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第四十三話 表情

 挑戦的な覚悟をかまして来やがったが、これ位の気迫を見せてくれた方が裏切りを心配しなくてもよさそうだし安心するな。

 まあ俺は、俺に依存するイエスマンが欲しくてドズンを誘った訳じゃない。

 骨のある奴だと思ったから誘ったのだ。


 こうしてドズンの仲間入りが決定した。

 そのまんま、俺の戦勝祝い兼歓迎会となる。

 まあ、この際だし俺の脳内プログラムについて彼らに細かく説明しておく。

 精霊様のお陰で何故かは分からないが古代帝国遺跡から力を得た事、それを使えばウチのチームの探索は他の冒険者達とは比べ物にならない程に捗る事になると伝えた。

 聞くのが二回目になるクシャラルも、ウンウンと頷いている。

 そして、マップ、ネットワーク、身体防御、暗視、耐熱耐冷、耐毒、回復、倉庫について順番に説明していく。

 特にドズンは俺に説明を聞かされてから理解するに至ると、呆気に取られた表情で固まってしまう。

 やっとこさ復活し、何とか質問してきた。


「お主もう酔っ払ったのか? 冗談にしては笑えん。

 精霊様を出汁にするもんじゃないぞ、儂だから流してやるが人に依っては気分を害する」


 最初は俺の言葉を信じそうになり慌てて、“んな馬鹿な事が在る訳がない”と思った様だ。

 蒸留酒が並々と杯に注がれて、縁から表面張力で盛り上がっている。

それに口を付けて啜ってから、喉を灼く喉越しを堪えて返事をした。


「ドズン、俺を信じろ。

 本気で言ってんだわ、俺。

 それとも、信じられないか? 舌の根も乾かない内に、俺に命を預けるとまで宣言した自分にも嘘を付くのか? どうなんだ?」


 旨いな、この酒。

 コイツこの前は、この酒を隠していたんだな、今回は祝勝会だから出したとしてもそれはそれ、これはこれだ。

 俺は葡萄酒を提供したのに何て奴だ、酒飲みは信用出来んな。

 じっとドズンを眺めてやると俺の本気が伝わった様で、狼狽しながら確認しだす。


「すっ……するとだ。

 お主の脳にある古代帝国のプログラムとやらを使えば普通の奴の10倍、暗闇に視界が妨げられず、毒にも侵されず、暑さ寒さに悩まされず、頑強になり、回復する。

 お主の背負い袋には沢山の水や食糧と雑貨が入り、何処に古代帝国遺跡が在るのか全て知っていて、既に荒らされた古代帝国遺跡ですら宝の山に変わると言いたいのか?」


 一々指先で空間に事柄を列挙しながら、ドズンが確認してきた。

 クシャラルもこれらが可能な事でどれだけ有利に探索出来るのかに改めて思い至ったのか、俺の返事に注目する。


「そうだ。

 更に新しい脳内プログラムをもっと発見して充実させれば、お前の単独での仇討ちすら可能かもな。

 俺は、帝国遺跡を全て制覇する事を目的に動いている。

 ドズンにも、それに協力して貰うつもりだ」


 俺が単独で仇討ち出来るかもと言ったのがドズンにとっては余程嬉しいらしく、笑顔で頷く。


「全ての帝国遺跡制覇か、そいつは豪気な事だ。

 喜んで手伝わせて貰うが、本当にお主の言う通りに脳内プログラムとやらは存在するのか? 信じられん……いや、お主が信じられん訳では無くてだな」


 まあ流石にいきなり“はいそうですか分かりました”とは、いかんか。

 隣でも、まだ脳プロを実感させた事すらないクシャラルがウンウンと頷いている。


 二人の脳内チャイルドロックを解除して、身体防御を秘かに入れた。

 そして、素早く二人の顔面にジャブをかます。

 ドズンはテーブル越しに右ジャブ、クシャラルはまんまで左ジャブ。

 肉が弾ける様な音がして、二人が顔を押さえて抗議した。


「シグマ! 痛……くないじゃないかい?」


 頬を押さえて抗議しようとして、クシャラルが固まる。


「お主突然何を……ん?……痛く無いだと! まさか、これがお主の言っておった不思議な能力とやらか? 信じられん! まさか、こんな事が」


 素早くテーブルを回り込み、ドズンの右肩を固定している植物由来の樹脂を俺のミドルキックで粉砕してやった。


「何を!? まだ、骨の位置も固まって無いのだぞ!」


 砕け散った石膏の様な樹脂を集めて接着しようするつもりなのか、欠片を集めるドズン。

 もう、くっつかねえよ、んなの 。


「10日前から俺の回復プログラムを稼働させていたから、もう治っている筈だ。

  動かしてみろよ、治ってるだろ?」


 ドズンは肩を恐る恐る動かして調子を確かめると、嬉しそうに頷いた。


「信じられん、治っておる。

 だが、現実に儂の目の前で起こった出来事ではある。

 信じざる負えまい」


 二人に能力の実感が充分に浸透してから、話しかける。


「実感が湧いたな? そして、これが脳内地図と俺が呼んでる物だ」


 二人の脳内プログラムに強制的に地図を表示させた。


「「おおっ」」


