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第十一話 旅路

 二人とちょっと熱い別れを交わして半年経った。毎晩の定時連絡によると、双子は南部の玄関口と呼ばれる大都市エルヘイブンに向かったらしい。しかも途中の手付かず遺跡に寄り、まんまとお宝をゲットしたそうだ。


 あと色々な事柄や冒険者の常識など、有益な情報も集まり順調の様である。しかし信用出来る人材はなかなか見つからず難航し、半年位でやっと男女のカップルと仲間になったそうだ。


 女性で冒険者になる者は少ない。どうしても男性と比べると体力が劣るし、本能的に危険度の高い冒険者業を避けるからだ。


 周りの冒険者達も命懸けの仕事柄、カップルを避けてチームを組まなかったそうだ。当然カップルは、冒険者稼業で孤立して困っていたらしい。そこで声を掛けてみたそうだ。俺にも許可を求めて来たが、双子が信用出来る相手なら構わないと言っておいた。


 しかし、カップル達の実力は余り良くないらしい。半年位訓練しつつ、近場で小毛人狩りをして地力の底上げをすると言っていた。最初の予定とは違うが、事前に打ち合わせた想定内ではある。慌てる事も無いし、安全第一なのは結構な事だ。






 今日は朝から村が騒がしい。行商人のハグナムさんが、荷馬車一杯の品物と共に村を訪れたからだ。いつもは他の行商人が来るが、珠に顔見せがてら行商に来てくれるハグナムさんには感謝だな。村人達が粗方買い物を済ませた後で、ハグナムさんに話し掛けた。


「ハグナムさん、こんにちはいつも有難う御座います。助かりますよ」


「よう! シグ坊じゃないか水臭い事言うな。フォクス達の顔を見るついでだよ。そんな事より前に頼まれた奴が出来たぞ。ほれ」


 黒髭の禿げ頭が、ニコニコしながら品物を差し出す。禿げ頭が日光を反射して眩しい。


「有難う御座います。幾ら位しましたか? ちょっと特殊な注文でしたし、高くなったのではと心配で」


「まあ、40万ゴルドか。他ならぬシグ坊だしな負けとくさ。俺の飲み仲間の鍛冶屋に作らせたから安く済んだしな」


「宜しいんですか? そんな値段では儲けも出ないのでは?」


「いいさ、冒険者になんだろ、ここで値切る位じゃなきゃやってけねえぞ」


「そこまで言って頂けるなら甘えますね。では銀貨40枚です」


「毎度あり、でも随分と丈夫な具足を頼んだ物だな。手足の防具にしかならねぇぞ」


 そう今回俺が注文したのは、肘まである黒革手袋に鉄のプレートを張り付けた手甲の防具と、膝から爪先までを黒革で覆って鉄のプレート張り付けた足甲の防具だ。


 重量はそこそこあるが重厚な造りの為、剣など易々と弾き守ってくれそうだ。見た目も重視した、俺の戦闘方針に合わせた特注防具だ。内部の手足が触れる部分には、ゼリム樹脂を流し込んでから手足を入れて固まらせた物を事前に渡している。その為フィット感を完璧に近い状態に出来た。


 ちなみに貨幣単位はゴルドだ。石貨百円位、銅貨千円位、銀貨1万円位、金貨百万位。あくまで感覚的に、それ位だと云う事だが。


「その手足から先が、俺の戦闘には大事なんですよ。冒険者というのは見栄や箔が必要ですし、特注の防具を揃えられる環境の出だと相手に想像させられます」


 適当だが、あながち間違っていないだろう。


「それもそうか、そういや男を売る商売だとか嘯く奴も居たな。難儀な商売だな。危険度の高い行商人やってた俺が言う事じゃないが。本当にいいのかシグ坊。冒険者なんかじゃなくても、お前程の出来の奴なら他に幾らでも成功する道筋はあるぞ」


「まあ、色々考えて出した結論ですしね。思う所もあるでしょうが見ていて下さい。驚かせて見せますよ」


 ちょいと口元を歪めて笑ってみせる。


「なんか策があんのか? 俺も乗れそうなら1枚噛みたいな」


 禿げ親父が、商人の顔に変わり瞳の色が濃くなる。


「そうですね、追々ハグナムさんの出番もありますよ。期待してて下さい」


 南部下部の獲得した物は、ハグナムさん経由で捌くのが一番だしな。


「待ってるぜ、シグ坊」


 何処まで本気か分からんが、俺みたいな若僧を随分と買ってくれてるな。まあ見てろ。凄い宝を見付けて驚かせてやんよ。


 その夜はフォクスの家で皆が飲み食いし、満足した夜だった。





 更に半年後、いつもの空き地で俺は最後の訓練を終える。先日遂に、前世からの王さんの課題もクリア出来た。やはり赤ん坊から始められたのが大きいだろう。本来随分と年数が掛かる筈の技術だが、驚く程短縮できた。これで心置きなく出発できる。


