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第三十七話 下山

 ドズンの部屋は、八畳一間と言った処か。大柄なドズン用のダブルベッドを窓際に配置し、丸いテーブルや椅子を数脚程だが部屋中央に据えて、右奥角に小型の衣装箪笥がある。前世の俺の部屋みたいに、殺風景で必要な物以外ない独身者の部屋だ。


「好きに座ってくれ、何も出せんがな」


 ドズンが顎を振って、着席を促す。多分ましな部類の部屋なのだろうが、何かを客に出せる部屋じゃないのは見て分かる。


「手土産に軽い果実酒を持ってきたから、呑みながら話そう。どうだ?」


 背中に背負っていたリュックを降ろし、中から幾つかの木製のコップとワインボトルを取り出す。すると、ここでドズンが初めて笑顔を見せる。現金な奴だ。


「気が利くな。儂が酒好きな事を聞いていたのか? まあ座れ、座れ」


 嬉しそうに俺達に着席を促し、ドズンは舌で唇を湿らせた。


「で、シグマ。話とはなんだ? 今は療養中だから暇を持て余して居てな、誰かさんのお陰だが」


 まあ、コイツも恨み事を言いたいだろうさ。それよりも、どう切り出せして奴の内情を探るかな。取っ掛かりを見付けて、そこから切り崩して口説くか。なら薮蛇かも知れんが、ドズンを雇う上でのネックであろう仲間全滅事件から突いてみるか。


「他でもない、お前の噂は聞いたと言っただろ? その真偽を確めに来たんだよ。闇試合の時、お前の命知らずな啖呵には感心してたんだ。

だが噂じゃあ、実は仲間を裏切った卑怯者だと囁かれているじゃないか。それで尻の据わりが悪い気分を味わってな。どうなんだ? 本当に仲間を裏切ったのか?」


 挑発してみたが、どうなるか?


 俺の言葉を聞いたとたん、ドズンがコップをテーブルに叩き付けて中身の酒が跳ねる。向かいの席に座っている俺達にも飛沫が掛かった。


「今、何と言ったシグマ? 儂が仲間を裏切っただと? お主、儂に喧嘩を売りに来たのか? 今は右肩を使えんが、余り舐めるなよ小僧! 一度勝ったからと言って調子に乗るな!」


 ドズンは席から立ち上がると、さっきの上機嫌が嘘の様に、怒髪天をついて上から俺を睨み付ける。ふ~ん、嘘を言っている様には見えないな。人間の本性を知りたい時は、怒らせるのが一番だ。だが当然怒らせた後は面倒な事になる。俺も立ち上がり、真っ向からドズンの視線を受け止めた。


「ドズン、落ち着け! 俺は噂の真偽を訊いただけだ。何もお前の裏切りが確定したとは言って無いだろ。疑われたくなけりゃ、俺に手前ぇの口で語ってみせろ!それとも何か? 語れない疚しい事でもあんのか?」


 ドズンは怒気を封じ込める為か、フウフウと呼気を繰り返し己を宥める。ヤッパリ仲間の事は禁句だったのか。でも俺達の事情を話す前に、ドズンから事情を話す流れに出来た。これは酷い事かも知れないが、俺達の背中をコイツに預けるつもりならば必要なプロセスだと言っていい。ドズンも少し頭が冷えたのか眉間に皺を寄せつつも、皆でまた仲良く席に座る。


