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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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17.悪役令嬢はスタジアムに到着する

 まだ早朝だというのに、日差しがギラついていた。

 馬車から降りたクラウディアは夏の接近を肌で感じながら、ヘレンがさしてくれている日傘の中に入る。

 王家直轄領でハーランド王国の玄関口とも名高い、港町ブレナーク。

 その内陸部に位置する町「グラスター」は、王家発祥の地として歴史に名を刻んでいた。

 眼前にそびえ立つ巨大建築物を見上げる。

 同じように仰いでいたヘレンが感想をこぼした。


「町外れに、これほど大きな円形闘技場があったんですね」

「ほとんど使われずに残されていたなんて、勿体なく感じるわ」


 国土の中心へ遷都してから、武芸試合も現在の王都郊外で開催されるため、グラスターにとっては宝の持ち腐れになっていた。

 港町に近い立地から、何かに使えるだろうと壊されずにいたところ、リーグ戦の会場として再利用されることが決まったのだ。

 クラウディアは、フットボールの競技場――スタジアム――として生まれ変わった会場の案内を受けに来ていた。

 案内人は、兄のヴァージルだ。


 明日には、記念すべき一試合目がおこなわれる。

 商人の後押しもあって、全席指定の初日チケットは完売。別日も残りわずかとなっていた。

 縦にも横にも視線を巡らせながら歩く。

 円形になるよう配置された何十個ものコンクリート製の大きなアーチが、各階層を支えている様は圧巻だ。

 歴史を重ね、くすんだ外壁。

 そのうちの一つ、貴族用の出入り口として設けられた巨人の口へ、ヴァージルの先導によってクラウディアとヘレンは入っていく。


「当日は瓶など割れて危険なものは持ち込めないよう、手荷物検査がある」


 暴動への対策だった。

 陰に入ると空気がひんやりしていて気持ち良い。


「おかげ様で改修の人手は足りたが、芝を敷くのに苦労した」


 港で大々的に募集をかけたため、出稼ぎ労働者が効率良く集まっていた。

 ただ芝の育成には専門的知識が必要な上、用意する面積が広く、特に運搬が大変だったとヴァージルは語る。


「遠方から運んでいては、試合に間に合わない。近隣のナーセリーでは在庫が足らなくて、王城の庭師に協力を仰いで、予備の圃場から芝生を融通してもらった」

「種から育てるのではありませんのね?」

「ああ、何せ期間がない。芝生はマット状にして運搬が可能でな、スタジアムでは張り芝工法で、他所から持ってきた発育済みの芝生を敷いた」


 とはいえ、それで終わりじゃない。


「根付かせても、枯れたら意味がないだろう? 芝生の専門科に、リーグ戦が終わるまで徹頭徹尾、管理してもらう予定だ」


 土壌など環境に合わせた育成が必要な上、発育が良すぎたら刈る必要があった。

 クラウディアは短く刈られた河川敷のピッチを思いだす。

 フットボールのしやすい長さも運営で考えられており、仕事の煩雑さから芝生専用の部署が立ち上げられていた。

 石畳の通路を抜け、ピッチのあるアリーナへ出る。

 陰から日向へ。

 眩しさに束の間、目を焼かれる。

 視界が戻ると、一面にエメラルドグリーンが広がっていた。

 色褪せた空間から、まるで別世界へ来たみたいだ。

 クラウディアを歓迎するように、青々とした芝生の上を風が通り抜けていく。


「良い景色だろ?」

「ええ、素晴らしいです」


 細長い葉の一枚一枚が艶めき、足を踏み入れるのが勿体ないくらいだった。

 ピッチの中央まで進み、広さを体感する。

 左右の端にはゴールネットが設置されていた。ここで本当にフットボールがおこなわれるのだ。

 すり鉢状の観客席には、まだ誰もいない。

 けれど、明日には全ての席が埋まる。

 その光景を――一堂に会し、熱狂する様を――想像して、体が震えた。

 河川敷で試合を見たときの興奮が蘇る。

 あの感覚を、観客全員で共有する途方もなさ。

 光が降り注ぐ観客席を見て、ヘレンは隣で息を呑んでいた。


「明日が楽しみですわ」

「そう言ってもらえて良かった。俺は胃がひっくり返りそうだ」


 目の下にあるクマで苦労が窺えた。


「お兄様ならやり遂げられます」

「ああ、シルに罵られるのは勘弁願いたいからな」

「罵るより、冷たい一瞥を送られるかと」

「より想像しやすくするのはやめてくれ」


 ダメージが思いのほか大きくて、ごめんなさい、すぐに謝る。

 少しでも労えればいいと背中を摩った。

 持ち直したヴァージルが訊ねる。


「明日は運営席の観戦で本当に良かったのか? 上から観たほうが、わかりやすいぞ?」


 スタジアムは三階席まで設けられており、立派な屋根がある三階が貴賓席だった。

 運営席は、ピッチサイドの奥まった場所に設けられている。

 選手を観る分には近いが、目線が同じだけピッチ全体を把握するのは難しい。


「はい、お兄様の近くにいるほうが心強いですから」

「うむ、そうか」


 ヴァージルから嬉しそうな気配が伝わってくる。

 笑みを受けとめながら、クラウディアは緊急の事態に備えていた。


(運営席のほうが、何かあったとき動きやすいもの)


 対応を迫られることがあるかもしれない。

 クラウディアもヴァージルと一緒に全試合を観戦する。

 もしものとき、兄を助けるための配置だった。

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