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9、竜騎士の個人教育(3)

町のすぐ近くまで戻ってきたシューゴ達は異変に気がついた。町民達がぞろぞろと門からでていき、隣町へと向かう街道を歩いている。セドナは人口の多い町なため、でていく人数は千やそこらではない。



『この人達、もう日暮れ時なのにどこに行こうというの・・・?』



リアが首を傾げたとき、町の方から走ってきているミズにゃんが見えた。彼女の脚力は大したもので、シューゴの居た世界で「稲妻」に例えられた陸上選手のトップスピードよりもずっと速く、瞬く間にシューゴのそばまで来ていた。



『ミズにゃん、町で何かあったのか?この人達は何で町を出るんだ?』


『それが・・・どうやらこの町は戦場になる可能性が高いらしいから町民に避難勧告がでたのにゃん』


『戦場?!まさかゴブリン共が攻めてくるっていうの?』



ミズにゃんの報告を聞き、リアは声を荒げた。リアはゴブリンが嫌いなのだ。理由は数が多いくせに手応えがないから闘った気がしないのに無駄に疲労が溜まるかららしい。

リアは、ちっ、と舌打ちした。



『そう。駐在兵がゴブリンの偵察に行ったらもうすぐ行動を起こすかもしれないらしいにゃん。それでここは砦を兼ねた討伐軍本部にするって告知があったにゃん。本部は正規軍の将校が仕切るらしいけどすぐにこれる人数が少ないらしくて、冒険家を傭兵として大量に雇うみたいにゃん』



ラマが言っていた戦争が今始まろうとしているのだ。おそらくゴブリンは一国に値する数で攻めてくるだろう。国同士の戦争でないが故、軍から兵を大量に送るのは国としても憚れるのだろう。だから冒険家という有力で安い傭兵を現地調達するのが良いと判断したようだ。聞こえこそ悪いが、仕事の効率が悪い冒険家にとってはいい飯の種なのだから断る理由もない。



『あちらの勢力増強は調査よりもずっと進行が早かったようですね・・・。納得しました。ではこの町の店などはどうなるのですか?』


『戦いが終わるまでは国の直轄施設になるから宿や食糧は提供されるにゃん。マスター達も参加するのかにゃ?』


『もちろん、町の危機なんだから放っておけないだろ』


『あたしがゴブリンを滅ぼしてやるわ!』


『ええ、やりましょう』



4人は休息をとるのも兼ね、出遅れないように準備をするため用意された宿へと入っていった。


―――――――――――――――


戦争の告知がされてから3日が経った朝。始まりは突然だった。



カランカランカランカラン!!



――『敵が来たぞーーっ!』


『おいでなすったわね。やっと暴れられる』


『そのようですね、じっくり待っていた甲斐がありました』



警鐘が鳴り響き、ゴブリンの来襲を告げる。見れば、遠くに大量の影がある。その数はおよそ十万といったところだろう。それに対しこちらの勢力は四千の傭兵部隊だ。この寄せ集め部隊ではひたすら武器を振るい敵の数を減らしていく、とても戦法とは呼べない戦い方しかできないが、相手は非力なゴブリンだからおそらくは大丈夫だろう。



接触まで後30秒。シューゴ達は円陣を組んだ。



『いい?いくらゴブリンでも油断しないこと。敵の数に気をつけて。後退命令が出たら無理せずここに戻ってくるのよ』


『よし、わかった!』


『おっけーにゃん!』


『了解いたしました』


『じゃあ、またここで落ち合いましょ。死ぬんじゃないわよ!じゃあ、散!!』



リアの掛け声と同時に4人はそれぞれ違う方向に向かって走り出した。周りの傭兵達も戦いの空気を感じ取り、一斉に敵へと突撃していく。

商業盛んな活気溢れる町が、今や金属音を打ち鳴らす地獄の戦場へと姿を変えた。



先陣をきった強者が一気にゴブリン兵の壁を切り崩していき、陣形が崩れた敵は混乱している。ファーストアタックは成功だった。


―――――――――――――――


『さて、どのようにいたしましょう?』



突撃した傭兵たちの少し後ろでこぼれてきた敵を逃すことなく倒していたラマの周りを、数十のゴブリンが取り囲んで閉じ込めている。どうやら向こうにとっての危険人物としてマークされたようだ。それぞれの手にした武器の矛先は彼女に向いており、いつでも攻撃を仕掛けることができる。



取り囲むゴブリンの壁の後ろには、他より派手目な装備を身につけた一回り大きなゴブリンが指示を出している。ラマは次々と突撃してくる敵兵を一匹ずつ着実に長槍で突き伏せていく。



『やはり敵には兵を統率する指導者がいるようですね。この調子だといくつも大きな隊があるでしょう』



いくら貧弱なゴブリンと言えど、数の多さは侮れない。それに簡単な戦法が加わってしまうだけで圧倒されてしまう可能性が高い。

だが、ラマは半端な数や戦法程度で倒されるほどやわではなかった。



リーダーの指示で十数ものゴブリンが全方位から一斉にラマを襲う!

だが飛びついた時にはもうそこに彼女の姿はなく、ゴブリンたちのはるか上空へと垂直に跳び上がっていた。

空中で逆立ちした体勢で一瞬静止した直後、槍を真下に向けたラマは真っ直ぐに目標へと向かい落下、その速度は急速に増していく。



『大地の制裁を受けよ!!』



ドゴゴゴゴゴッッ!!!



