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第十五話 労働

 二人揃って酒場を後にし、南門にある馬車溜りへと向かった。途中にあった肉の串焼き屋台の前で足を止めて、クシャラルに振り返り話を振ってみる。


「一働きする前に丁度昼ごろだしの、串焼きでも腹に入れてくかの」


 金を彼女が持っていない事を知ってはいるが、わざと話を振った。案の定彼女は困った顔でこちらを見ている。狙い通りだな、奢ってやれば小さな恩を売れそうだ。


「こうして知り合ったのも何かの縁じゃよ、ここは年長者の儂に奢らせてくれんかの」


「いいのかいポムさん? 何か悪い気がするね」


「なに、たかが屋台飯位でゴチャゴチャ言ってもの」


 その時彼女の腹がキューと鳴った。


「……そ、その」


 頬を染め恥ずかしそうだ。


「ホッ、いい返事じゃの!」


 串焼き一本が石貨二枚200ゴルドの奴を十二本買って半分づつにすると、やはり腹が減っていたらしく遠慮がちに喰いだした。


 多分だが今の処、彼女の俺に対する好感度は良い筈だ。日雇い仕事に誘ってくれて金欠の自分に飯までくれた面倒見の良いオッサンだと、認識してくれているのだろう。味方認定まではいっていないが、親切なオッサンという位置には着けたか。


 南門の馬車溜りに到着後に辺りを見渡すと、専門にやってる連中も居て競争率は高そうだが、馬車がひっきりなしに来るので捌き切れてはいない。順番を待ちくたびれた連中に声を掛ければ、女とオッサンでも仕事をくれるかもしれん。


 麻袋の満載された中型の荷馬車前に、煙管を吹かしている中年の商人がいる。麻袋は重さが恐らく1袋40グルドはありそうで、煙管を吹かす中年には運び切れるもんじゃない。よし、声を掛けてみるか。


「そこの商人の方、儂らに荷降ろしを任してみんかの」


 本来この依頼は、女とオッサンが志願するものじゃないのだ。だから断られても不思議じゃない。


「一アルド以内でやれるんなら銅貨四枚4000ゴルド払っちゃるぞ、出来るか? 出来なきゃ二枚になる、どうだ?」


 一アルドは1時間位だ。

 成る程な早く出来れば割高で払うが、遅けりゃ割安か巧い提案だな。振り返りクシャラルと目を合わせると、ゆっくりと頷いた。よし! やるか。


 まあ実際、作業さえさせて貰えば何とでもなる。俺は、伊達に体を鍛え上げては来ていないのだ。そこいらの野郎よりは、腰の入った動きが出来る自信はある。クシャラルは一袋ずつだが普通の男性並には動けていたし、俺は六袋ずつ総重量で240グルドを運んだので40アル位の時間で全ての作業が終わった。


 この早さに商人はとても驚き、俺に専属でやったら良いとまで言って来たのだ。あとクシャラルは俺の膂力に驚きながらも、申し訳なさそうだ。それを見ていた周りの荷馬車の連中にも荷降ろしを次々と頼まれ、夕方には結構な額を稼ぐことが出来た。


 五台の中型馬車を荷降ろしして割高料金で4000ゴルド、しめて銀貨二枚の儲けで20000ゴルドだ。半分づつで、銀貨一枚をクシャラルに渡す。


「ポムさん、あたしはあんたほど沢山運んじゃいないさ。こんなに受け取れないね」


 返そうとする手を押し留め、手にしっかりと握らせてやる。


「二人でやると決めたんじゃし、半分づつと約束したじゃろ。若いモンが遠慮するもんじゃないぞい」


「でも……今日会ったばかりのポムさんから、ここまでしてもらう訳にはね」


「まあまあ、冒険者になったんじゃろう? 儲けモン位に考えんとやっていけんぞい。お袋さんからそんな助言を受けた事ぐらいあるじゃろうに」


 もう一押しだな。


「そうだけどさ」


 紅唇を尖らせ、俯きながら上目遣いで見てくる。蓮っ葉な態度や言葉使いで誤魔化されていたが、15の娘さんが其処にいた。よしよし順調に懐柔出来てるな。最初から、彼女が周りに舐められない様に気を張っていたのは分かっていたのだ。巧く隙を突けば警戒心を和らげられる事もな。それに随分と働き者なのは、一緒に作業していて分かった。人間性を計るのに、こういった単純な重労働は最適だ。良い娘さんだって事だな。