 二人共に仰け反って、脳内に表示された地図を避ける様に動く。

 避けたって意味なんてないのだが、つい動いてしまうのだろう。

 ドズンが椅子に座ったまま後ろに引っくり返り、床に頭をぶつける。

 クシャラルは当然俺が支えてやった。

 起き上がりながら頭を擦り、ドズンは地図を見ている。

 地図には緑の点が1点だけ中央にあり、他の青い点は街に無数に散らばり、赤い点が数個だけ街の外にある様に、ドズンには見えている筈だ。


「緑の点が自分だと思ってくれ、青いのは俺が触って登録した冒険者達だ。

 そして赤い点が古代帝国遺跡だ」


 地図の縮尺をもっと広大な俯瞰視点に変えて、更に説明して行く。


「分かるか? この街から小指1本分位の処にロマがあるだろ。

 クシャラルと一緒に行った、皆ご存知の初心者の登竜門とか言われるロマだ。

 そこから腕2本分位西に移動した場所の赤い点が、エルドレッドになる」


 中央の緑の点は変わらずに存在し、赤い点が全体図に無数に散らばって表示されている。

 地図には赤い点に付属する様に地名が表示され、西に離れた場所にはゲヘナ帝国地下都市エルドレットと読める。


 ドズンが視線を地図に固定したまま、唸る様に言う。


「まさか……いや、間違いない! やはり伝説は正しかった。

 儂が昔行った洞窟の位置と重なって、エルドレットが表示されておる。

 シグマ! これは凄い地図じゃないか。

 確かにこれなら全ての冒険者を出し抜き、遺跡の全制覇すら夢ではない」


 興奮するドズンを宥めて、隣で呆然とするクシャラルの肩を突付く。


「クシャラル、この地図にある全ての赤い点を俺達が漁って廻るんだ。

 どうだ? 儲かりそうだし、ワクワクしないか?」


 ニヤリと笑い掛けてやると、こちらを向いたクシャラルが呟く。


「あんたに概要は聞いてたけどさ。

 この無数の赤い点が全部遺跡だって、聞かされても話が大き過ぎるね。

 あたしの想像を超えちまってさ、何て返したらいいのか言葉に困るねぇ」


 暫く地図の見方やら、何処に都市があるやら、騒いだ後にドズンが質問して来た。


「さっきお主が触った冒険者を登録したと言ったが、どう云う事だ?」


 俺が人に触って脳内プログラムに登録すると地図情報に表示される事を教えて、変装した俺が冒険者達に弄られながらも汗と苦難を乗り越えて無数の冒険者を登録した事を伝え、その際にクシャラルを誘って試験を実施した事も説明した。


「ドズン、お前は試験を実施した俺をどう思う?」


 黙って俺の説明を聞いていたドズンは、途中から試験の話に変わり微妙な機嫌のクシャラルを見て、鼻毛を抜きながら答える。


「まあ、これだけ凄い情報を聞かされてしまえば納得出来る話ではある。

 だが感心はせんな。

 クシャラルもその後の経過からすれば恩を感じたのだろうが、それにしてもよくぞ許したとは思うが」


 気遣う様にドズンがチラリとクシャラルを伺うが、彼女は樽詰されている蒸留酒の蓋のコルクを開けて杯に注ぎ、蒸留酒を一息で飲み干して言った。

 顔が少し赤いのは酔ってんのか?


「ふん、あたしも頭には来たけどさ、あんな顔をシグマにされちゃあねぇ」


 酒の蒸気を吐き出す様にクシャラルが零した言葉だ。

 何だそれ! あんな顔?

 どんな顔だよ。

 いや、そもそも何時の話だ。


「ほう、儂と誓約を交わしたこの男がどんな顔をして、お主を動かしたのか聞かせてくれんか」


 面白がって、ドズンがクシャラルにせがむ。

 クシャラルも別に隠すつもりでは無いのか、喋り出した。


「あたしがこう言ったのさ、人を信じられないあんたは器が小さいってね。

 そしたらコイツが、そんなに世界は優しく出来てない、だけどあたしを試す時にあたしなら撥ね退けるかも知れないと思ったとか言ってさ。

 その時のコイツの顔が傑作でね、随分と渇いた事を言ってるのにさ、何だか哀しそうな顔だったんだよ。

 あんな顔を見せられたらさ、何だかね……」


 クシャラルが長い睫毛を伏せて眼を細め、あの時を頭の中で反芻しているのか黙り込む。


「ハッハッハッ、儂等の大将は若いが随分と捻くれておる様だな。

 だが、安心はしたぞ」


 ドズンは余程面白かったのか、膝を叩いて爆笑している。


 知らんかった! マジかよ。

 自分自身はどんな顔してたのか分からんかったが、そんなに哀しそうな顔してたとはな。

 何だか恥ずかしくなったが、クシャラルの方を向くと目が合った。

 クスリと彼女が微笑して、俺も何だか可笑しくなって微笑で返す。

 俺がクシャラルに何かを感じたのと同じく、彼女も俺の哀しそうな顔とやらで何かを感じたのだろうか。

 哀しそうな顔とやらで何かを感じ取られたのは、男としては随分と情けない話だとは思う。

 まあ、そのお陰でクシャラルが仲間になってくれたのなら歓迎する事態ではある。


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