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第十六話 闇試合

 訓練の後二人で朝食を済ませて、また荷降ろしの日雇いをする事にした。午後の四つ鐘まで昼飯を挟んで働き、中型馬車八台分4000ゴルド掛ける8で32000ゴルドと、小型馬車1台2000ゴルドを手に入れた。締めて銀貨3枚と銅貨4枚の儲けだ。半分づつで17000ゴルドづつクシャラルと金を分けた。


 体を動かしたせいか腹が減り、ちょっと早いが二人で晩飯にする。するとクシャラルがこんな事を言い出した。


「ポムさん、明日から泊まり掛けでロマに行かないかい? 二人だけだしポムさんは荒事に慣れてないかも知れないけど、昔にお袋が言ってたロマ位なら行けると思うんだよね」


 なかなか大胆な姉ちゃんだな。まあポムとしての偽の実力と、この姉ちゃんの実力だったら行けるか。


 因みにロマというのは街から歩いて一日程の一番近い遺跡の事だ。五百年以上前から発見済みの遺跡で、既に何も残ってはいないのだ。しかし冒険者の初心者達にとっては、冒険者に成れるかどうかの目安になっている場所だ。それは義務でも試験でもないが、冒険者を続けていけますよっていう最低限の自己証明場所なのだ。まあ、行けるだろう。


「わ、儂の実力で通用するかのう? 冒険者達から聞いた事はあるが不安じゃよ。老い先短いわしが死ぬのは良いがの、若いクシャラルまで巻き添えになるかと思うとのぉ」


 嘘だよ、いざとなったらお前も守ってやんよ。


「大丈夫だって、ポムさんは思ってたよりも筋が良いし、遺跡の辺りまで行かないと化物も出ないしさ。出ても精々が毛人位だし、ここで覚悟決めないと冒険者には成れないって考えた方がいいね」


 そうなんだよな、街から随分離れなければ毛人にすら遭う事はない。人類生存圏内だからだ。それと毛人の魂石は一個10000ゴルド、つまり銀貨1枚もする。一匹分でも節約すれば何日か暮らせる額だ。


 それだけ聞けば冒険者は儲かる職業だと思うだろうが、そんな事はない。装備品の修繕や遠征の為の準備、宿に泊まる為の費用、部屋を借りるなら家賃も必要だ。街に滞在するだけでも滞在証明書の為に金が掛かる。市民権とかだと、もっと金が掛かるらしい。


 それに怪我で何時なんどき動けない様な身体になるか分からない商売だし、博打要素ありきの山師に近い。だから実力のある冒険者は、大毛人などの一匹銀貨十枚程の報酬が得られる獲物をキャンプ狩りしているそうだ。罠や待ち伏せを駆使して安全策で狩るらしいが、帰って来ない連中も珍しくない。


 この街に来る前に大毛人に殺られて全滅してた奴らも、その類いなのかもしれない。多分だが野営地で油断してた所を奇襲でもされたのか。実力のない新人冒険者達は、それこそ冒険者とは名ばかりの浮浪者か街の便利屋さんでしかないのだ。それが嫌で皆が無茶をして死んでいく。


 だが初心者用の遺跡なら何とかなりそうだ。俺達なら毛人の五匹位なら対処出来るだろう。ポムの偽装を解いた俺なら、それこそ幾らでも対処出来る。


「分かった、行くぞい。男は度胸じゃ!」


「そうこなくちゃね、あたし達なら行ける筈さ。きっとね……」


 一瞬だがクシャラルの碧眼に不安が垣間見えた。だがクシャラルは無理矢理に抑え込んで笑顔を浮かべた。偉いぞ。


 二人で金を出し合ってテント、ロープ、ランタン、保存食、食器、鍋、薬缶、毛布などを雑貨店で揃えた。全てを倉庫箱リュックサックに収納出来るとは言えないのが辛い処だ。そして彼女を宿まで送り自分の部屋で変装を解いた。今からはシグマとして夜の街に繰り出すのだ。


 俺は只の夜遊びの為に出掛ける訳ではない。目的は噂の闇試合をしている場所を見つけて参加する事だ。相手を叩きのめして、俺が凄腕だと周りの連中に知らしめるのだ。


 双子達からの情報じゃ冒険者の業界はピラミッド型で実力派の金持ち少数、そこそこの中堅、食えない新人及び実力の無い連中だそうだ。もしも周りの冒険者連中から俺が弱いと思われると、一番人数の多い雑魚層に舐められて狙われる事になる。そんな輩に街の外で狙われたとしても捻り潰せば良いとはいえ、非常に困るし尾行されるのも実に迷惑だ。オチオチ手付かず遺跡にも行けやしない。