「それよりも腹が減ったの。飯でも喰いに行くぞい。其処でクシャラルに話したい事もあるしの。それを聞けばクシャラルが拘ってる事が、気にならん様になるかもじゃよ」


 思わせ振りに話をして断りにくい空気を作ると、クシャラルが諦めた様に返事をする。


「分かったよ、でもポムさんの膂力にはビックリしたね。年寄りだと思って舐めていたみたいだね。やるじゃないか」


 まあな。体は年寄り心も年寄りの転生者様だ。


 俺達は手頃な大衆居酒屋っぽい店に入り、奥のテーブルに座る。そしてエール、肉と豆類の煮込み、黒パンを注文した。


 兎に角腹が減っていた俺達は、早速エールで出逢いを乾杯し飲み喰いしていく。腹も脹れ二杯目のエールを半分程飲んだ処で、俺から話を切り出した。


「話とはな、儂とパーティーを組まんか? ちゅう話じゃよ。まあ、こんなオッサンとじゃ躊躇するかも知れんが、力だけには自信があるんじゃよ。やり方次第で、何とか敵さんにも有効じゃろ。後は、お前さんの人柄を一日かけて見させて貰ったが、性根も曲がっとらんと思っちょる。どうじゃろか?」


 彼女の身体能力は荷降ろし時に把握済みだ。大体普通の成人男性並の筋力だが、おそらく身の素速さに関しては並みよりは高いと見ている。母親に訓練されたのか知れんが、かなりの訓練じゃないと女性が男性並の筋力には成れまい。


「う~ん、ポムさんの力は確かに武器だね。でも、そんなに簡単なもんじゃないんだよ闘いってのは。攻撃を確実に当てられるかどうかなのさ。でも1日一緒にいてポムさんの人柄は分かったよ、女の勘だけど騙そうとしてんじゃないのは分かるさ」


 おっ、結構乗り気だな、なにせ紅唇を頻繁に舌で湿らせていたからな。多分だけど緊張してたか。どうやらクシャラルは、緊張すると紅唇を舐める癖がある様だ。


「攻撃が当たらんか……何なら指導して鍛えてくれてもいいんじゃよ。体の丈夫さにも自信はあるしの。ところでクシャラルはお袋さんに指導されたのかの?」


 まあ本当は、逆にこっちがクシャラルの腕前の心配をしてんだがな。


「そうだね、随分前に流行病で亡くなったけどさ。ポムさんの力なら前衛で盾持ちなら何とかなるよ。まあ偉そうに講釈垂れているけどさ。あたしだって村からこの街に来るまでに、毛人を相手にした一回しか実戦経験はないしね」


 人間相手の実戦は、まだみたいだな。


「お袋さんに関しての事を尋ねて済まんかったの。なら仲間になるのは構わんが、戦闘で使えそうならちゅう条件で決まりにして良いと?」


「気にしないでいいよ、亡くなってから随分経ったしね。そうだね心情的には仲間になっても良いけど、流石に闘えないとねぇ……」


 ま、当たり前の事だな。


「上等じゃよそれで、信用してくれるだけで充分じゃ」


 今はな。


「なら、明日の朝にちょっと模擬戦闘してみるかい? それで判断させて貰うよ。光る物があれば仲間にって、こっちから頼むさ」


「取り敢えず、暫定的には決まりじゃな」


 そして武器や防具を持ってない俺の為にクシャラルに付き添ってもらい、武器や防具の店で安物だが身繕って貰った。


 買ったのは、棒状の先に楕円形が付いた金属製のメイスが銀貨二枚と、鉄の縁付きの木製丸盾銀貨二枚なんかだ。


 普通は硬い皮鎧なんかも揃えそうなモンだが、何枚も皮を重ね加工して作るから高額商品なのだ。鎧下を着れば少しはサイズを誤魔化せるが、硬い為に本人しか使えないオーダーメイドだ。ポム設定じゃ買えると怪しまれるし、元々いらないしな。


