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第十話 別離

 いつもの空き地の奥の方、誰か来たら直ぐに分かる場所で双子と訓練だ。


「はっ!」


 コンビの槍が、空気の層を貫いてファミレスを襲う。ファミレスは堅実に盾で槍を反らしながら、片手剣で空気を切り裂く様な斬撃を放った。


 ファミレスの狙いは、コンビの槍を掴む左手だ。コンビが槍から左手を離すと、ファミレスの斬撃が空を斬った。コンビは残った右腕と右脇で槍を挟み、ファミレスを薙ぎ倒そうと槍を振る。だがファミレスは既に後退して、安全圏に退避していた。二人は瞬間の攻防で、これだけ動ける様に成ったのだ。


 二人共脳プロのお陰で、木剣や木槍などを使い本気で当てれる。当たっても掠り傷しか付かないし、一晩位で完治する。


 例えば打撲傷が治るのに普通で10日位掛かるとして、彼らは10倍の回復力で一日しか掛からない。身体防御の見えないオーラが致命傷すら軽傷に和らげる。充分な恩恵だ。


「よし! 休憩! 次は俺対お前ら二人だ」


 俺達は木陰で休みながら相談をする。勿論、冒険者になってからの事だ。


 脳内地図上の何の目印もない場所に、マーキングが出来る事が分かった。何かに使えないかを皆で検討中だ。


 それと倉庫箱の容量だが俺の魂力量が許す限りは、ほぼ無制限に収納が可能だ。これで手に入った宝を、安全に貯めておける。


 それに馬車を購入予定でもある。馬の世話で手間は掛かるが、移動手段は必要だ。彼方此方の遺跡へ移動する予定だからだ。街道を旅して村や町を経由する。そして目的の遺跡へ近付くのだ。


 シャイアント達と行った遺跡は、四つしかない特別区だった。他の遺跡の事は俺達にはまだ分からないのだ。だから新たな遺跡がどんな物だったとしても、変える必要のない基本的な事柄を練っている。他にも色々と遺跡の種類に左右されない事柄を皆で相談していた。


「まだ他の冒険者達に荒らされていない遺跡を、俺達だけで調べていいか?」


 ファミレスが俺に確認をしてきた。危険だから止められるとでも思ったかな。


「ああ、勿論だ。慎重に行動してくれないと困るがな。でも俺が行かないと隠された部屋が見付けられないから、合流してから二度手間になるぞ」


「だよな。面倒だ」


「その辺も定時連絡で、その都度詰めようよ。」


 毎晩ダンスを踊り、定時連絡をする事にしたのだ。あと馬車を買う資金は俺のポケットマネーから出る。シャイアント達との遺跡での儲けだ。


「よし! 掛かって来い!」


 休憩が終わり訓練再開だ。俺は左掌を正面に構え、右掌を正面に向けて胸元に構える。身体防御は切らせている。真剣勝負で緊張感を持たせる為だ。


 ファミレスが前衛でコンビが後衛だ。んっ? コンビが後ろに下がり過ぎている。何かを狙ってるみたいだ。


「おらっ」


 何故かいつもより雑なファミレスの斬撃を、左から右へ受け流しながら掌底を相手の胸に叩き込もうとした。するとコンビが槍を構えて、上から降ってくる。


「貰ったよ!」


 推測だが、コンビが槍を棒高跳びの棒の様にしてファミレスの後ろから跳んだ様だ。と、同時にファミレスの盾撃。


 こりゃ厳しいな。俺は僅かに上体を反り槍の穂先を躱した。躱す動きを利用して盾のど真ん中に蹴りを放ってファミレスを後退させる。


「「あっ」」


 正面と上からの同時攻撃は大したもんだ。俺だから躱す事が出来た。普通なら当たるな。


 これで、奴らの前後が入れ替わった事になる。コンビが前衛、ファミレスが後衛だ。


 何かの打撃音がして、コンビの穂先が予備動作無しで俺の胸元に伸びる。また推測だが、ファミレスがコンビの背後から槍の石突きを叩いたのかも知れん。コンビの手元から槍を滑らす様にしたのだろう。怖い事を考えて来る。


