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第二十七話 後始末

 へルマンは無事に黄泉への旅に出た。生き残りの瀕死な連中も、後腐れがない様に息の根を止めておいた。そしてクシャラルの方へ振り返る。クシャラルはやっと一息付けた様で安心した表情で此方を見ていた。気丈な子だな。


「この暴漢達は俺に八百長させる為にお前を拉致したらしいから、助けた事に付いては気にしなくてもいい」


「あんたはそう言うけどさ。二日前にあたしはあんたに言ったよね。理屈は分かったけど感情で納得出来ないって。それで今回の件だけど、理屈の方はあんたの巻き添えを喰らってとても納得なんか出来ないけど感情的には凄く嬉しくてさ。前回とは丸っきり逆だね。あんたが飛び込んで来た時なんて、あたしはいつの間にか物語の姫様になっちまったかと思っちまったよ。それにしちゃあ、あんたのその格好はなんだい。あたしの為に随分無茶やらかしてくれたんだろうけど、服は傷んで髪は乱れてさ。とても姫様を助けに来た王子様には見えないね。でもさ……何でかあたしにゃ、小綺麗な格好した王子様よか格好良く見えるよ。本当に有難うシグマ」


 クシャラルが微笑む。そりゃ躯を張って貰えれば、色々と抱え込んでいた鬱憤も随分と解消されるか。結果的に良い方に転んだな。


「いいさ。さっきも言ったが暫定的にはまだ仲間なんだしな。この前の話の続きは後廻しにして、今に集中しよう。さてクシャラル。この惨状を無視して、何もなかったかの様に宿に帰る訳には行かない。まず無理だ。衛兵を呼ぶしかないだろう。ここに来るまで家々の壁をぶち抜きながら来たし、俺の姿も随分目撃されただろうしな」


 転がる死体を眺めながら考える。正当防衛は状況から言って成立する事は間違いない。だが流石にちょっと弱いか。ちょっと派手に暴れ過ぎたのだ。痛くもない腹を探られたくはない。何かしら、もう一捻り欲しい処だ。


「じゃあ、あんたか私で呼びに行くかい?」


「こういうのは美談に仕立てるしかないな。だから俺はクシャラルの恋人の冒険者で、偶々道行く人にお前が浚われたかもしれないと告げられた。それで必死に探して焦る余り家屋を破壊しながらも、遂に助け出したとかにするのが一番だ」


「こ、恋人の冒険者ってあんたがかい? しかもあたしと?」


 流石にいきなり恋人云々は気恥ずかしいのか、クシャラルは頬を赤く染めた。


「あくまでも周りを納得させる為の筋書だ。お前は基本的には浚われて俺に助けられた事だけ言ってりゃいい。下手に喋って相違が出ても困る。クシャラルも筋書は飲み込めたな? 早速衛兵を呼びに行こうか。ここには急いで来たから随分騒がれたし、こっちは基本的には被害者だからな」


 いや呼びに行くまでもない様だ。幾人かの足音が、廃屋の階段を上がって来ている。多分衛兵だろう。衛兵は街の治安を司るが、それ程上等な組織ではない。腕が立ち素行の良い冒険者や地元の若者を、星給で雇って形成されている。前世の警察よりも自警団色が強い組織だ。当然、捜査権はあるから警察だとも言えるが。だが念の為クシャラルを後ろに庇う位置取りをする。読みが違って悪党の仲間の可能性もあるし、壁を壊した家の住人でも不思議じゃない。悪党は殺すし、住人なら金で解決しよう。


 軋む扉を開けて入って来たのは、やはり衛兵達で六人ほどだ。全身を被う革の鎧に鉄のプレートを所々張り付けた物を装備して、それなりの値だと思われる剣を腰に吊っている。彼らは色々な荒事で大分見窄らしくなった俺と、特に被害らしい被害の無いクシャラルを見て剣を抜き警戒心も顕に尋ねてきた。


「衛兵隊だが何があった? お前達は? そこらの死体はお前達が殺したのか? 家屋破壊の容疑者は? 答えるんだ!」


 六人の内一番上等な剣の持ち主が隊長なのか、糸の様な細目を更に鋭く細めながら五分刈りらしき頭をこちらに向け、矢継ぎ早に質問をしてくる。


「お役目ご苦労様です。私は冒険者のシグマと申します。後ろは恋人で同じく冒険者のクシャラル。実はクシャラルがこの暴漢達に拐かされまして、私が救いだした処に皆様方が到着されたという次第です。ただ救い出す過程で、私が途中の家々に迷惑を掛けたのも事実です。住民の皆さんには私が直接謝罪して補償もする心積もりですが、治安を騒がせた事を衛兵隊の皆様方にも謝罪致します。それと少々荒事に発展しまして、相手が複数だった事もあって手加減出来ずに皆殺しにしてしまいました」