 今の季節は春。年齢15、身長は170メル、体重80グルド、金髪は肩迄伸びて後ろで結んでいる。顔は野性的な濃いイケメンで碧眼が涼しげだ。身体作りの木こりや訓練で筋肉も発達し、力を込めると腕に血管が浮き上がり逞しい。ちなみに1グルドは1キロ位だ。


 この半年で双子達は、エルヘイブン近辺の手付かず遺跡を二つ巡り順調に儲けているそうだ。あとサークレットを一つだが見つけ、被ってみたがダメだったらしい。早く俺に被って貰って新しいプログラムを使いたいそうだ。あと俺が持っているプログラムを双子に転写したからなのか、双子から新人カップルへの脳プログラム送信は出来なかった。と言うか、何故か俺以外の人間は受身でしかプログラムに関われない様だ。彼らは受動的に貰ったプログラムや魂力は使えるが、自分達から発信や発動などの能動的な行動は出来ない様なのだ。これの原因は自前で魂力を発生出来ないからではないかと、俺は思っている。



 その夜は出発を明日に控えた俺に、家族が壮行会をしてくれた。そして明朝には村の出入口に、家族が見送りに来てくれている。


「シグマ、今更ガタガタ言わねぇよ。生きて帰って来いよ、そんだけだ」


 ジュゲム、いや父さん有難う御座います。


「ま、貴方なら何とかすると信じてますよ。シグマ息災で」


 叔父さん有難う御座います。


「帰ってきてね~絶対だよ~シグマ」


 母さん有難う御座います。


「お別れねシグマ、寂しくなるわ。この子の成長も見て欲しかったけどね」


 叔母さん有難う御座います。


「ちぐみゃー」


 レクス、でっかく育てよ。


「行ってきます! 皆元気で!」


「行ってこいシグマ!」

「「行ってらっしゃいシグマ」」

「行ってらっしゃい~シグマ」

「?」


 俺は歩きながら何度か振り返り、皆に手を振る。暫くして遂に見えなくなった。そして家族と別れた寂しい気持ちと、これからの冒険への期待で胸が一杯になる。よし! いよいよ出発だ! 当選した宝くじを換金に行くぞ!








 さて、トコトコ歩き村を出て2日経った。そろそろ盗賊に襲われてる第2王女か、奴隷商人に拉致されたケモミミ娘に出会う筈だ。でもこの世にケモミミなんていねぇし、王女が南部の田舎なんて来ないだろう。無理か。


 俺の荷物は倉庫箱を加工してリュックサックにした物に、着替えやら何やら雑貨も全てを積み込んでいる。装備品は、ボロ布を巻いて擬装した炎剣を腰に差し、特注品の手甲と足甲、それに背には短弓。服装は温暖な南部に合った薄手のシャツに、革のチョッキ、革ズボン。典型的な旅人スタイルだな。今進んでいるのは平原で、360度見回しても地平線しか見当たらない。


 更に暫く進むと遠くで街道が十字路になっていて、誰かが休んで居る様だ。チッ、冒険者だな五人か。面倒だが迂回して避けようと40メルド手前で右に曲がり、膝位の高さの草を掻き分け歩きだす。


「お~い、警戒しないでくれ、怪しい者じゃない」


 ニコニコしながら、冒険者達が歩いて来る。怪しい者じゃ無いとか、自分で言う奴が一番怪しい。


 炎剣を抜き地面に差すと、弓を構えて下ろしたリュックから矢筒を出す。


「止まれ近付くな! 一歩でも動くと射る!」


「大丈夫だよ、心配し」


 止まれと言ってるのに歩く馬鹿に矢を放ち、腹のド真ん中に命中させた。


 馬鹿は茫然と腹に刺さった矢を眺め。


「ぎゃあ!」


 と叫んで膝から崩れ落ちる。


「野郎っ! やってくれたな!」


 残りの四人が走って来る。


 他の三人は、俺の続けて放った速矢で牽制をする。すると、狙い通り一人だけ突撃してきた。


 頃合いを見て弓を捨て、炎剣を構えた。腰を落とし下段で切っ先は右後ろに。


 突撃の勢いを込めて、俺に叩き下ろされる相手の剣。殺る気満々だな。


「死ね!」


 俺は左足を軸に時計回りに移動して剣を躱した。


 躱しながら剣の柄を捻り、炎剣を発動させた。そして相手の振り下ろし後の、隙だらけの身体に斬り付ける。


 相手は上下に腕ごと両断されて物言わぬ屍と化した。傷口が炭化して血が出ないのは助かる。遺物である炎剣には、ウルドライト鉱石とか云う鉱石が使われている。ウルドライト鉱石は魂力と相性が良く、更には硬度も靭性も高い。だからかなり頑丈な剣で、手荒に扱っても大丈夫なのだ。基本的に強引に振り回すしか出来ない俺には助かる。俺は炎剣を鞘に納めた。今回は慣らしも兼ねて、手甲と足甲を使った格闘戦闘で奴等の相手をしてやる積もりだ。


