第二十一話 隠し部屋
中に入ると大きな広間になっている。広間の奥には複数の小部屋が並んでいる造りの様だ。扉の類いは他の家々同様木製だったのか、腐って既に原型すらない。
「「グギャギャ」」
すると小部屋の一つから続々と四匹の毛人が出て来た。手槍を持つ奴が後衛二匹、棍棒を持つ奴は前衛二匹だ。
「クシャラル! 打ち合わせの通りじゃぞ」
俺が前で踏ん張りクシャラルは後ろから隙を見て攻撃すると云う事を、予め打ち合わせていたのだ。
「任せな、ポムさん!」
お互いに目配せして前に進んだ。そして背中から盾を出し構えた。そしてメイスを右手に握る。クシャラルは鞘から短剣を抜き放ち、俺の後に付き隙を突ける様に準備した。俺は威嚇する様にメイスを振るい、毛人に距離を置かせて自然と奴等を扇状に広げる。扇状の左端の小毛人の腕に、クシャラルが短剣を繰り出し棍棒を持てない程の怪我を負わせる。と、俺の左側でクシャラルが集中している内に、メイスを空中に一旦離して拳を素早く右端の毛人に放った。そして瞬時に空中のメイスを再び掴む。
今回は流石に、クシャラルも同行しているし慎重に行こう。その為に俺の拳の威力も上げて毛人を吹っ飛ばし昏倒させた。左端の一匹は既に武器を落としてしまっている為に、クシャラルの攻撃で何とかなるだろう。残りの二匹は俺がメイスで威嚇して、足止めしておく。無事にクシャラルが一匹を倒し、更に俺が足止めしていた二匹の内1匹にクシャラルが更に怪我を負わせ、後は力押しで毛人を倒した。
「ポムさんが右端の奴を、素早く片づけてくれたから楽だったね」
「なあに、偶々メイスを振ったら当たっただけじゃよ。馬鹿力だけはクシャラルの御墨付きじゃしの」
「それでも大した物さ。もう少しポムさんが慌てて苦戦するんじゃ、なんて思ってたからね」
「筋が良さそうだと言ってくれたクシャラルの期待には、応えられたかの?」
「勿論さ!」
返り血塗れの顔でクシャラルは爽やかに微笑んだ。毛人の胸から魂石を五つ手に入れる。これだけで50000ゴルドの儲け、半日荷降ろしの仕事をした時よりも儲かった事になる。
キャンプ狩りをする冒険者の気持ちが、分かり過ぎる程の儲けだ。まあ危険を度外視すればの話だが。さて五つ程の小部屋が並んでいるのだが、クシャラルが一緒にいる為に俺は壁や床を触って反応するかどうかしか今は確かめる事は出来ない。それでも村規模の遺跡にすら秘密の部屋が隠されているかどうかは、重要性の高い確認項目だと思われる。
「ポムさん何もないね」
クシャラルが紅唇を尖らせて小部屋を見渡す。知ってはいても、ひょっとしてなんて思うのが人情なのだろう。
[魂力を入力して下さい]
さっきからこれで計5回、全ての部屋でアナウンスを聴いている。全てを開いて隠し部屋を確かめたいが、少なくともこの規模の遺跡で秘密の部屋が存在する事を確認出来ただけでも、充分な収穫だ。
「こんな物じゃよ。現実に一攫千金を為し遂げた者など、極々少数の運の良い者達だけじゃ。ま、儂も期待しておったがの」
ウインクをクシャラルに飛ばすと、吹き出して笑ってくれた。
「その年で冒険者なるだけはあるのかね。達観してるかと思えばポムさんも期待してたのかい」
「しなくなっては冒険者とは名乗れんの」
「かもね、冒険者してたお袋も浪漫だとか言ってたしね」
「そろそろ引き揚げるかの、今からなら夕方には街付近の比較的安全な場所で休める筈じゃ」
「だね」
俺達はそそくさと来た道を戻って行った。これといって障害にも出逢わずに夕方には街の付近で夜営をした。そして翌朝には街中に入りクシャラルを宿まで送りがてら昼食を一緒に取ってその日は別れた。
クシャラルは宿で寝るだけだろうが、俺には巡礼が残っている。地道な営業が後々に活きてくるのだ。変装してから幾つかの酒場へと行き、酔っ払い達に挨拶して帰って寝た。それから4日間ほどは、クシャラルと遺跡へと赴き毛人の魂石を収集しつつ、ハグナムさんにそれらを売り払い過ごした。明朝クシャラルと前日の反省点や改善点を話ながら訓練を行い、朝食を食べる時に提案をしてみる。
「クシャラルや、今日は体も疲れているじゃろう。二日程の休みにして着実に英気を養わんかの」
「だね、休むのも仕事の内だってお袋も言ってたしね。賛成さ。あたしも一寸ばかり戦闘の緊張のせいか疲れたしね」
クシャラルが肩を回して解す仕草をする。
「なら今晩までは個々に自由行動じゃな。個人的な雑事でも片付けて、夜に噂の闇試合を見物にいかんかの?」
「そんなのがあるんだ、そりゃ楽しみだね。で、日が沈んだ頃にどこで落ち合うんだい?」
「儂らが出逢った、あの酒場でやっとるのじゃよ。行きは兎も角、帰りはちゃんと送っていかんとの」
「何時も悪いねポムさん。分かったよ、それまでは宿で骨休めするさ」
「では後でのクシャラル」
「じゃあね、ポムさん」
クシャラルと別れ俺の宿へと戻り一休みし、夕方頃にはあの酒場へと向かった。変装グッズも携帯済みだ。酒場に入ると、クシャラルが俺を張っていたのか直ぐに声を掛けてくる。
「ポムさん、凄い盛り上がってるじゃないか、これでこそ来た甲斐があるって物さ」
クシャラルが両手を拡げて広間を俺に披露する仕草をする。酒場の中には前回よりも人が溢れ熱気が充満していてまるで祭りの様だ。
「儂は厠に行ってくるかの」
「分かったよ、ポムさん」
やれやれ祭り囃子はないが、クシャラルは雰囲気に酔っている様だ。クシャラルから生返事が返ってくる。俺は厠に入り、変装を外してから回復率を上げてフクレ草の効能を回復した。さてこれからシグマとしての活躍をクシャラルに披露するのだ。
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クシャラル視点
ポムさんが厠へ行くと、あたしは少しばかり寂しく感じた。あたしの周りには沢山の盛り上がった観客が前座の闇試合を見物している。多分その所為で、更に自分が一人だと認識させられたからだね。それにしてもポムさんの活力には驚かされたよ。結構な歳の筈なのに、戦闘の時にはあたしを守って壁役を立派に務めてくれてる。最初に会った時には身の程知らずの中年の男娼にしか見えなかったのに、今じゃあたしに仲間だと認めさせるだけの働きをしている。
元々は戦闘能力以外は仲間として申し分なかったからね。もう歳だからか、あたしに変な色目も使わないし。人柄も父親が居たらこんなだったのかなって、あたしに思わせる程の安心感を覚える。最初から色々と世話を焼いてくれていたし。もしも年寄じゃなかったら、危なかったかも知れないね。ポムさんて何だか可愛いしさ。ポムさんとなら何とか冒険者家業を遣って行けるんじゃないかと、あたしは思っている。故郷の村には、もうあたしの居場所なんか無いんだしね。あ、本番の闇試合が始まっちまうよポムさん。早く厠から帰っといで。




