表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

第二十八話 虚言

 さてと、前世みたいに弁護士が来るまで黙秘権を行使させて貰う訳にも行かない。待っていればカツ丼が出てくる訳でもない。実は前世の取調室のカツ丼は実費請求されるのだ。俺は椅子に腰掛けるも足は組まない。やはり印象が悪くなるだろうから。そういえば前世の欧米人男性は足を組んでも必ず脛を横にして組む。足に絡ませて組むのは女性だけだそうだ。俺が前世の変な事を思い出していると、プーケット隊長が喋り出す。



「シグマ君、まだ正式に名乗ってなかったね。領都ボイド第一衛兵隊隊長プーケットだ。こっちは同じく副隊長のトマス。まず、実は先程の廃屋での出来事は私達の側ではそんなに重要視はしていないのだよ。状況からして君達の証言にも矛盾も見当たらない。まあ家屋を破壊しながら直進したのは、よくぞ追い付いて発見出来たとは思うがね。恋人を想う心が為せる業なのかも知れないが。兎に角、法を担う側からすれば、後はちゃんと街の治安を騒がした罰として科す罰金さえ払ってくれて、家屋の持ち主達に充分な謝罪と補償金を支払えば良いといった処だね。それに実際の処は貧民街の家屋には勝手に住む輩も多い。幾つかは既に本来の家主も絶えて久しいだろう。そんなに沢山謝罪する事にもならないよ」


「隊長! こんな輩は即刻しょっぴいて懲らしめるべきです!」


 副隊長のトマスが睨み付けてくる。かなり厳しい罰則を俺に科す積もりなのかな? と、いきなりプーケット隊長の怒号が響き渡る。


「黙れトマス! 確かに罰は罰だがここは穏便に済ますと隊長である私が決めたのだ! 黙っていろ! 済まないなシグマ君、部下がみっともない処を見せたね。君への罰則はさっき説明した通りだ。私の権限において約束する。安心してくれたまえ」


 不貞腐れた顔付きのトマスを無視して、にこやかに喋り倒すプーケット隊長。ふん。こりゃ随分と古い手だな。トマスが怖くて若い熱血の刑事役で、プーケットが山さんとか呼ばれそうな暖かい熟練の刑事役といった処かな。簡単に言うと茶番劇だ。怖い奴と優しい奴の落差と恩を利用した心理的懐柔策と見た。そして俺をここまで引っ張り出すのが本当の目的だ。さっきの事件を出汁にして恩も売って来やがる。さっきの事件は金を払えば済むんなら万々歳だが。問題は態々俺を引っ張り出した用事の方だ。


「プーケットさん、なら何故詰所まで私を連れて来たのでしょうか? 先程私に用事があって捜していたとの事ですが、その為に此処まで連れてこられたと考えても?」


 俺は眉間に皺を寄せて訝しげにする。五分刈りの頭を乱雑に掻きながら、プーケット隊長は切り出した。


「君はガタルと名乗る冒険者と闇試合を行った筈だね? その試合後ガタル氏はゴッソ氏と共に路地裏で遺体で発見されたんだ。我々としては君からも話を聞ければ更に色々な事が分かるのではと、睨んでいる」


「あの勇士が! 何て事でしょう!」


 俺は驚いた振りをしておいた。ガタルが死んだ事をたった今知ったかの様に。テーブルの上で手を組み合わせて鼻に宛がう。此方を窺うプーケット隊長の眼差しは鋭い。まあ当然、馬鹿じゃなければ俺も容疑者の一人として数えられているのだろう。だが妙なのは、たかが冒険者が死んだ位の事は日常茶飯事の筈なのに、何故こんなに騒ぐのかと云う事だ。さっきの事件は隊長さんの裁量で丸く収まったのにも関わらずだ。


 そういえばガタルの連れは高級品の鉄製鎧を着けていた。どっかの偉いさんの御曹司だったのか? 変態だが。だがそう考えると自然ではある。本来彼らには珍しくもない冒険者死亡事件だが、御曹司の親から要請されれば、彼らも何らかの行動は起こさなければいけなくなる。しかしガタル達の死体は相討ちに見せ掛けておいた筈。だが親なら子の死に様に納得がいかなかった可能性もあるのか? 兎に角あんな奴等の殺害の罪なんかで捕まって堪るもんか。何とか誤魔化して逃れてやる。


「確かにガタルさんとは闇試合を行いました。しかしその後は御会いしてはいません。不幸にも亡くなられた事には胸を悼めてはいますが、その事と私に一体何の関係があるのでしょうか?」