 槍を右半身に成って避けて、右掌をコンビのアゴに当てて捻る。この時横軸の力をアゴに加えて、途中から縦軸に切り替える。


 何故なら脳を揺れから守る首筋は、一方向からなら強いが二方向だと対処し難いのだ。脳が揺れてコンビが失神した。


 ステップを踏んでファミレスの周りを足を組み換えながら回り、ジャブ(刻み突き)を放ち距離感を掴む。


 攻撃の回転数と速度は俺の方が上だが、威力とリーチはファミレスのが上だ。その為一進一退で膠着する。ちょっと誘うか。


 上半身を振りながら相手に突っ込む素振りで誘い込むと、ファミレスの剣が俺の上半身のあった空間を通過してファミレスの身体が僅かに泳ぐ。


 すかさず左手でファミレスの盾を押し下げ、右ストレートをファミレスの鼻っ柱に叩き付ける。


 鼻白むファミレスの懐に潜り込み、地を這う様な角度で左拳を腹に入れるとファミレスも失神した。


「畜生! また負けた!」


 ファミレスが悔しがって地団太を踏んだ。


「う~ん、流石に最初の連携攻撃なら勝ったと思ったよ」


 珍しくコンビも愚痴った。余程に最初の連携攻撃に自信があった様だ。


「あ~あ、シグマに一撃位は入れたかったな」


「仕方ないよ、二人掛かりで負けたんだから、言い訳の仕様がないよ」


「いや、最初の連携攻撃は本当に凄かったぞ。だから褒めてやる」


 俺対二人の時に、一太刀でも俺の身体に入れる事が出来れば褒めてやる事にしている。今回は特別賞だ。俺の強さは、二人とは随分と隔絶しているのだ。その為に二人は俺に認めて貰いたがっている。


「やった!」


 ファミレスは両手を上げて素直に喜んでいる。


「えっ、シグマ君に褒められた。じゃあそんなにあの作戦は有効性があったの?」


 コンビは考えた作戦が認めて貰えて嬉しい様だ。


 また休憩時間だ。冒険者に成ってからの相談の続きをする。


「もっと仲間を増やさないとな、三人じゃ手が回らない事もある。合流前にお前達も誰か誘ってくれ。俺も誘うつもりだ」


 二人が選んだ奴なら、多分大丈夫だろう。


「俺の観察力なら、完璧な仲間を見つけて見せる!」


 観察力? ファミレスにそんなのあったか?


「誰でもいいって訳じゃないよね? 金目当てだとかは駄目だし、秘密をちゃんと守れるかとか……ちゃんと選べるかな」


 流石にコンビはしっかり考えてるな。好印象だ。


「ファミレス、お前の観察力とやらは期待してねぇよ。むしろ動物的な勘の方が信用できる。コンビ、お前の考え方で大体合ってる。

 だからファミレスの勘とコンビの判断で選べばいいさ。狙い目は俺達みたいな村から出たばっかの田舎者で、二人組位の若いのだぞ」


「俺の判断は? 駄目なのかよ」


 うん、駄目だよ。


「ファミレス、お前の勘が囁くのなら信用度は高い。けどな、判断力ってのは観察力とかも関係がある。その辺はコンビに任せとけ」


「おっ格好いいなそれ、勘が囁くか……」


 まあ納得してくれるのならいいか。


「そういや、フクレ草の濃縮液が出来たぞ」


 毒草の一種のフクレ草に触れると、皮膚が水分を吸収し膨れる。只それだけの何処にでもある実質無害に近い毒草だ。しかし俺はこれを変装に使おうと思う。


 物語などで目立ちたく無いと言ってギルドに竜の頭部を出す様な、前世の芸人さんで云う処の熱湯の前で押すなとか言う感じの事はする積もりは無いのだ。いや、目立っても構わんが俺達が遺跡を発見する事により儲かってる事を、誤魔化すための変装だ。


