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第十八話 魔神の剣

 速さに自信があると自ら誇るだけあって、ジェイドは中々の速さで突進して来る。そして擦れ違い様に、フックを俺に引っ掻ける様に放って遥か後方へ抜けて行く。俺の顔の横を、奴のフックが轟音を響かせて通り過ぎ、背後でジェイドが振り返ったのが感じられた。成る程ね。交差する瞬間だけ一方的に攻撃して去っていく訳だ。ならばと俺は腰を落とし、左構えで右拳を腰に添えて左掌を緩く前方に翳す。するとジェイドが声を掛けて来た。


「さっきの様にちょこまかとは動かないのか? ならこのまま嬲ってやる」


 ヒットアンドアウェイで有利になると見たのか、ジェイドが嗤いながらほざいてやがる。ジェイドが擦れ違い様に俺の顔面にフックをかまして来るが、上段受けで弾いてやった。お互いの前腕の骨を激突させて奴の拳の軌道を反らしたのだ。もはや受けというより攻撃に近い威力の物をだ。


「ツッ……俺の攻撃を弾いたついでに俺の腕も攻撃してんのか、何だそれ」


 腕を擦りながらジェイドがぼやいている。上段受けの副次的効果に吃驚している様だ。更に挑発するか。


「もう来ないのか、威勢が良いのは最初だけか?」


「糞が! 舐められて堪るか」


 ジェイドは乗りが良いな。俺の挑発に簡単に乗ってくれる良い奴だ。フックを擦れ違い様にかましてくるが、全て弾き返してやった。焦れて更に雑に成ったジェイドの右フックが、俺の顔面右後方に抜けた瞬間に俺は腰を捻り右足を跳ね上げた。右の上段蹴りだ。ジェイドの左顔面に足の甲を叩き付ける。


「闘技、龍脚」


 只の右上段蹴りだが、観客の前だし何となくな。ジェイドは上段蹴りがマトモに当たり床に倒れた。俺は本来蹴りのセンスはないが、身体的にこれ位の事は出来るのだ。


 周りの観衆達は衝撃的な光景に暫く固まっていたが、口々に俺や闘技の事を話し合っている。


「足で頭を蹴ったぞ、そんな事出来たのか……龍脚とか言ってたが」


「あの若さで何者なんだ。若手の中じゃ成長株のジェイドが遊ばれるとはな」


 よし、双子達が来るまでの一ヶ月半の間に、全ての奴を倒してやろう。俺が観客を眺めている間にジェイドは何とか床から立ち上がり此方を向いて問い掛けてくる。


「お前……俺の頭を足で蹴ったのか? そんな事が出来るんだな。参ったな。でもな、俺も終わってやる訳にはいかねぇんだよ!」


 叫ぶと同時にジェイドが突進してきた。またフックを放って来るのを上段受けで弾こうとすると、なんと弾かれながら俺の手首を掴みやがった。更に手首を基点に俺を引き寄せ、もう片方の手首も掴まれてしまう。最初から狙ってたのか、しかも俺が上段受けで弾くのも計算に入れてた臭い。奴は痛みで顔を歪めながらも、俺の両手首は離さない。


「蹴るのがお前だけだと思うなよ」


 奴は宣言すると俺の両手首を握ったまま、その場で跳躍して両足で縦のドロップキックをかましてきた。


「墜ちろ! シグマ!」


 ジェイドの両足の裏が迫る。両手首を固定され左右には避けられない。当たれば普通は脳震盪でも起こして倒れる。しかし俺は脳プロ身体防御で平気だろう。だが気持ち的には負けでプライドはズタズタに成るのだろう。さて、どうするか?




 俺は両手首を握られた儘、素早くしゃがみ込んだ。左右には動けないが、足腰は拘束された訳じゃない。だから上下には動けるのだ。俺の頭の上をジェイドの蹴りが通り過ぎて行った。そして俺と仲良く手を繋いだ儘のジェイド君は、俺のしゃがむ勢いに引かれて上半身が床に向かって落ちて行く。俺は素早くジェイドの手を振り切ると、無防備なジェイドの背中に向かって中段の足刀蹴りを放った。ジェイドは弾け飛んで、床を滑って行き漸く止まった。


「それまで!」


 立会人が宣言した。止めないと流石に不味いと思ったのだろう。心配なので俺もジェイドの様子を見に行った。アダマカスも慌ててジェイドの側に来ている。


「シグマとかいったか、ジェイドは気を失っているだけだ。鼾もないしな」


 頭を打った後で鼾を掻くと、脳内出血の可能性があり危ないのだ。アダマカスも経験則で知ってる様だ。合意の上とはいえ流石に何かがあると、後味が良くないからな。アダマカスにも声を掛けておく。


「そうか命拾いしたな。仲間なのだろう、介抱してやれ」


 ジェイドはアダマカスに任せれば良いだろう。


「ジェイドまでが、あの様かよ」


 観衆が騒いでやがる。そして暫くして観衆の反応が収まった頃、俺は広間の隅っこで休んでいる【魔神の剣】の連中の所に行き小声で囁いた。


「ジェイドさん、大丈夫ですか?」


 言葉使いを元に戻して話し掛けた。あの調子の儘で生活してると思われたら、頭の可哀想な人の印象に成るしな。あんなのは舞台上でしかホザいちゃいかんのだ。観衆には勘違いされたままだろうが仕方ない。あとジェイドには、秘かに回復プログラムを施しているから平気だろうけど一応な。ジェイドが呆気に取られている。さっきの偉そうな態度との違いに戸惑っているのだろう。


