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第十九話 鎧徹し

 ガタルは俺の返事に満足したのか嬉しそうに嗤った。ガタルが俺から離れるとアダマカスとジェイドが様子を伺って居たのか、心配して寄って来てくれる。


「何か言われてた様だが大丈夫か?」


 流石にアダマカスは雰囲気がおかしい事に気付いていた様だ。


「アイツは腕は立つが、あんまり良い噂を聞かないんだ」


 ジェイドも心配してくれた。


「まさか、普通に挨拶してただけですよ。あ、そろそろ帰りますね夜も遅いし」


 二人は腑に落ちない様で別れ際まで何か言いたそうだったが、何とか説き伏せて納得して貰い別れを告げた。親切心からなのだろうが、俺の考えている事を今から行うにはかえって邪魔臭いのだ。俺は外套を羽織って店を出た。暫く時間を潰してから、脳地図上の脳プロ登録済のガタルを尾行している。


 ガタルは灯りの魂具を腰元に携えて夜道を歩いている様だ。俺は薄い星明かりでも活動出来る様に村で訓練を積んでいる為に何とか尾行出来た。俺をあれだけ脅迫してくれたんだ。流石に頭に来た。しかし前世でも今の状況を警察に説明した処で、立件は難しいだろう。それに最初からこの世界の衛兵なんかに期待する訳がない。俺の中では既に正当防衛は成立している。奴を襲って始末するつもりだ。


 奴が向かうであろう人通りの少ない路地裏へと先回りし待ち伏せる。ガタルは誰かと一緒の様だ。二人分の声が薄暗い路地裏を響き渡り、こちらにも聴こえて来た。


「ガハハハ、あの餓鬼調子に乗ったはいいが、結局芋引いて泣き入れやがったんだわ」


 上機嫌のガタルの声だ。


「闘ってた時は凄えとか思ったが、そんな軽い脅しで金やら何やら出すとは根性のねぇ餓鬼だな。まあ、ガタルの気迫に気圧されたか。それで餓鬼に女を連れてこいって命令すんだろ。俺にも回してくれんだよな? 嫌がる女を無理矢理ってのが堪んねぇだよなぁ~。昔に二人で犯った女はすぐに壊れて元に戻らなくなったろ、だから今度は捕まえた女を俺達で秘かに飼うんだよ。で、ゆっくり慣らして無理矢理犯したりして宥めながら徐々にって具合だ。どうだ長持ちしそうだろ?」


 ウゲッ、仲間も屑の極みだな。


「お前天才か!」


 そんな提案を称賛するなよガタル。まあ幾ら妄想しても、ここで奴らは終わらせる。これ以上被害者を増やさせる訳にはいかない。


 この工房街近くの路地裏は三人位が並んで歩ける程度の狭さと、騒いでも表通りに声が届かない距離がある。奴等が路地の中間辺りまで来た。路地裏に散らばる木箱の影から俺が登場すると、二人は驚き誰なのか気付いて喋り掛けて来る。


「誰かと思えば、お前かよシグマ。今の話を聞いてたのかよ。ま、お前にはさっきも言ったが働いて貰うぜ」


 ガタルの頭はお花畑だな、何故俺が路地裏に潜んでいたのかすらも考えていない。それとも剣を二人供携えているから、勝てると判断しているのか。お、仲間の奴が鉄の胴鎧を装備している。高級品なのに、どうやって買ったんだ。


「おら! ガタルに挨拶しろよ! ガタル様、女と金を貢がせて貰いますってな」


 この変態野郎から殺す。



「*****」


 俺はわざと俯きながら、不明瞭で適当な言葉を呟いた。


「あぁ~ん、動揺して喋れなくなっちまったか?」


 変態が無防備に俺に近付き俺の頭を鷲掴みにして来た。しかし俺は両掌を既に相手の鎧に添えている。そして勁力を発して変態の鎧に叩き付けた。


「ゴフッ」


 鎧ごと変態が吹っ飛ぶと、ガタルの足元に倒れ込んで動かなくなる。


「てめえ何を!」


ガタルは俺を警戒しながら仲間を助け起こして様子を確認している。


「大丈夫か! ゴッソ。

 ん? し、死んでる! お前……鉄の鎧着てる奴をどうやって殺したんだ」


 ガタルからすれば、俺にゴッソとやらが近距離で突き飛ばされただけに見えた筈だ。だが俺が放ったのは発勁だ。単純に突き飛ばした訳じゃない。まあ、ガタルには分からないか。


 そして鎧を着けてる相手にダメージを与える方法だが、鉄の鎧に衝撃波だけを透過貫通させて相手の肉体のみを破壊するなんて便利な方法は存在しない。有名な鎧徹しと呼ばれる技は、二次元創作物にしか存在しないのだ。可能なのは相手の鎧に触れて威力のある攻撃で急激に押す位だろう。すると相手の身体に密着した鎧や鎧下を介して、相手の身体に圧迫をかけられる。上手く行けば圧迫からの心停止をさせられるという訳だ。今ならゴッソは蘇生術でもすれば蘇生するかもな。こうすれば鎧に傷を付けずに相手を殺す事が出来るが、鎧徹しなんて大層な物ではない。ガタルが剣を抜いて構える。


