大人も呼び込む予定です」


 ブースには芝生が敷かれ、ボールが一つ置かれている。

 最奥にあるカゴへボールを蹴り入れられたら、お菓子が貰えた。


「もしかしてピッチと同じ芝生とボールですか?」

「よく気付いたな、その通りだ」


 実は公式戦用と銘打って、統一ルールと共にボールも開発されていた。

 世間では、豚や牛の膀胱を膨らましたものが使われているのだが、それでは形や強度にバラつきが出てしまう。

 公平を期すため、個体差が出ないボールがつくられた。


「選手たちの技術を実感できるよう用意した。案外、ボールを真っ直ぐ蹴るだけでも難しいものだ」


 クラウディアが試してみる。

 力が足りず、ボールは一メートルのところで止まった。


「……難しいですわ」

「上手く決まると気持ち良いぞ」


 ヴァージルが蹴ったボールは、真っ直ぐカゴに吸い込まれた。

 今度はヘレンが、ヴァージルからコツを教えてもらって蹴る。


「入りました!」


 凄いわ! とヘレンを笑顔で褒めつつ、クラウディアはちらりとヴァージルを見上げた。


「わたくしにも教えてくだされば良かったのでは?」

「ははっ、すまん。まずは難しさを知ってもらいたかったんだ」


 ピッチを走り回りながらボールを操る選手が、どれだけ巧みなのか。

 これも体感して知っているのと知らないのでは、没入感が変わるだろう。

 ヴァージルの言いたいこともわかるので、しぶしぶ納得する。


「将来的には、家の近所で子どもたちがフットボールできるようにしたい」


 そのためにはピッチに準ずる場所が必要だった。

 すぐに叶うものではない。

 何せヴァージルが思い描いているのは、リンジー公爵領に限った話ではなく、ハーランド王国全土にわたることなのだ。

 大きな夢を語る兄の姿に、クラウディアは鼓舞される。


(負けてられないわ)


 王太子妃になった自分は、国民のためにどれだけの夢を描けるか。

 まずは結婚式ね、と意気込む。

 スケジュールどおりなら、リーグ戦の次に、式が控えていた。


「そろそろ人が増えてきたな」


 屋台やイベントブースの存在が周知されているらしく、親子連れを見かけるようになった。

 女性も子どもも楽しめるフットボール、というのがリーグ戦のスローガンだ。

 リンジー公爵領からも、領民、難民から複数の世帯を招待している。その中には、難民の世話にあたった現場監督の家族も含まれた。


(利益も大事だけれど、地域での団結も忘れてはならないわ)


 リーグ戦の開催について、貴族から反対の声が上がっていないのは、それがあるからだ。

 多かれ少なかれ、どこも領民と難民の軋轢を抱えていた。

 フットボールの観戦を通し、わだかまりが解消できるなら、と大会は期待されている。

 場外の催しは、慣れ親しんだお祭りと変わらないからか、人々の表情は和やかだ。

 一方、観察する側のヴァージルの眼差しは鋭い。


「問題は酒が入ることと、試合のその後だ。熱中してもらうのはいいが、暴れられるのは困る」


 フットボールに関係なく、お祭りでは騒ぎが起きるもの。

 相乗効果が悪い方向に出ないことを願いつつ、対策として警邏が増やされていた。

 これには地元の警ら隊だけでなく、ローズガーデンの警護部門も協力している。

 クラウディアの視界には、警護隊長のハーマンの姿が映っていた。異端審問への対策中、世話になった人物だ。

 部下と入念に確認をおこなっているようなので、声はかけなかった。


(ベゼルとルキも来ているはずよね)


 報告は受けていた。

 何せ警邏以外でも、ローズガーデンから人員が出ている。

 商会の広告とは違う幟を見付け、クラウディアはヴァージルに確認した。


「あそこが賭場ですか?」

「そうだ、スタジアムの東西南北、四か所に設置されている」


 リーグ戦では、試合結果が賭けの対象となった。

 国が運営し、利益は次のリーグ開催に回される。

 そのスタッフとして、カジノなどで経験を持つローズガーデンが関わっていた。

 賭けがおこなわれることが決まり、審判とその家族は警護対象となった。

 外部との接触を監視し、八百長を防ぐためだ。

 とはいえ、審判一人を買収したところで、ゲームの流れは変えられても得点に結びつくかと聞かれたら微妙なところである。

 対策しておいたほうが、疑問視されたときに「ない」と断言できるのが一番の理由だった。


「試合がはじまる直前まで賭場にいけば賭けられる。ディーも買っておくか?」


 ちなみに単なる勝ち負けでなく、両クラブの得点数まで当てないといけない。


「とりあえず『紺青のレーヴァン』が勝つ結果を、一通りお願いしようかしら」


 賭けというより願掛けだった。

 当たったら嬉しさ二倍である。

 人混みを避ける必要が出てきたところで、女性の甲高い悲鳴を聞く。

 ヴァージルと顔を見合わせ、クラウディアは現場へ急行した。


(まだ午前中ですのに)


 何が起こったのか。

 幸い被害は大きくないようで、混乱も起きていなかった。

 被害者らしき女性も見当たらない。

 ヴァージルが対応にあたっていた警ら隊に確認する。

 ただ、顔を赤くした半裸の男性が取り押さえられていることから、聞くまでもなく状況は察せられた。


「酔っ払いが脱いだのか」

「はい、ズボンにも手をかけていたので取り押さえました」


 規定どおり処分するようヴァージルが言い含め、その場を離れる。


「全く、朝からどれだけ飲んだのだ」

「更に増えそうですわね」


 まだ過ごしやすい気温ではあるが、昼になるにつれ暑くなる。

 今でこれなら、試合後はどうなることか。

 クラウディアやヘレンがいるように、貴族の令嬢も観戦する。

 選手をはじめ、観客も服を脱ぐことは禁止されていた。


「まだルールが行き届いていないのか、酔っ払って判断を誤ったのか。飲酒は認めておきたいんだが」


 お祭りにお酒は欠かせなかった。

 とはいえ、理性を失う者が多くなれば、再検討せざるを得ない。


「楽しい雰囲気に水を差したくはありませんものね」

「ああ、だが安心して観戦できるのが、何より大事だ」


 綻びは小さいうちに繕っておかないと、大きな事故に繋がる。


(お兄様が休む暇はなさそうね)


 強いて言うなら、こうしてクラウディアたちを案内している時間が息抜きだろうか。

 クラウディアは席に着いたら、ヴァージルの肩を揉もうと決めた。

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