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第三十二話 酩酊

 クシャラルとテーブルを挟んで向かい合いながら、これからの事を相談だ。


「お前の荷物を安宿から引き払って、この部屋の隣りに宿泊して貰うぞ」


 クシャラルは吃驚した顔だ。


「あたしがこんな高級宿に泊まれる訳がないじゃないか。直ぐに金が無くなっちまうよ」


「金の心配はしなくてもいい。俺は遺跡から既に一千万ゴルドは儲けてるし。俺は仲間にする奴に試験を科すが、そのかわり仲間にした奴は厚遇する事にしている。暫くは訓練をしてもらったり、事前の確認をして過ごして貰うが生活費は俺が払う。本格的にチームが始動して儲けが出れば、自分で払って貰うけどな」


 まあ新人研修的な物だな。申し訳なさそうな顔でクシャラルは訊いて来るが、初対面の時に奢る話をした時よりは幾分ましな顔だ。お互いの垣根が解れてきた証拠か。


「いいのかい?あたしはこんな高級宿に泊まれて嬉しいけどさ」


「なら、喜んどけ喜んどけ」


 田舎の婆さんが食べ物を薦める調子で頷かせる事が出来た。我が社は福利厚生には特に力を入れているのだ。二人でクシャラルの泊まっていた安宿まで行って引き払った。ついでに俺が壊しながら通った家々にも謝りに行く。


 破損の酷い所で銀貨五枚締めて五万ゴルド。これは壁や扉とかの分だ。軽微な所でも銀貨二枚締めて二万ゴルドは掛かった。彼らはその金で大工に修理を頼むのだそうだ。事情を話すと褒められたり、物語の様だと感心してクシャラルとの仲を冷やかされたりした。


 幸い貧民街に近付く程に無人の廃屋が建ち並んでいる。俺がぶち抜く前から崩壊寸前の家もあり、思ったより財布に負担は掛からなかった。勝手に廃屋に住んでる癖に俺が謝って回ってる事に気が付いた輩が金をせびりに来たが、胸元を握って片腕で持ち上げてやったら大人しくなった。


 安宿から持ってくるクシャラルの荷物といっても、ボロい背負い袋だけで行動に支障は無い。そのまま街の市場により食料品を揃えたり、二人が仲間になれた御祝いに高級な蒸留酒を買って宿に戻ることにした。時刻は夕暮れになり、五時の鐘が物悲しく街に響き渡る。


 宿の男女別の蒸し風呂へ順番に入ってから、食堂で脂の乗った肉や新鮮な野菜がごろごろ入ったシチュー、暖かい白色のパンやサラダなどを食べる。前世での食事には劣るが、充分に旨さを堪能出来た。


 クシャラルなどは今までが不便だったからなのか、風呂や食事に随分とご満悦だ。俺の部屋で酒盛をする事にして、市場で買った燻製肉やチーズを摘まみに高級な蒸留酒を呑む。流石に高級酒は旨い。前世で俺は酒を嗜まなかった。随分と人生を損をしていた様だ。だが体質的な問題だし仕様がない。


 酒を呑みながら雑談をしていると、夜も更けて暗くなり何処かで犬が啼いている。出身地の話になり、俺の家族構成なんかの話もした。当然だが教えても仕方ない転生の事は伏せる。


 クシャラルの冒険者だった母親が、同じ冒険者だった父親と恋仲になり結婚し妊娠した。だが父親は冒険中に死亡し母親は故郷の村に帰り出産、母親は冒険者時代の蓄えでクシャラルを養育し訓練を施したそうだ。クシャラルが十歳の時に母親が病に倒れ死亡する。それからクシャラルは成人まで村で過ごしてから現在に至る。特に珍しい話では無いが、クシャラルの口振りではあまり村の居心地は良くなかった様だ。


 兎も角彼女は父親を知らずに育って来た。そこでポムさんの登場だ。俺がポムに変装していた時に、彼女は随分とポムに懐いていた様に思える。ポムに父親を重ねていたのかも知れない。そこからはシグマとしての俺の出番だ。俺と喧嘩した後の颯爽とした救出劇、その過程でクシャラルの中でポムへの敬愛と俺の救出劇でのイメージが混ざり、それが彼女の態度の軟化に繋がったのかも知れない。


 それにしてもやっぱりクシャラルは美人だ。このまま酔って誘いを掛ければポムれるかも知れん。責任さえ取れば問題ないだろう。ポムポムしてお互いの事がもっと分かれば、これからの冒険にも役立つ筈だ。昔の偉い人も【考えるな……感じろ】と言っていた。まずは感じよう。


 ちょっと待て。何んだかんだ理由を付けてポムりたいだけだ。酔ってるな。まあ若い男女で酒を呑んでいれば無理もない。ならポムらずにジャムればどうだろう。でもジャムりは角度を間違えれば入ってしまう事もある。とても危険だ。膜が破れたとして古代帝国の回復で治るのかも分からない。ならシャムり合って欲求を解消するしかないだろう。それならクシャラルにやり方を教えれば何とかなる。そうと決まれば行動開始だ!


 っと思った瞬間に、俺の顔目掛けてクシャラルの平手打ちが迫る。俺は咄嗟に首を左に傾け平手打ちを避ける。


「何でいきなり叩いて来んだ!」


 訝しげにクシャラルが言う。


「あんたが考え事をする顔を見ていたら叩きたくなったのさ」


 まあ邪な事を考えたのは確かだ。叩かれそうになって俺の頭も冷えて、まだ大事な事を言ってない事に気が付いた。クシャラルを仲間に出来たが俺が彼女を試した時に感じた事を言っておく、酔ってなきゃ言えなさそうだ。


「前に俺がお前を試した時に、何故に他の仲間と取り決めた限度を破ってまでお前を試したか……お前の信じるって事とは違うけどって言った意味な」


「きゅ……急に何?」


 何か珍しく動揺した顔で、クシャラルが返事をする。


「分かんねーけど、お前なら俺の勝手な期待に応えてくれるって思ったんだよ。本当に勝手な考えだけどな。只の勘だが、お前は俺の中で特別な存在になってくれそうな気がした。俺を変えてくれそうだとな」


「えっ、それってさ」


 かなり吃驚したのか、弾かれた様にクシャラルが反応して椅子を揺らす。告白に聞こえたかもな。


「これ位で今は勘弁してくれ。話を変えるぞ。前に言った俺の仲間が一星後に、この街に到着する。あいつらが到着してからも時間の余裕はあるんだ。そしてそれからも俺達には時間がある。だから色々と準備を整えないとな。分かるな?」


 彼女は目を見開くと頷いた。そして真っ直ぐに俺の顔を見る。


「分かったよ。これからの準備とやらを聞かせてごらんよ。あたしはそこいらに居る只の冒険者だけどさ。そんなあたしをあんたは特別だって言ってくれる。何かその一言だけで、あたしみたいな女でも随分と救われるもんだね」



 彼女は何時もの彼女だが、今まで見た中で一番魅力的な笑顔で笑ってやがる。酔った勢いで、なし崩しにポムっときゃ良かったか。


「まずは山脈のドズンを仲間に誘おうと思う」






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