「お主は噂を何処まで聞いた?」


 全滅事件の経緯を喋りたくないのか、ムスッとした顔で訊いてくる。


「幼馴染み達と冒険者をして、遠征で全滅。療養してから、ベテラン冒険者と組んで恩を返し、闇者になった。これが五年間にあった事だとは聞いたな」


 ドズンは、面白くも無さそうに鼻をふんと鳴らすと話し始める。


「儂は出身の村じゃあ、ガキ大将で通っていた。幼馴染み達も儂を頼りにしてくれてな。成人してからジョーイ、ヒューイ、マーシャル、ナベーと冒険者に成った。それから二年間程、冒険者としては立派にやっていけた。しかし儂達は今思えば調子に乗っておった。儂達ならば、伝説に挑戦出来るとな。知らんかも知れんが、この街から西へ幾つかの村を経由すると、この辺りの柔な森林なんぞとは比べ物にならん人外魔境へと出る。そこから川を上流へと遡って行けば、二十日程度で山脈に行き着く。その山脈には洞窟が存在するんだが、その洞窟には伝説がある。古代帝国の地下都市エルドレットが眠っている、そんな伝説だ。儂らは山脈まで順調に予定を消化し、件の洞窟へと浸入した。だが洞窟の奥深くで遭遇したのは伝説の古代都市ではなく化物の中の化物、300メル程の身長と500グルドはある体重を持つ途轍もない程の巨躯を誇る赤毛人だった。最初にヒューイとマーシャルが、奴に吹き飛ばされて壁の染みに変えられた。次にナベーが踏み潰されて、肉塊にされた。あっという間の出来事だ。そして何とか混乱から脱した儂は逃げるしかないと判断して、ジョーイと共に無我夢中で逃げ出した。大事な仲間の屍を置き去りにしてな。そうしなければならない程に、赤毛人の力は常識を逸しておった。人の及ぶ範疇では無いとな。迷路の様な洞窟を逃げ惑い、ジョーイと儂は地下水脈に辿り着いた。そこには地下水脈が洞窟の通路を横断して、行き止まりになっておった。忌々しい事に赤毛人は儂らを追って来ておる。絶体絶命、そんな言葉では足りん状況よ。洞窟の中を流れる地下水脈に飛び込めば、運が良ければ助かるかも知れん。しかし、地下水脈が流れ込む先は暗い穴だ。先がどうなっているかなぞ、誰にも知れたものではない。かと言って化物と闘っても絶対に勝てないのは分かっておった。儂とジョーイは、意を決して地下水脈に飛び込んだ。その後、儂は川辺に倒れている状態でベテラン冒険者達に発見されて助かったが。ジョーイが、その後どうなったのかは分からん。もう五年も経つが未だに消息不明だ。後はお主が聞いた噂通りに恩返しの為にベテラン冒険者達を手伝って、彼等の引退と共に儂は闇者になった。赤毛人を倒せる程に、強く成る為にな。ギャロップの天秤流とやらも軽く手解きを受けた。奴が言うには、ガーとしてからダーとしてドンとするらしい。何を言っとるのかサッパリ分からんかったが、何とか相手の足を刈る技位は盗んだか。まあ雑魚には通用しても、お主やギャロップには通じんだろがよ。そこでだ! シグマよ、お主の技を儂に伝授出来んか? お主の不思議な技なら赤毛人すら倒せる様な気がする」


 ドズンの目には期待が伺える。血走った眼が、軽い言葉使いとは裏腹にかなりの期待感を抱いて輝く。成る程、お涙頂戴な仲間の全滅事件を聞かせる事によって、同情を惹いて協力を取り付ける。素直に話を引き出せたと思ったら、ドズンにも思惑があったからか。すんなり部屋に入れたのも納得だ。


「ドズン気持ちは分かるが、俺の技を修得するのは随分な時間が掛かると思ってくれ」


 ドズンの瞳が濁る。


「そうか……そんなに時間が」


 勁力とかは、ドズンの様に筋力のみの鍛練を積んで完成されつつある奴にとっては、逆のベクトルを経なければ身に付かない。筋力本位の感覚が脱力を阻害する分、時間が掛かる。まあ天秤流や俺の技を習い、仇討ちを為し遂げたいという心意気は良し。ギャロップの天秤流は教え方もガーとかドンとかで、抽象的過ぎて期待外れだったのだろう。それにギャロップ自身が、天秤流は重い奴が強いとか公然と言ってるし宿敵の体重を考えれば希望がないか。そこで体格の不利を物ともしなさそうな、俺の技に目を付けた訳だ。いや、なら何でコイツは闇試合の時に自暴自棄になった? 先が見えない事での、色々な精神的な疲れかな。


「ドズン、お前は強くなる為に修練を積んだ事だろう。それで、赤毛人に届く程強く成れそうか? それに、一緒に伝説に挑んでくれる無謀な仲間は見つかったのか?」


 ドズンが俯いて、手元を見詰めてしまう。ドズンにしてみれば、金を稼げて、強い奴に会えて、腕も磨ける闇試合は仇討ちを果たす上で一石三鳥だったのだろう。しかしドズンは強くは成れはしたのだろうが、強く成れば成る程に、仇である赤毛人との差が実感出来てしまったのではないか。そして挑むのは無謀だと言われる伝説の洞窟に協力してくれる奇特な奴も、見つからなかったと推測出来る。まあ古代帝国の地下都市エルドレットとやらが、本当に存在するかどうかは未知数だしな。前世の旧幕府の埋蔵金か、旧陸軍のM資金位の与太話だろう。そんな話に飛び付く奴に、優秀な奴などはいまい。強い奴なら普通に冒険者をやれば儲かるだろうし、好き好んで危険な伝説に挑戦するとは思えない。伝説に挑む他の馬鹿が居たとしても、験を担ぐ冒険者なら一度下手を打ったドズンは誘わない。ドズンは叶わない願いを抱えて、追い詰められていたのかも知れない。それが俺との闇試合で漏れたのか。叶わぬ仇討ちに絶望を覚え、ならば強い奴との闇試合の最中にでも散れれば、死んだ仲間にも言い訳出来ると。俺の勘も捨てた物じゃ無さそうだ。感情でもなく、理屈でもない、それが勘だ。

だが、物事の本質を見抜く事もある。


「お前は馬鹿な奴だな」


 誉め言葉じゃないし、蔑んでいる訳でもない、そう言わざる得ない不器用な奴だとは思う。



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