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第三十四話 登山

 小鳥が囀ずり六時の鐘が鳴り響く頃、俺とクシャラルは宿から出発した。街は日の出と共に動き始め、街の住人達は忙しそうに荷車を運んでいる。市場では既に露店を開いているのだろう。貧乏暇なしで何かしらの仕事をして日々の糧を得ているのだ。


 そんな彼等を悠々と眺めながら、街を散策する。俺達は中々に優雅な御身分といった処か。圧倒的な情報の恩恵に依って遺跡を漁れば、更に大儲け出来るだろう。


 優雅な人生と言えば、前世でこんな風刺があった。

 A国の家に住み(土地が広い)、E国の執事を雇い(忠誠心が高い)、F国のコックも雇い(飯が旨いので有名)、J国の嫁さんを娶る(昔は貞淑だった)奴は幸せだ。対してJ国の家に住み(狭い)、F国の執事を雇い(プライドが高く革命した事もある)、E国のコックを雇い(飯が不味いので有名)、A国の嫁さんを娶る(自己主張が強い)奴は不幸せであると云う物だ。


 なら、この世界だったらどんな事が幸せなのか。今ひとつ分からないが、兎にも角にも銭が無ければ話にも成らない。それには遺跡を漁る為の人手が必要だ。特にドズンという有能そうな奴が。



 午前中は街中を散策して、まずはドズンの噂話を仕入れるつもりだ。街ゆく人々の色々な噂話を聞いて、ドズンの人物像を頭の中で多角的に肉付けして描くのだ。その為に中流層が買い物をする場であり、交流の場でもある青空市場へ向かう事にした。



 威勢の良い掛け声で様々な商品を売る露店商人達が溢れている。地面に木の棒を差して布で覆うタイプの露店で果物を売るおばさんが、声を張り上げて客を呼び込んでいる。地面に布を敷いただけの露店では、頭からローブを被ったオッサンが布の上に怪しげな古道具を並べている。無愛想な小僧がどっかで淹れたお茶を樽に汲んできて、柄杓みたいな物で木の器に注ぎ、一杯を石貨幾枚かで売っている。浮浪者じみた冒険者くずれであろう野郎が、多分盗品であろう小物類を木箱の上に拡げて露店を気取る。何の肉かは知れない串焼きを、巨大七輪で焼いて売り捌く中年。逞しくも生きる人々の坩堝の熱気や臭気を感じながら、二人で連れ立って聞き込みを始めた。


「おばちゃん、林檎二つね」


 スカーフを頭に巻きワンピースを太った体に包み込み、エプロンを着けたおばちゃんに声を掛けた。


「いらっしゃい! 二つだね。石貨で二枚だよ。毎度あり!」


 満面の笑顔で林檎を差し出すおばちゃんに石貨を支払い、さりげなく世間話を振ってみる。こういった市場のおばちゃんの持つ情報収集能力は侮れん。何しろ人は、毎朝毎晩には物を食うのだ。代わりに誰かに市場へ行かせてしまう貴族や豪商でなければ、食料保存が前世ほど発達していないから皆が毎日やって来る。新聞代わりに、お喋りをしていく訳だ。


「おばちゃん、この頃何か変わった噂話ない?」


「噂ねえ……この間からカッツオーネファミリーの連中が、何かキナ臭いらしいねぇ。酒場なんかで連中の下っ端が喧嘩したり、上の連中も言い争ってる処を見掛けるらしいよ。抗争とかになるのかねぇ。あたしらには関係ないんだろうけどさ。ウチの亭主が闇試合の賭事が好きでね。闇試合の最中に抗争に巻き込まれないか心配だねぇ」


 カッツオーネファミリーか……後々遺跡で発掘した物の中で、ハグナムさんでも捌きにくい品物があれば非合法枠として卸せる候補だったが。


「ねえ、おばちゃん。闇試合って言えば、ドズンが若僧に負けたって本当かい?」


 クシャラルが訊ねた。


「それが亭主が偶々居合わせたらしくてね。金髪碧眼の若者らしいんだけど、闘技とか言うのを使ってドズンを吹っ飛ばしたそうだよ。あんな大男を吹っ飛ばすんだから、更に大男だと思うだろ? でもね、若者の背格好は丁度あんた位しかないって言うじゃないか! あたしゃ驚いたの何のって、ドズンの事は街に来た頃から知ってるけどあんな大男だしね。それに普通の若者が勝っちまうなんてねぇ」


 おばちゃんてのは、本当にお喋りが好きで助かる。


「おばちゃん、そんなに古くからドズンの事を知ってるんだな。奴はヤッパリ昔から強かったの?」


「それがねぇ、ドズンは冒険者としては結構な処まで行ったのにさぁ。あんな事があって暫くは活動停止してから、その後ベテランとも組んでたのさ。でも辞めちまって、闇者になっちまったんだよ」


