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第三十九話 龍気術

 広間の歓声が収まらない。


「今のを見たか? 空中で捻ったり回ったりしたぞ!」


「今夜の闇試合は何かが起こる気がする。

 鳥肌が止まらねぇ、アイツは何者なんだよ」


 最初の掴みは充分な手応えを感じる。

 暫くして観客が落ち着き、司会がギャロップの紹介を始めた。


「幾多もの闇者を倒して、最強の名を欲しい儘にしてきた漢。

 その腕は名誉、富、強さをまさに力ずくで奪ってきた。

 もう皆さんには紹介の必要もないでしょう。

 その名は、豪腕のギャロップ!」


 太鼓の音が間断無く響き渡り、正面の入口からギャロップが登場する。

 この前会った時の軽装な格好ではなく、前世のお家芸の道着に似通った物を着用している。

 多分木綿を何重かに重ねた造りか。

 真っ白な道着を纏ったギャロップは、前世の5色の輪に出場する選手の様だ。

 その後に恐らく弟子であろう奴等が、同じく白い道着姿で続く。

 観客の歓声が再び爆発して、広間に響き渡る。


 ギャロップが広間中央、俺の対面に立った。

 犬歯を剥き出しにして奴が俺に嗤い掛ける。

 観客が次第に落ち着き、俺達2人に注目する。


「シグマよう、この3日間楽しみで楽しみで堪らなかったぜ。

 お前も楽しみだったろ? 今日は、お前の噂の打撃と天秤流のどっちが上か白黒ハッキリ着けようや」


 ギャロップの言葉に、またもや観客が沸く。

 この闇試合の賭け率は7対3だ。

 ギャロップが圧倒的に有利だと、観客は思っているらしい。

 俺は自分の勝利に金貨をぶち込んでいるが。


「済まないなギャロップ、今日は打撃技は使わないつもりなんだ。

 投げ技でお前と闘って、そして勝ってみせるつもりだ。

 そこでだ、お前が着ているその服を俺にも貸してくれないか? お前だけ着ていたんじゃ不公平だろうしな」


 この一言に今度こそ観客が騒ぎだし、野次が飛ぶ。


「馬鹿野郎! お前に有り金全部賭けたのは、お前の打撃が凄かったからなんだぞ! ギャロップに投げ技勝負なんかしたら、敗けるに決まってるだろ!」


 そんな悲鳴な叫びが、そこかしこで挙がる。

 どうやら俺に賭けてる奴等は、俺の打撃技だけに期待しているらしい。


「シグマよう、幾らなんでも無茶だぜ。

 言っただろう? お前の天秤流じゃ俺には勝てんぜ。

 お前だって、自分の限界を悟って打撃屋に転向したんだろ? そして強力な打撃を身に付け、最強の天秤流に挑むつもりじゃなかったのか? 燃える展開だった筈なのに、お前の頓珍漢な発言で台無しじゃねえか」