「全員を倒した? 一人でか? 若いしそれほど強そうには見えないがな」


 隊長らしき奴に隊員が囁く。


「プーケット隊長。こないだ山脈越えを果たした闘神のシグマです。間違いありません。噂の通りならこれ位は可能でしょう。連れの女性も、この間痴話喧嘩していたと噂される女性と容姿は一致しています」


 闘神のシグマだとか、随分と大袈裟な二つ名を付けられたもんだ。精霊信仰は前世の八百万の神様みたいに道端の石コロから太陽まで宿りしかも沢山いる。その中でも人間の根本に関わる主な事柄を司る精霊は神性を得て〇〇神なんて呼ばれるのだ。衛兵隊までもが闇試合を普通に知っているのは、住民達の不満抜きに有効だからだ。それに貧民街の元締めカッツオーネファミリーもある程度秩序を保つ為には必要悪だと、上は認識しているからだ。賭け事を無理に抑え付けても潜られるだけだ。もしファミリーを潰しても次のが出て来てイタチごっこになるだけで益がない。いっそ大々的に公式イベントにして儲けようか、なんて案すら秘かに検討されてるらしい。そんな風にハグナムさんも言っていたのだ。


「ほう……闘神のシグマか。君は随分と腕が立つんだな。クシャラルさん。彼の言った通り襲われそうな処を救って貰ったというのは本当かい?」


「そうだね。恋人のシグマに助けて貰ったんだよ」


 クシャラルは俺の腕に腕を絡めて寄り添う。中々の演技派だなコイツ。そう言えば初対面でウィンクを俺にかましてやがったか。


「彼に脅されて言った訳じゃなさそうだな。美人局だとしても廃屋に連れ込む筈もないだろう。シグマ君が慌てて走っていたのも住民からの証言で確実だな。今のところ君達の証言は本当の様だ。だが取り調べは衛兵隊詰所で受けて貰うよ」


 美人局の可能性まで疑うのかよ。この隊長さんかなり真面目に考えてるな、好感触だが面倒だ。


「勿論ですとも、私共には疚しい事などありません。御一緒させて頂きます」


「よし! トマス、お前だけ詰所に急ぎ連絡して応援を呼んで来るんだ。後始末をさせろ。残りは彼らを詰所まで連れて行くぞ!」


 衛兵の中でも、かなりちゃんとした小隊なんだろう。プーケット隊長の指示も的確な物だ。彼らに警戒されつつ、廃屋を出て貧民街の外の下町とも云うべき所にある詰所を目指す。プーケット隊長が話し掛けてきた。


「いや~丁度君に用事があってね。助かったよ。中々居場所も掴めなくてね。炎と水の景観亭に逗留して居るのは知っていた。だが何時も留守でね」


 おい! 和やかに喋り掛けてくるが、目が笑ってないぞブーケット。前世の警官が醸し出す様な、嫌な雰囲気をプーケット隊長から感じる。何故か警官と云う生き物は、疑う仕事の為なのか職業病なのか性格が歪むのだ。特に顕著なのが、全てを把握しないと気が済まなかったり詰問口調だったりする事だ。だが和やかに話し掛けて来るのは、尤も最も危険な兆候だったりする。それは油断させようとしていると云う事だからだ。ま、心当たりが無いわけでも無いが。幸い、疑わしきは罰せよの精神でいきなり拷問に掛ける積もりじゃない様だ。前世の中世じゃ拷問が捜査と言っても過言じゃない位だった。だがちゃんと尋問してからみたいだな。本来なら当たり前の話だが。暫く歩くと二階建ての正方形の建物に辿り着いた。


「ここが詰所だよ。さあ入ってくれ、早速取調室で話をしようじゃないか」


 中に入ると、3LDK位の広さはある1階の6畳間位の取調室へと案内された。クシャラルは待ち合い室とやらで待機だそうだ。中には木造のテーブルや椅子がある殺風景な部屋で、窓には鉄格子が嵌まり逃亡を防ぐ造りになっている。外からの日光が射し込み陰鬱な感じは受けないが、床の赤黒い染みは何だろう。プーケット隊長とテーブルを挟んで向かい合って座り、トマスと呼ばれる副長が入口を塞ぐ様に立つ。


「さて、シグマ君始めようか」


 糸の様な細目から視線を俺に送り、にこやかに宣言をするプーケット隊長が何故か怖い。





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