 其処でその日はお開きにして、彼女を素泊まり一泊銅貨一枚1000ゴルドの宿へと送っていった。一応鍵付き個室の宿だし安全上の問題はないだろう。


 俺は別に宿を取ったからと言って、また外套を纏って炎と水の景観亭に戻った。そして部屋で変装を解き、この世界の一般の風呂である蒸し風呂で、しっかりと汚れを落とした。


 そして部屋で脳マップを起動して踊りを踊り、双子達にメッセージを送る。


 〔今日領都ボイドに到着した。あと仲間候補に出逢ったな。単なる勘だが彼女は大丈夫だと思う。あと闇試合に出る予定だ。シグマ〕


 〔了解。予定通りそちらに向かうよ。闇試合でシグマ君が暴れるんだ。なら相手には可哀想な事になるね。再会と新しい出逢いが楽しみだよ。コンビ〕


 その後は高級ゼリムベッドで眠る。明けて翌朝、朝の六つ鐘が精霊教会から聴こえ目を覚ました。六つ鐘は朝6時位だ。着替えて変装し集合場所へと向かうと、既にクシャラルは訓練を始めていた。


 短剣での二刀流が彼女の流儀の様だ。おそらく彼女の母親から習った独自の物だろう。この世の中にはまだ剣術流派の概念が薄く、精々あっても貴族の家伝位しかないのだろう。


 暫くクシャラルの動きを眺めて思った事だが、残念な事に彼女の短剣での突きは速いが早くない、上手いが巧くないのだ。


 どういう事かというと、突き自体は速いが次への動きをあまり想定していないから、早く次へと繋がらない。つまり流れが無く単発なのだ。手数が売りの短剣二刀流なのに勿体ない。


 上手いというのも綺麗なフォームだが、素直すぎて騙せないし読みやすく意外性もないので巧くはないのだ。大抵反復練習ばかりだとこうなる。


 俺の戦闘時での動きのイメージだが、点から線へ、線から円へ、円から球へ、球を回転させて、周回させ、螺旋へと至る物だと思っている。


 そのイメージの中での話だが、彼女は線から円へまだ至っていないのだろう。

クシャラルの鍛練の区切りが良い処で、声を掛けた。


「お早うさん、よく眠れたかの」


「お陰さんでね、爽快さ。体をほぐしたら始めようかね、昨日の作業で筋肉痛になっちゃいないかい?」


「年を取るとのう、二日遅れて筋肉痛が起きるんじゃよ」


 軽く体をほぐしながら答える。今はまだ、実力を誤魔化さないといけない。オッサンの設定だから、下手に動くと不味いのだ。


「昨日買った装備で掛かって来な。見てやるさ」


 蒼い瞳が爛々として此方を睨む。随分と気合を込めている様だ。彼女なりに頑張っているのだな感心感心。俺もそれに応える様に返事をする。


「応!」


 誤魔化すにしても、気合い負けはしてやれん。




 結局わざとだがボロ負けした。彼女の実力については基本的な動きや身体的にも出来上がっているし、これから応用力を付ければ充分だな。


 彼女も俺の体力やタフさに感心していた。盾持ちとして鍛えれば、という条件付きで仮の仲間宣言をしてくれた。この評価を得るのには、随分神経を使って動いたのだ。俺の本来の実力を出して仕舞うと、オッサンの設定が崩壊してしまい怪しまれるからだ。徐々にクシャラルとの縁が、深まっていっている。順調だな。







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