 残る三人は一斉に掛かって来る様で、俺を中心に円で囲んでジワジワ寄ってくる。


「何で俺らが、お前を襲うつもりなのが分かった?」


 正面の奴が訊いて来た。


「俺は弓を構えてた。弓の有利な点は距離だ。お前らはニコニコしながら、俺の有利な点を削った。そんだけだ」


 前世の外国じゃ、懷に手を入れただけで銃を出す動作だと思われて、撃たれる事もあるそうだ。あと拳銃から発砲された際の破裂音がしたら、外国人達は素早く伏せるが、前世の祖国の人間だけは危機感も無く立ってるそうだ。それに比べりゃ、これぐらいの警戒心は当然なきゃ駄目だろう。


「大抵お前みたいな田舎者の若造は引っ掛かってくれるのに、随分と用心深いな。それと凄ぇ剣を持ってんなお前。何で遺物なんぞ持ってる? でも剣を鞘にに戻したって事は降参か?」


 嫌な笑いを浮かべながら、問い掛けて来た。


「降参なんてする訳がないだろ」


 おそらく正面の一人に構ってる内に他の二人が一斉にって処か。手際が慣れてるし何人も殺して来たんだろう。


 俺は正面の奴に近付きながら後ろを盗み見る。二人とも腰だめに剣を構えて、横薙ぎで来る様だ。


 正面の奴の間合いに入る寸前で、俺は右足を踏み出して滑らせる。足を縦に完全に開脚して股が地面に全て接した。そして上半身を伏せて右足抱く様にする。


 伏せたと同時に右腕を伸ばして、正面の奴の脛を剣で深く突いた。


「があ! 痛てぇ」


 彼らの常識じゃ、人間の身体ってのはこんなに柔軟には動かない。筋を柔軟にする考えが浮かばないのだ。だから簡単に嵌まってくれる。 


 と同時に後ろの二人が横に薙いだ剣が、俺の上半身のあった所を通過する。


 これで正面の一人が、移動出来ない案山子に変わった訳だ。俺は地面にベッタリと伏せた両足を閉じて、立ち上がって走り出した。


 足の怪我で動けなくなっている奴から離れて、20メルド程を移動をする。これで晴れて二対一の闘いに集中出来る。


 2人は怪我した案山子に待機する様に言うと、こちらに歩いて来る。


「お前のさっきの変な動きは何なんだ。足が全部地面に付いてなかったか?」


 歩きながら問い掛けて来た。


「一々お前達に説明してやらんよ。それよりも五人も居たのに、もう二人しか居ない事を心配してろ」


「ぬかせ! 餓鬼が!」


 2人は俺の5メルド位手前で左右に別れ、にじり寄って来る。


 そして奴等の間合いに俺が入った瞬間、2人が左右から上段で叩き降ろす様に剣を振るう。


「「死ね!」」


 左右から俺の脳天目掛けて唸る剣、それに両腕を挙げて手甲部分で防ぐ。


 金属同士が甲高い音を発する。俺の上段受けで剣を止められた二人は、素早く剣を引いた。


 右側の奴が下から掬う様な剣撃で俺の腰を狙い、左側の奴が胴体を狙った突きを放つ。


 俺は、右側から腰を刈る様に迫る剣撃に合わせて足を挙げて足甲の脛部分で受けた。と同時に、左側からも迫る突きも手甲で防ぐ。


 流石に二度も同時攻撃を防がれて、2人は顔を強張らせながら剣を引こうとした。


 俺は右足をそのまま跳ね上げ右側の奴の頭を蹴り飛ばした。


 右側の奴は、足甲で頭を張り飛ばされて地面へと倒れて痙攣を始める。


「な?! 足があんなに高く上がった? 糞!」


 左側の奴は剣を引いて構え直し、肩に担ぐ様にしている。


 俺は右拳を腰に添えて左手を前に翳して構えると、一気に最後の奴の間合いに飛び込んだ。


 俺が飛び込んだ瞬間、奴の斬撃が上から振ってくる。


 左腕を上段受けに構えて手甲部分で剣撃防ぐと同時に、右拳で正拳突きを放つ。


 唸りを挙げて正拳が奴の腹に突き刺さり、奴の身体が九の字に折れ曲がる。


 俺は両手の指を組み腕で輪を作ると、その中に奴の頭を引っ掛けて固定し、膝を突き上げて奴の顔面に叩き込んでやった。膝を五発入れてやると、崩れ落ちた。


 奴を確認すると、既に奴は意識を飛ばして白目を剥いていた。


 順番に止めを差して回る。最後は足に怪我をして動けない奴だ。青ざめた顔で、近寄る俺を凝視して命乞いしてきた。


「なあっ助けてくれ! 頼むよ家族が居るんだ!」


 俺だって居るよ。


「お前らが殺した連中にも沢山の家族が居たんだろうに、気にもしなかったんだろうな。虫の良い事言いやがって」


 足の怪我で動けない奴なんて、チクチク削れば安全に殺れる。だが楽にしてやるか。


 上段から炎剣を振り降ろすと防ごうと掲げた相手の剣ごと頭を叩き切って、唐竹割りにされた骸を作り上げた。さて、奴らの金目の物を頂くか。




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