「あれ、お前そんな普通の喋り方だったか? ……まあいい、手加減してたみたいだしな。お陰で今は何とかな」


 ジェイドも頭の血の気が下がったのか、テンションまで違う。


「……そういう事か、君の思惑通りジェイドは踊らされた様だな」


 アダマカスが苦笑する。


「そうです。助かりました」


 こういうのは基本自己責任だ。しかし、謝るつもりはなくともフォローくらいは入れるべきだろう。


「え、アダマカスさん思惑ってなんです?」


 ジェイドは今一つ分からん様だ。


「お前を出汁にして、華々しく御披露目の機会を作ったんだよ彼は」


「えっ……どうしてそんな事すんだよ! お前位強けりゃそんな必要ねぇだろ」


いや、そりゃそうだがな。双子が来る迄に名を売り出したいからな。


「印象的にするには、ガタルさんや有名チームの貴殿の様な強者が、正にピッタリの相手だからです。なので少しばかり生意気な口調で挑発させて貰いました」


 ジェイドもやっと頭に状況が馴染んで来たのか大きく溜め息を吐いた。


「自分から挑んで負けたんだし、お前を責めるのも筋が違う。試合で多少威勢の良い事言う奴も別にいない訳じゃない」


 ジェイドも試合の事を根に持ってる訳じゃなさそうだな。


「そういう事です。大事じゃなくて安心しました。私も冒険者をやってますのでその時は宜しく。それじゃ」


 彼らから離れて広間を見渡すと、ガタルの奴が近付いて来た。そして周りに聞こえない程の声で囁いてくる。


「シグマとかいったか、チョロチョロ俺から逃げ回って勝ったと思うなよ。それにジェイド如きを倒して調子に乗り過ぎだ。生意気なガキには少々お仕置きが必要だなこりゃ」


「お仕置き……? どういう事ですか? 尋常な勝負だった筈ですが、[魔神の剣]の方々にも納得して頂きましたが」


「うるせい! こんな素手の試合ごときで、俺の本当の実力が発揮出来る訳がねぇだろ。剣でなら勝てたって言ってんだよ。今さら丁寧に喋っても遅せぇよ馬~鹿」


 オイオイまさか。


「ま、覚えてろよ。俺にぽっと出の新参の餓鬼が恥を掻かせたんだから、当然の事だ。何時も背後には気を付ける事だぜぇ。常に晴れの晩で沢山星が瞬いてる訳じゃあねぇんだぜ……ククク」


 コイツ脅しのつもりか、襲撃予告しやがった。


「ヒッ……チョット若僧が調子に乗り過ぎただけじゃないですか、基本的に自己責任の試合だった筈ですし今からでも穏便に済ます事は可能ではないかと、ガタルさんだって冒険者としても活躍されている筈ですし、何かの依頼で我々が協力し合う事もあると思います。だからここは先を見据えてひとつ穏便に……」


 最後の警告だぞガタル、次の一言でお前の運命が決まる。だから考えてから慎重に答えるんだ。


「世間知らずのガキが! 世の中にはな、逆らっちゃいけない奴が何人かいるんだよ。例えば俺様の様な真に強い男の事だな。お前は選択を誤ったんだよ俺という強者と試合で相対した時点でな。そうなったらもう弱肉強食の掟が働くもんなんだよ。幾ら小手先の珍しいだけの技を使えて偶然で俺様に勝てそうだったとしても、あの場合は俺様に勝利を譲るべきだったんだ」


 残念そうな顔のガタルを見て、終わったなガタルと俺は心中で呟く。


「そんな無茶な! 弱肉強食の掟? 何ですかソレ。弱い者は強い者に良いように扱われるなんてそんな事。脅す様なら……え、衛兵に報告しますよ」


「まだ何も事が起こってない、しかも脅しの言った言わない位の状況で衛兵どもに何が出来る? ま、俺は仮に何かが起こっても事故に見せ掛けるがね~」


 ニィと嗤うガタル。


「そんな! そ、そうだ! お金で何とかなりませんか? 幾らか包みますから今回は何卒……あと次に闘った時に譲りますよ。ね! これなら納得して頂ける筈ですよね?」


 どれ位まで調子に乗るかな、この馬鹿。


「そうだな金貨で3枚まず持ってこい謝罪料だ。あと毎月銀貨で30枚上納金を納めろ。闇試合も俺が言った筋書きで動いて負けるんだ。後はな~、お前は顔が生意気にもマシだから適当な女を引っ掻けて、俺が指定する部屋に連れて来てお前はすぐに帰れ。出来るな?」


 何処までも調子に乗るんだなガタルよ。


「そんな事まで出来る訳が……」


「あぁぁん、い~んだぜ。新人の冒険者が事故でか、もしくは襲われて亡くなるなんてのは日常茶飯事だしな。そうそう最近は食中毒も流行ってるらしいぞ」


 毒殺まで匂わせやがる。


「わ、分かりました。

 ガタルさんの指示通りにします」


「イイ子だな。よし、今日はもう帰れ。まずは明日中に指定した宿まで金を持ってこい」


「はい」お仕置きだ。






 

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