 流石に詳しいな。おばちゃんネットワークは侮れない。まあ、こんな調子で市場の人々から噂話を集めた。集めた情報を纏めるとだ。ドズンは成人してから新鋭気鋭の冒険者として、故郷の幼馴染み達と二年程活動する。だがとある遠征中に、ドズンを残して全滅してしまう。そしてベテラン達に半死半生の状態で発見されて、街まで護送されて命拾いをする。暫くは怪我の治療や精神的な回復に時間を費やし、半年後にはベテラン冒険者達に恩返しとばかりにチームへ組み込んで貰う。更に一年半経った頃に、今度は闇者になり今に至る。


 ならドズンは成人してから五年経った計算か。あの風貌で、まだ二十歳の青年らしい。まあ体格の良い奴は実際よりも老けて見られるか。そんな事より奴の噂で気になった事は、幼馴染み達がドズンを残して全滅している事だ。単純に噂には付き物の尾鰭なのか。それともドズンが幼馴染みを裏切って皆殺しにしたか。幼馴染みに怪物を押し付けて逃げたとかもありえる。やはりその辺りの事情が奴のネックになりそうだ。兎に角俺は、俺の勘を信じて行動するしかない。ドズンは仲間としては狙い目だってな。




 さて、次は冒険者達がよく屯している酒場で聞き込みだ。市場を離れ暫く歩くと、酒場に到着する。酒場は四人座れる丸いテーブルが処狭しと並び、前世のファミレス程の空間がある店。


 まだ昼前だというのに、既に管を巻く連中も居るのか酒場が騒がしい。俺達が酒場に入ると喧騒が止んで静寂が訪れた。テーブルから複数の冒険者の視線が突き刺さる。


 俺が噂の闘神だと分かり俯く奴、分からずに睨み付けるが仲間に忠告されて渋々と抑える奴などがいる。そして店の右奥にカウンターがある。逆の角っこに座る集団だけが、値踏みする様な視線でこちらを観察していた。





 冒険者達が呟く声が聞こえる。


「おい! あの若造が噂の闘神だろ、思ったより強そうじゃないな。もっと凶暴なゴリラみたいな奴を想像してたのに、只の優男に見えるぜ。色っぽい姉ちゃん連れてるしな」


「馬鹿! 見た目に騙されるなよ。俺は若造がドズンを倒した時に、居合わせたからな。いいか、若造にドズンが吹っ飛ばされたんだぞ! お前なら出来るか?」


「いや、前に俺ドズンと闘って遊ばれた事あるし無理だわ……」


「そんな事より闘神のシグマとカッツオーネファミリーの奴等が向かい合ってるな。一波乱有りそうだぞ。どうなっちまうんだろうな」


 よしよし、冒険者達に格上だと認識され始めた様だ。もう少し力を見せつけて完全に格上だと認識されれば変に絡んでくる馬鹿も居なくなるだろう。問題なのは、未だに探ってくる様な鬱陶しい視線を送ってくるカッツオーネの奴等だな。奥の左角の二つのテーブルを占領している連中だ。もしかして喧嘩売られてんのか?しかし、後々の事を考えると友好的に接した方が良いか。


「ねえシグマ、何か変な雰囲気じゃないかい? この間の試合で目立ったから、注目されてるんだね。一旦退くかい? こんなんじゃ噂も集めらんないしさ」


 それも良いっちゃあ良いが。でもこまめな営業活動で顔繋ぎしておけば、後々に活きてくるかも知れないしな。


「いや、ちょっと奴等に挨拶して顔売っていこうや。発掘物で捌き難い品物があれば頼めるかもしれないだろ」


 顎を振ってカッツオーネの奴等を示した。


「あたしにも聞こえたけどさ。カッツオーネの連中だよね。大丈夫かい? 色んな意味でさ」


 まあ、クシャラルの指摘も最もだ。基本的に冒険者もならず者だが、まだ救いがある。何しろ自分の力で稼いで飯を喰ってる連中なのだから、自分の足で立っている。色々と街の雑用をこなしたり街の外では採集、討伐、狩猟などで貢献もしている立派な労働者でもある。


 対して奴等はどうか。搾取する側に立って奪うだけで生産性は皆無。自分の足で立ってないから、民衆にとっては寄生虫でしかない。宿主が居ないと、生きていけなくなる仕事なのだ。


 まあ、街の裏の必要悪としての抑止力でもあり、みかじめ料の代わりに色々揉め事なんかを抑えてんだろうけどな。ある意味裏の秩序を裏の法でしきっている、裏の役人でもある。闇試合で民衆のガス抜きとか担っているのも、いい例だ。


 まあ裏では色々と絶対にやっている筈だ。クシャラルが心配するのも分かるが、裏の事にも手を出す奴等だからこそ出来る事もあるだろう。そして俺がどう声を掛けるか考え始めた時。


「おう! お前闘神だろ!ちょっと話をしないか?」



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