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第四十四話 理論

 どうやらあの時、俺は哀愁を漂わせて居たらしい。

 ドズンの様に哀戦士認定されたのかは知らんが、クシャラルなりに自分の持っている俺の印象をドズンへ伝えたかったのかもな。

 それに依ってドズンとの関係が更に潤滑に廻る様に画策した、と言ったら穿ち過ぎか。

 だがドズンにとっては俺の心の柔らかい部分を知れて、安心感を得た様だ。

 俺自身は、自覚も糞もないが。

 そして、ドズンが何故自分は試験を受けていないのかと訊いて来たが、俺が漢の嘆きに乾杯と杯を掲げると何となく意味が分かったらしく、杯と杯を撃ち合わせた。


「話を続けるぞ。

 有利な探索は約束された事は理解したな? そこでロマに俺達だけで行って、秘密の部屋を漁ろうと思う。

 まあ、理由だが後1月程で新たに4人の仲間が加わる事になる。

 2人は俺の幼馴染みだ。

 残りの2人は俺も良くは知らん。

 でも、試験を突破した程の誠実さを持つ人物なのは確かだ。

 俺の幼馴染み達が信用出来ると言うから俺も信用するし、お前らが俺を信用出来るのならば俺を信用する様に信じてやって欲しい。

 まあ、俺としてはお前等みたいな最高の仲間を見付けられた。

 だから、あいつらに胸を張って紹介出来る」


 ドズンとクシャラルが、ニヤニヤと生暖かい笑みを浮かべて俺を見ている。

 何コイツら?