 やれやれ、とでも言いたげに肩を竦めるギャロップ。


 勝手に変な展開作って、喜んでんじゃねえよ。

 打撃に逃げた? 最強の天秤流? その自信過剰な思い込み、粉々に砕いてやんよ。


「後で俺が、お前の着ている様な服を着てないから投げ技を極め辛くて負けたなんて言い訳されても困るから、俺にもソイツを着させてくれ。

 心配すんな、お前にとても敵わないと分かったら打撃も使わせて貰う」


 腕を組み、どうやって俺に打撃技を使わせるか悩んでいたギャロップが安心した笑顔で頷く。


「お前が意地を張って打撃技を封印しちゃあ、折角の闇試合も台無しだ。

 安心したぜシグマ。

 この服だがな、俺らは道着と呼んでんだ。

 俺の弟子でお前と背格好が近い奴のを貸すぜ。

 おい! 持ってこい! ほら着ろよ」


 弟子の寄越した道着を受け取る。

 薄手のシャツの上から道着を羽織って、下はズボン、足は裸足の格好だ。

 ふと、二階の手摺を見上げるとドズンとクシャラルが頑張れとか気を付けな、とか喚いている。


 審判が用意はいいか、と訊いてくる。

 返事をして、いよいよ始まる。


「始め!」


 さて、まずは見だ。

 既に自然体に身を委ね、ギャロップの全ての動きの起こりを把握する。

 自然体に構えは無い。

 ゆらりと立って佇むのみだ。

 ギャロップは手を前面に翳し、緩く膝を曲げて、やはり前世のお家芸に近い構え。


「行くぜ、シグマ。

 すぐに終わるなよ」


 玩具を貰った子供の様に嬉しそうな、ギャロップ。


「ああ、何時でも来い。

 最初は手加減してやる」


 と、俺が言った瞬間にギャロップが床を蹴った。

 床がギャロップの足によってギャリッと甲高く鳴り、奴が突進してくる。

 俺達の3メルドの間合いを潰したギャロップが、俺を掴まえる為に道着の左奥襟と右袖に手を掛けようとする。


 が、既に俺は自然体の脳内猿算機でその動きを察知して、ギャロップの右手首を無拍子の左手で捕り、左手で極め、奴の右脇を潜り抜けながら転身する。

 一連の動作を電光石火の早業で行う。

 ギャロップの床を突進する力が、捻られた手首により歪められ、奴の身体を回転させる。

 150ガルドもの体重が突進力も含めて床に叩き付けられ、人体と木製の床が激突したとは思えない大音響を周りに響かせる。

 ギャロップは床に叩き付けられた衝撃で、肺の空気を残らず吐き出し息を洩らす。

 衝撃が身体を貫き、一時的に痺れたのか動かない様だ。


『闘技、龍気術』


 俺はギャロップから離れ、またもや自然体で佇む。


 広間に倒れたギャロップの咳き込む声だけが響き、それ以外の音はまるで聴こえない。

 痛い様な沈黙が支配する広間は、幾人もの人がひしめくとは信じられないだろう。

 そもそも観衆には、一体何が起こったのかすら把握出来ていない。

 奴の手首を俺が握り、ギャロップの腕を中心に回った事は端から観ている観衆には流石に分かっただろう。

 だがギャロップの天秤流ですら懇切丁寧に説明されたとしても明確な理解へとは到らない観衆には、一連の動作が攻撃だと認識する事すら出来まい。


「何なんだ今の! 闘神は何をした? 何でギャロップが倒れてる? ギャロップが自分自身で飛んで床にぶつかった様に見えたが、何でそんな事をしたんだ。

 闘技だと言ったよな、なら何かの技なのか?」


 言い方は違うが、観衆のそこかしこで同じ疑問の声が挙がる。

 唖然としたまま固まってしまう者も居れば、理解を越えた現象に恐れを抱く者、ただ単純にギャロップが転倒しただけだと、それらの者達を馬鹿にする者、様々な反応がある。

 今回の闇試合は、前世の龍気術を使用するつもりだったのだ。

 勿論、俺に組技系統の経験はない。

 これは自然体の修練過程で双子を相手に実験し、研鑽を積んで修得したのだ。

 クシャラルに鈍器を使ってギャロップをぶん殴ると言ったのは、大地という最大級の鈍器を使ってと云う意味だ。

 前世の投げ技系統は、卑怯者の技だと言われていた。

 何しろ素手の相手に対し、直径約1万2千キロ、円周約6万キロ、質量約6垓トンもの地球と呼ばれる鈍器でぶん殴っていたのだから。

 そして敢えて龍気術に、龍の気という名を付けたのにも理由がある。

 4000年の国では古代より、川の流れ、地震で出来る地のひび割れ、天から地への稲妻、竜巻などの外観が全て細長く歪曲した自然現象に意味を与えて恐怖感を解消したと思われる。

 人間は分からないと云う事を、最も恐ろしいと感じる生き物だ。

 自然の驚異的な力を聖獣である龍と定義し、具現化する事によって人の想像の範囲に閉じ込めた。

 自然現象の際に現れる細長い歪曲に対して、龍と名を付けた事になる。

 だから森羅万象と一体化する為の理を持つ、この武術に相応しい名だと思ったのだ。

 それにしても観衆の動揺が酷いな、進歩し過ぎた科学技術は魔法と見分けが付かないと言われるが、極め過ぎた武術は八百長と見分けが付かないのだろう。

 まあ前世での話だが、ちゃんと教育を受けた現代人ですら理解出来ない奴は出来ないのだ。

 この世界の人なら、なおさら理解の範疇外な筈だ。


 ギャロップが衝撃から回復して立ち上がり、こちらを睨む。


「龍気術? シグマよう。

 お前には何かを感じてはいたが、こんな隠し球を持ってたんだな。

 参ったぜ。

 考えても、何をされたのかが分からねえ。

 でも伸ばした腕が掴まれたとたんに、痺れた様になって利かなくなった。

 何でだ? てまぁ、素直に教えてはくれねえよな。

 知りたきゃ自分で確かめるだけの事だわな」


 やはり、ギャロップは生粋の戦闘馬鹿だ。

 俺の技の凄味を味わった筈なのに、嬉しそうにしてやがる。


「だな、味わってくれ。

 楽しみたいんだよな? 腹が張り裂けるまで、ご馳走してやるよ。

 ギャロップ」



 

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