 だが俺が強いと噂に成れば、俺を狙う雑魚冒険者達への抑止力になったりはするだろう。そして俺が冒険者達の間で凄腕だと評判になった場合だが、俺を倒して名を挙げたい輩が増えるのは仕方が無い。有名税だと思うしかないだろう。


 前から双子達とも名を挙げる方法を考えていたが、お誂え向きのイベントがあるなら乗らない手はない。

そんな訳でクシャラルと出逢った酒場に、まず足を運んでみる。


 酒場はこないだ来た時とは様子が様変わりしていた。壁には照明魂具が沢山取り付けられ、テーブルは何処かに片付けられている。広間には人垣が出来ていて、上階の手摺からも人々が身を乗り出し広間中央部を注目していた。


 観衆の隙間から垣間見えたのは、上半身裸の筋骨隆々の二人が殴り合っている光景だ。どうやら今日が闇試合の日だった様だ。この場所だとは思っていなかったがスラムと下町の間際にあるので、一般の小金持ちが遊びに来やすい様にしてるのか。


 この世界にも曜日の概念はあり、太陽、星、火、水、木、金、土の七つだ。今日は太陽の日だった筈だが、闇試合は太陽の日なのだろう。


 人々を掻き分け試合を観戦すると、二人の闘いは佳境を迎えているのか足を止めての連打戦になっていた。しかし二人共、派手には見えるが稚拙な攻防が展開されている。拳を固めて振りかぶり、全力で相手に向かって振り抜く物だ。


 良いパンチを貰った奴が倒れて勝負が着いた。やはり賭けているらしく、喜ぶ者や賭け札なのか木片を床に叩き付ける奴もいて盛り上がっている。


 人々の中に、こないだポムってくれたジェイドとアダマカスとかいう冒険者を見つけた。ジェイドは賭けに負けたのか、オレンジの短髪を掻き毟り地団駄を踏み悔しがっている。アダマカスが渋目の灰髪を撫で付けながら笑っていた。近付くと二人の会話が聞こえる。


「畜生め! ウゴルなんかに賭けんじゃなかった! 銀貨1枚もスッちまった」


「賭け事なんかそんな物だ。止めとけって言っただろうに俺はもう貸してやらんぞジェイド」


 やはり賭けてたのか。


「なあ、あと一回だけ。銀貨が無理なら銅貨でも良いんだ! もう少しで賭けの流れが見えそうなんだ! 頼むよアダマカスさん従兄じゃないか」


 コイツは流れとか色々見えんだな。絶対、気のせいだろ。


「駄目だ。お前の親父さんにも頼まれているんだよ。馬鹿な息子の面倒を見てくれってな」


 アダマカスは見た処20代後半だし、20歳位のジェイドの後見人って所か。


「金がもうないし何かねぇかな。一発逆転起死回生の手は……そうだ! 俺が自分で闘えば良いんじゃないか」


 短絡的だなジェイド。


「おいおい、ジェイド。ウチの金看板背負ってんのを忘れんな。一応ベテラン冒険者達の中じゃ新参だが、立場って物がある。大体お前の事を知ってる奴らが勝負を受ける訳ないだろうに、かといって上の連中とやらせる訳にもな」


 結構やるのかジェイド君。奴の事は兎も角、そろそろ俺の目的の為に動く事にした。


 彼らの脇を通り過ぎて、広間の試合をする為の空いた空間へと進んだ。大々的に一発かましてやろう。


「俺の名前はシグマだ! 温い闘いを観ていたら眠くなった。誰か眠気覚ましに相手してくれないか?」


 ちょっと闇試合は、大言壮語する事にしたのだ。その方が目立つだろうからな。名を売るのは、中々に大変だわ。


「それと一つ言っておこう。お前らの児戯では俺にには触れる事すら出来ん!」


 野次馬と化して盛り上がる観衆を掻き分け、体格の良い男が出てきた。鴨葱が来たな。


「何だとごらぁ! ガキの癖して生意気言ってんじゃねぇ!」





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