「君達……何か腹立つんですけれど止めて頂けません? 直ぐに治るから本気で殴りますよ?」


 俺が睨むと、二人が背筋を伸ばして座り直す。

 よし。


「合流した時点で俺達がまだロマの探索が完了してなくても、あいつらは気にしないだろう。

 だが、普通に考えればそれ位は終わって当然だと考える筈だ。

 何しろ双子は俺の事を知ってるしな、だから終わってなければ足手纏いがいたからだと考えるかも知れん。

 それでも良いのか? それに俺自身が早く秘密の部屋を確かめたいのもある。

 まあ3人ぽっちだが心配はいらない、道中の安全は俺が保証する。

 それに合流してから皆で行くと、分け前が減る事になる。

 俺としては今の内にドズンは兎も角として、多少の現金をクシャラルにも持たせたいんだ。

 最後の理由は、あいつらが来る前に俺達でロマ位は探索完了して無いとだな……ぶっちゃけ格好が付かない。

 このへんは俺の勝手な意地と見栄でしかないが、どうだ?」


 結構一部を除いてたいした事の無い理由ばかりではあるが、ぐだぐだと説明をした。

 実際ロマ程度を攻略するのなら、頭を張ってる俺が号令を掛ければ二人は了承するだろう。

 だが、こうして何故ロマを今の内に攻略したいのかを俺が俺の言葉にして説明する事は、二人に俺の思考ルーチンを理解して貰う事になる。

 そして彼らが俺の考えに慣れれば、それは最終的には円滑な探索に繋がると思っているのだ。

 勿論、俺も二人の思考ルーチンを学ばせて貰う。


 ドズンが膝を叩いて言う。


「お主は心配し過ぎだ、シグマ。

 ロマ位なら儂一人でも行けん事はない」


 フムフム、流石はドズンだ。

 まあ、経験豊富な冒険者でも在った訳だし当然か。

 でも10匹位の大毛人とかに運悪く囲まれれば、お前でも殺られると思うぞ。


 クシャラルも両手を握り込み返事をする。


「あんたとドズンが一緒に行くんなら、全然平気だろうしね。

 今のあたしじゃ、足手纏いかも知れないけどさ。

 見てておくれよ、あんた達程じゃ無いにしろ修練は積んで来たんだし、役に立つ様には成れるんじゃないかい?」


 経験豊富な強者のドズンや闇者最強で不思議能力持ちの俺に対して、劣等感があるのかな。

 でも、やる気が有るんなら何とかしてやるのが頭を張る俺の役目だ。

 だが俺だって腕には自信があり色々なアドバンテージを提供できるが、冒険者としては初心者に過ぎない。

 まあ、ここはメンバーの不安を緩和しつつ共に歩もうと励まし合う場面だな。

 日々これ勉強の精神で学んで行かなければ、何時のまにかドズンが頭を張っているなんて事になりかねん。


「俺なら大毛人の10匹や20匹位は軽く片付けられるが、冒険者としてはお前と一緒で初心者だ。

 だから焦らず、俺と慣れて行こうや」


 肩に手を掛けて励ますと、クシャラルが少し和らいだ表情になる。


「だから明日はロマに行く準備をしようと思う。

 俺の背負い袋には大きさの制限は在るが、重量や数量の制限は無いに等しいんだ。

 それを踏まえて色々と防具なんかも揃えたいんだが、ドズンなら的確な助言が出来るだろう。 どうだ?」


 話を振るとドズンが頷く。


「お主の背負い袋がそれ程に便利な代物なら、何の問題も無いな。

 儂に任せて貰おう」


 ロマに行けば、あの時の秘密の部屋へ行ける。

 5つも部屋が有ったからな、儲かるかな? いや取らぬ狸の皮算用は駄目だ。


 明日からロマに向けての活動を皆で行う事を決定した。

 更に呑みにケーションで親睦を深める為に杯を重ね、世間話をする。

 やはり、先程の闇試合での俺の異常な投げ技が余程気になるらしく二人に質問された。

 曰く、筋力が明らかに上のギャロップを、俺が何故容易く投げ飛ばす事が出来たのか不思議だとの事だ。

 う~ん、自然体を修得する事での効果やら難易度とか説明する前に原理を分からせたいが、人間が元々は猿であり進化に依って今の人になったとか信じてくれるかな。

 正直、進化論とかそこからかよと愚痴りたいが、猿の持っている空間情報把握能力とかを俺達人間が継承している事を理解させるには必要ではある。


 因みに昔から達人の技量の異常性は際立っていたが、宗教と絡めたりして訳が分かっていなかった。

 そして、科学が発達し解明しようとして幾つかの達人理論とも云うべき理論が構築された。


 まず人の脳味噌の働きは、脳細胞間を極微弱電気が働き活動している事から、相手の頭から放電される電気パルスを受信して事前に相手の行動を察知すると云う理論がある。

 その理論が発表された時代は、精神病患者の頭部を開頭して脳味噌に直接電極を当て電流を流し治療出来ると信じていたり、前頭葉を切除して廃人を量産するロボトミー手術が流行っていたのだ。

 だからこんな事を言い出したのだろうが、雨が降れば使えず、静電気が多い冬にも困難、毛糸の帽子とプラスチックの下敷きがあれば防御出来そうな荒唐無稽な理論を唱えたのだろう。


 次は人類共有意識の海と云う物があり、同種族間では潜在意識の底では繋がっていると云う理論だ。

 集団ヒステリーに依る幻覚、錯乱などはこれを介して発生すると仮説が立てられる程だ。

 鼠の集団入水自殺なんかも怪しいとさ。

 達人はその繋がりを逆に辿り読み込む事で事前察知出来ると云う理論だが、確証はない。

 何しろ意識の海の存在は、未だ机上の空論でしかないからだ。


 あと、同型の音叉の様に同じ規格の脳味噌を持っている為に共鳴現象が起こり、これまた読み込みを行っていると云うのもある。

 双子間に在ると云う共感現象に近い考え方だが、これも確証はない。


 次は、天才だから出来るだ。

 これは理論も糞も無い。

 凡人には決して到達出来ない領域に、天才だから到達出来たと云う物だ。


 最後は、火事場の馬鹿力や脳内麻薬の分泌などで活性化して、心拍数も上がり集中する事に依って周りの景色が遅延した様に見えると云う物だ。

 確かに性能面では向上するが、その結論は反射と速さや筋力でしかない。

 俺の感覚や達人達が極致へと至った場合に付いて残した言葉とは、矛盾する為に違う。



 何か猿の理論を二人に説明すんのが、面倒臭くなってきた。

 考えてみれば、理論を説明しなくても事足りるな。

 俺が奴等に修練させて、身体に直接語れば良いだけの事だ。

 なら、今は適当にお茶を濁して納得させて置けばいいか。

 俺を凝視しているクシャラルとドズンに語る。


「我が心、空也り。

 空也るが故に無。

 これが無念無想と言って、俺の闘技を支えている根本的考え方だ」


 ドズンは、自身がかなり腕も立ち経験豊富な事から思い至る処があったのか雷に撃たれた様に固まり、衝撃を受けた様だ。

 感動の余り震えてやがる。


「無念無想……何とも深い、正に武術の深淵を覗いた気がする。

 そうか! 真髄とは無の心より産まれ出でる物か」


 まあ昔から、散々達人達が吐いて来た言葉だ。

 間違ってはいないのだから、そこから何かを編み出してくれ。

 後で身体にも叩き込んでやるから覚悟しとけよ。


 醒めた顔でクシャラルが言った。


「シグマ、あんた何を言ってんだい。

 空? 無の心? そんな心持ちじゃあ茫然としちまって隙だらけじゃないのさ。

 馬鹿な事言ってないで、もっと為になる事を教えて欲しいね」


 御尤もな意見だな、昔から何となくでしか達人達の言葉は理解されて居なかった。

 何故なら、最初から達人達が理屈で説明出来る代物なら誰も苦労はしない。

 何しろ猿の頃に活用していた方式なのだから、人間様に容易く染み込む訳がない。


「安心しろ、身体に叩き込んでやるから」


 俺がニヤリと嗤うと、クシャラルが物理的に椅子を引いて離れる。

 いや違うから、そっちの話では無くてだね。


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