「上手く使って、僕らの活動を悟らせない様にしないとね」


 思案する様に口を結ぶコンビ。


「なんかコソコソして嫌だな、でも仕方ねぇか」


 ファミレスは、珍しく素直に納得しつつ腕を頭の後ろで組んだ。


「作り方は分かってるな? 面倒事を減らす為だし、我慢だぞ」


「仲間が出来たら、その人達にもお願いしないとね」


「あとヤバイ事態になったら金や宝なんか全部くれてやれ、それと遺跡の偽物地図も用意して、もしもの時は小出しの取引材料にして時間を稼いで生き延びるんだ。生きてさえいれば挽回なんか何度だって出来るし、俺だって間に合うかもしれないからな」


 縛られても送れる、救難信号も考えないとな。床ゴロゴロするとか。二人は流石にそこまでの窮地を想像していなかったのか、顔を強張らせる。しかし、既に冒険者としての覚悟は出来ていたのだろう。その覚悟を宿らせて二人供に頷いた。


「流石シグマ君だよ。そこまで酷い状況は想定してなかったよ。ヤッパリ一緒に出発したかったよ」


「そうだな! シグマも来ちゃえよ!」


「いや、父さん達との兼ね合いもあるし、出来るのは数ヵ星だけ早く出発する位だ。お前らが数ヵ星遅くすれば一年半位で再会出来るぞ」


 この世界には月が無い為に、数ヶ月ではなく数ヶ星なのだ。


「そうするしかないかな、たくさん稼いで驚かせて見せるよ」


「だな!シグマは村で俺らの冒険を指咥えて見てろ!俺達だけでも大丈夫って所もな」


 フラグ立つからやめろ。


「その意気だ二人共、期待してるぞ」


 こうして着々と準備は整って来ている。不安も在るが、それ以上に期待で胸が一杯だな。盗掘屋になって、まだ見ぬ宝に出逢うのが楽しみだ。





 あれから時を経て、遂に双子が出発する朝になった。成人してから数ヵ星遅れの出発だが、俺と出来るだけ一緒に居たいが為の行動を嬉しく思う。


 まあ俺も出発を早めて一年半ちょっと後での合流だし、最初の半年は動かず情報収集に勤めて信用出来る仲間を作る様に言ってある。その為の充分な資金も渡してあり、場合によっては誘った新入りにわざと金や偽地図をチラつかせて試す事も視野に入れている。


 双子の家族一同にも加護を施し、ただの光点だが何時でも自分達の家族を地図で確認出来る事を二人共喜んでいた。


 二人の家族が勢揃いして見送りに来ている。家族に別れを告げ、最後に俺の所へ二人が来る。


「行って来るよシグマ君、期待して待っててよ。有益な情報や宝の発見報告をね」


 黄色の髪を短く刈って精悍に見える様になったコンビが、自信を覗かせる発言をしてくれた。


「俺が居るんだから心配いらねぇぜ。色々自慢してやっからな」


 天然パーマのせいでソバージュみたいな髪型の赤毛が、威勢の良い事をほざく。お前が一番心配だぞ。


「一番大事なのは命だ。くれぐれも慎重にな。あと何時でも頼ってくれ、俺達は仲間なんだから」


 俺は二人をじっと見詰めた。


「お前らならやって行ける。たとえ負けても挫けるな。意地汚くても生き延びろ!」


 ちょっと吼えちった。


「勿論、負けるつもりはないよ。絶対に生き延びるよ!」


 コンビの緑眼が輝いている。うん、いい顔してやがる。


「負けて堪るか、シグマを驚かせてやるぜ」


 赤毛を揺らめかせファミレスの碧眼も輝く。おう、驚かせてみろ。


「二人共、こっからだ。こっから始まるんだ。だろ?」


「「うんっ」」


 二人の肩を叩いて発破を掛けた。


「行ってくるよ!」


「行ってくる!」


「ああ、行ってこい!」


 俺は、双子の姿が見えなくなるまで手を振っていた。初めて精霊様とやらに祈る。俺の弟分達に幸あれと。二人の目出度い門出ではあるが、随分と寂しい気持ちになった。




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