 プーケット隊長の眼を真正面から見詰める。ここで下手に視線を反らしたり泳がせると、怪しい事この上ない。


「そうか、確認するがガタル氏とは闇試合の後は会ってはいないんだね? 重要な証言に為りかねないから慎重に答えたまえ」


「はい、闇試合の後にガタルさんには御会いしておりません」


「なら闇試合の後は何をしていたんだい?」


「闇試合の後は宿に帰って休みました。宿の不寝番に確認を取って頂いても構いません」


 この世界には科学的検証による、死亡推定時刻なんてない。本来は遺体内部の下部に溜まる血液が死斑と呼ばれる模様になり固まり具合から推測出来たり、眼の水晶体の濁りや舌なんかで遺体が様々な事を語るらしい。だがこの世界では所詮遺体は肉塊でしかないのだ。遺体の死後硬直具合から時間帯を推測位は出来るだろうが曖昧な物だ。従って、アリバイなんて必死こいて偽装しなくてもいいのだ。


「確認は既に取っているよ。確かに闇試合からそれ程経たずに帰って来ているね。なら闇試合の前後で何か変わった事は無かったかい?」


「いえ、特に変わった事は無かったと思います」


 プーケット隊長は盛大に溜め息を吐いた。何らかの報告を入れないと色々と面倒な事に為るのかも知れない。まあ、偉いさんの息子だったかも知れないと云うのも俺の推測でしか無いが。所詮証拠や目撃者がなければ、迷宮入りするか浮浪者同然の奴を適当に捕まえて冤罪を被せるかしかないのだ。ただ怖いのは俺はガタルの関係者ではあるし、容疑者とも解釈出来る位置付けな事だ。隊長さんが真面目な奴で助かったかもな。犯人は俺でも良いかとか不真面目に隊長さんが考えてしまうと困る。


「トマス! ヒポグリフ博士は既に到着しているな。早速呼んでくるんだ」


「ハッ、了解です」


 トマス副長が嬉しそうに扉を開けて退室する。何だ! 何が始まるんだ。


「シグマ君、君にはちょっとした実験に付き合って貰うよ。なぁに心配ない、先程の供述を君に自身に保証して貰うだけの事だ。簡単だろ?」


 何だかやたら愛想が良いプーケット隊長に、嫌な予感しかしない。


「保証……ですか? 保証しろと言われましても、先程の答えを証明する事は精々宿の不寝番の証言位しかありません。どうやら私に何らかの容疑が掛かっている様ですが、その実験とやらを行えば宜しいのでしょうか?」


「そうだね。今の処ヒポグリフ博士が間違った判断を下した事は無いんだよ。最新の捜査方法でね、凄い成果を挙げているんだ。君をこの捜査方法で判定させて貰えれば、容疑は晴れると考えて貰っても構わないよ」


 その時、扉が開かれトマス副長と老人が部屋に入って来た。老人は、お伽噺に出てくる毒林檎を盛る婆さんの様に鉤鼻に細長い顔の爺さんだった。黒色のローブを着込み曲がりくねる杖を突き、まるで魔法使いの様な格好をしている。


「フェフェフェ、待たせたかのぉ、ヒポグリフじゃ。お前さんが今日の儂の実験に協力してくれる輩じゃな」


 熱心に俺を眺めて嬉しそうな爺さん。


「ヒポグリフ博士、今日も宜しくお願いします。博士のお陰で、我々は随分と助かっています。私も博士の作法を学ぼうと日夜研鑽していますが、中々博士の様には行きませんな」


「当然の事じゃ。儂の理論は膨大な経験の積み重ねが導き出す真理じゃからして、そう簡単には修得は叶わんじゃろうて」


 真理? まさか! 魔法とか!? 爺さんの格好は魔法使い、その物だ。俺が知らんだけで、もしかして魔法が有るのかこの世界! だとしたら……不味い! 不味い! 不味い! 捕まったら縛り首になるのか! ガタル達みたいなクズを始末した位で? 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! この詰所に居る奴等を皆殺しにしてから、ポムに変装してクシャラルを連れて逃走すれば時間を稼げるか? どうする? 俺のこめかみから一筋の汗が頬を伝い零れ落ち、戦闘に備えて鋼の様に握った拳に滴った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援してもいいと思ったら押して下さい。私がこの場所に貼り付けたタグです。なろうの関連サイトですので安全な筈です。日間ランキングが表だどすると裏ランキングでしょうか。2週間で裏ポイントはリセットされてまた最初からよーいドンですので、表とは違う順位の隠れた名作に出会えるかもです。このタグでインしてくれたら私に裏ポイントが入ります。なんだったら表ポイントでもいいんですよ→ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