「シグマ、ここまでやっちまったらお前はもう死んだ様なもんだぞ。あと俺に剣を構えさせちまった時点で終わりだ。諦めろ」


 ふむ。ガタルは武器が有れば俺に勝てる積もりらしい。大いなる勘違いだ。


「じゃあ、終わらせてみろガタルさんよ。掛かって来い」


「言われなくてもオラッ」


 ガタルは飛び出すと同時に横薙ぎの斬撃を放った。だが幅のない路地裏では、剣を満足に振る事も出来ずに斬撃を壁に放ち剣を取り落とした。阿呆か。


「痛ッ」


 手首を痛めたのか喚くガタルを眺めつつ、どうやって料理するか思案する。


「ガタル、剣を縦に振るしか出来ないみたいだな。どうする? 俺に勝てそうか?」


 本当は剣とか素手とかすら関係ないけどな。


「馬鹿が! お前だってさっきみたいに動き回れないだろうが、俺の方が有利に決まってる。揺さぶりは通用しねぇぞ」


 本気の質問なんだが。


「そうか、さっきの試合みたいに動き回れないか。なら今度は真っ向勝負だな」


 言った瞬間に俺はガタルの間合いに入り、突きを放った。ガタルの鼻を撃ち抜くと素早く後退する。


「プギャッ」


 鼻血を吹き出しながら、たたらを踏むガタル。その顔には驚愕が浮かんでいた。さっきの闇試合よりも、更に速く鋭い刻み突きを御見舞いしてやったからな。それにガタルの腰に携えた灯りだけじゃ、全然明るくないのも更に影響している。


「ガタル、お前は闇試合で俺の紫雷を一度でも認識出来たか? 出来てないだろ。それに暗い路地裏でどうやって防ぐつもりなんだ?」


「何とかなる筈だ。いや……何とかするんだ!」


 ガタルは涙ぐましく自分に言い聞かせ、剣を振りかぶると踏み込んで来る。だが俺の踏み込みと拳速は、ガタルのそれを遥かに凌駕している。ガタルよ何故それが分からないんだ。最初から比べるべくも無いだろうに。俺の拳先が、瞬間移動したかの様にガタルの顔面に炸裂する。剣を握った儘ガタルは弾かれた様に仰け反る。


「ま、待てシグマ! 落ち着こう。な? 本当は明日お前が金を宿に持ってきたら、冗談だったとかやるつもりだったんだよ。分かるか? 全部ただの誤解なんだ」


 ケッ、んな訳があるか。


「止めとけよ、ガタル見苦しいぞ」


「なら、俺と組もうじゃないかシグマ。俺とお前が組み合わされば、凄い事になるぜ! もっと大きい事が出来る筈だ」


 大きくて凄い事ね。また誰かを犯すのか?


「お前は選択を間違ったんだ。だから、お前の好きな弱肉強食に従って安心して死ね。な?」


「死んで堪るか!」


後退りガタルは逃げ出した。俺は途中にある木箱に飛び乗り跳躍し、上からガタルに飛び掛かる。しかしガタルが急に振り返って、剣を構えて振りかぶる。


「シグマ、跳んだのは失敗したな。空中じゃ俺の剣を躱せないぜ。やはり俺は天に愛されている特別な人間なんだ!」


 確かに空中の俺は不利なんだろう。方向転換が出来ない。ガタルの剣の直撃コースだ。どうする?


俺は両足を開き180度股割り開脚して、左右の壁に足裏で踏ん張った。当然ガタルの渾身の一撃は、空中の俺を目標にしていた為に空振りして地面を抉り、たたらを踏んで俺の真下まで来る。


 俺は両足で壁に踏ん張ったが、上半身は慣性に従い突っ張った両足を軸にして回転しながらガタルの背中に向かい、逆さまに抱きついた。逆さまに抱きついたガタルの身体を、勢いでそのまま回転に巻き込み持ち上げる。そこで両足を壁から離すと残りの勢いで回転して、ガタルは逆さまに俺は正常の位置に成りパイルドライバーの体勢になった。空中で重力と慣性が釣り合い、0.5秒位静止したと思う。たぶんガダルは走馬灯を視ている頃だろう。


 走馬灯とは人が死の直前に、それまでの人生を高速で追体験する事だそうだ。

今までの人生経験を追体験する事で、死のピンチから逃れるヒントを探して高速検索しているとか。ガダルにもこの状況から逃れる術があればいいのだが。脳神経の専門家によると、走馬灯の速さは0.086秒に1年分を視ると試算している。止まった0.5秒と落ちる1.5秒位で2秒だが、ガダルは25歳位だから、人生の走馬灯を全て視るには少し足りないかもな。


「ヒッ、待っ、許し」


 何てのが聴こえるが知らん。頸椎の骨が折れる嫌な音が鳴り、ガタルの身体から力が抜けて地面に伸びた。やっと片付いたが忙しいのはこれからだ。まず、変態の腕をガタルの折れた首に後ろから回して絡ませる。まるで絡ませた腕で捻り折った様にだ。


 これは、ガタル達の仲間割れに見せ掛ける為の偽装工作だ。所詮この世界には鑑識は無く、現場検証も杜撰で騙すのは難しくない。そしてガタルの右手に奴の剣を逆手に握らせて、ゴッソの鎧の隙間から剣先を肝臓の位置に突き刺す。出血が少ないが死んだばかりだし、放っとけば多少は出るだろう。外套のフードを深く被りその場を後にし、宿に帰ると安らかな眠りに就いた。






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