高速のまま着地し、槍が突き刺さった地面は凄まじい地鳴りと共に砕かれた。

地割れを起こした地面からは壮大な土煙が舞い上がり、それが風で流された時には唯一人、ラマが優雅に立っているだけで他は跡形もなく消えて何もなくなっていた。



『こほん。少しやり過ぎましたか?』



手にした槍の矛先は土属性を表す白いオーラを纏っていた。

今の攻撃で、対象であるゴブリンが一瞬にしてすべて砂塵と化したのだ。



『これが龍騎士の力です、あまり見くびると痛い目に遭いますよ。さぁ次々きなさい、どれだけいても同じことです』



そう言うと槍を上段に構え、次々と襲いくる敵に対応していく。


―――――――――――――――


『てやぁ!はぁっ!いゃぁあああ!!』



最前線にて、紅い眼のリアが猛威を振るいひたすら敵を蹴散らす作業をしていた。その勢いは嵐のようで、遠くからでも絶え間なくゴブリンが吹っ飛んでいく様子が見ることが出来た。



リアは召喚した鎖鎌を手にして、その刃で切り付けるだけでなくそれと同時に他の敵に絡ませた鎖を器用に操って振り回したり、近づく敵をまるで意識していないかのように肘鉄を食らわせるなりハイキックで蹴り飛ばすなりしていて、その全てが一連の動作のように見えた。しかも彼女は一歩も動くことなく、自分の周りに倒したゴブリンの山を作っているのだ。



『まったくもぉ〜!これじゃキリがないじゃない!ちょっと疲れるけどアレ使っちゃえ!!』



リアは一旦攻撃の手を止め、鎖鎌で地面に直径10mほどの円を描いた。彼女はその中央で片膝をつき、準備に入る。



『――燃え盛る焔よ、汝に捧げるは我が魔力の火種と業火に焼かれる悪しき思念なり――』



詠唱に伴って地面の円は光輝き、リアを中心として内側に魔法陣が描かれていく。だがゴブリン達は動きが止まった今をチャンスとし、一斉に彼女に襲い掛かる!

だがその時には既に魔法陣は完成されていた。



『いでよ、焔の精霊イフリート!!』



そう叫ぶと、リアの背後には人より一回り大きな筋骨隆々でワイルドなスタイルの男が現れた。その体は半透明だったが、醸し出す威圧感はリアと同じかそれ以上だった。



――詠唱確認!燃やし尽くすぜえぇぇっ!!――



男が腕を振るうだけで周りには炎が発生し、火柱が上がった。その炎はリアを取り巻く大きな竜巻のように変形し、魔法陣の範囲を焼き尽くす。もちろん襲いくるゴブリンなどは一たまりもなく、近づくだけで身体から発火し、成す術もなく肉が焼かれていく。瞬く間に、周囲は灰の山と化した。



『どう?召喚師をナメると地獄をみるわよ!灰になりたい奴からかかってきな!!』


―――――――――――――――


ザザザザザ・・・



戦場全域にて、敵将だけを次々と暗殺している一つの影があった。その影は西で目撃されたりはたまた東で騒動を起こしたりと、予測しがたい動きで戦況を混乱させていた。



その影の正体はミズにゃんだった。単独で動いているために、どちらの軍にも動きが予測できないが、冒険家側は元より作戦などないため混乱したとあれば攻め入るチャンスだ。同種族同士なら味方を間違えて攻撃してしまうこともよくあるが、今回はゴブリン族が相手だ。よって体格で敵を見分けることができる。



『あ、あそこにも小隊があるにゃん』



ミズにゃんは戦場を目まぐるしく動きまわり、目ざとく隊を見つけては自慢の爪でリーダーの首をはねる。攻撃スピードが早過ぎるが故、ミズにゃんの金属のような鋭利な爪は一滴の血も付着することがなく、切れ味を保っていた。



また一つ隊を見つけ、闇より奇襲を仕掛ける。が、



ガキィーーーン!!



『ほぅ、なかなかのスピードだ。さては、各地で小隊長を暗殺していたのはお前だな?』



今までにない反応スピードで爪を弾き返され、ミズにゃんはそこで初めて動きを止めた。

攻撃を防いだゴブリンは他の隊長クラスのものより大きく、小柄なゴブリン族にしては珍しく2m以上は身長がある。



ミズにゃんは手も使い4足の獣の様な動きで再び攻撃を仕掛けるが、またもや防がれてしまう。そのあとも幾度か繰り返したが、どれも同じく弾き返されてしまった。



『めんどくさいにゃあ〜』


『ふん、貴様ごときにこの軍が落とせるものか。我等ゴブリンはこれよりこの世界を制圧し、新たな国を築き上げ、支配者となるのだ』


『うるさいにゃん。もういいからさっさと終わらせてマスターのとこに帰りたいにゃん』



――ガルルルル・・・――



喋り終えたミズにゃんはもはや可愛いげのあった獣人族の少女でなくなっていた。いつもシューゴに手入れされている毛並みは荒々しく逆立ち、目は据わっていた。獲物を狙う目だ。完全なる野生、本来の職であるバーサーカーの状態だ。



凶戦士のミズにゃんは再び大柄ゴブリンに突撃し、それを先程と同じく受け止めるゴブリン。だが、今回は今までとは違っていた。



『何度やっても同じこと―――?』



気づいたときには既にゴブリンの上半身は宙に浮いていた。

ミズにゃんの今までセーブされていた力が解放され、一度は受け止められたものの、強引に振り抜いたのだった。



この後もしばらく凶戦士状態が続き、さらに戦場が混乱することになった。


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